風刺・戯文

言語化マジック

私は口下手で、いつもつまらない思いばかりしている。自分の意見や気持ちをはっきり言語化できるようになったらいいな、と思っていたところに、「最強言語化力育成キット」という教材に出会った。

この教材を活用すれば「思いのままの言語化力が身につく!」とある。なんでも言語化力を上げると、地頭もよくなるし、人たらしにもなるのだとか。価格は 20 万円だ。ウェブサイトを見ているうちに、私はこれしかないという気がしてきた。お金をかき集めてキットの購入に踏み切った。

数日して、「最強言語化力育成キット」が送られてきた。箱を開けて私は絶句した。中には国語辞典一冊と USB メモリがひとつ入っているだけだったから。私は震える手で USB メモリをパソコンに差し込んだ。国語辞典を AI が朗読したファイルだった。

私はキットの箱に書かれていたカスタマーセンターに電話した。すると、男が出た。返金を求める私に、男はこう答えた。

「承知いたしました。直ちに返金いたします」

「ではさっそく手続きを行なってください」

「はい。20 万円!」

電話が切れて、そのままいくらかけても繋がらなくなった。何日も考えたあげく気がついた。現金を言語化して返金されたのだ。

私は今、警察で被害を言語化しているところだ。

苦い文学

お花畑

「パヨクはお花畑、そう日本国民はおっしゃいます」と、案内人は私たちに言いました。

「そこで、みなさまにここにおいで願ったわけです」と、目の前に広がるお花畑を私たちに示しました。「日本の国民の方々は、お花畑という言葉で、私たちが何も考えていない愚か者だと嘲り、罵ります。ですが、よくご覧ください」

案内人は美しい花々に注意を向けました。「色とりどりに咲き誇っていると思いませんか? 考えてみてください。このお花畑を維持するのにどれだけの手間と時間かかっているか。それは決して簡単なことではないのです。ああ、ご覧ください」 案内人はお花畑の向こうからやってくる男を指差しました。

「あの方は、このお花畑の責任者なのです」 私たちはその園丁を見て笑わずにはいられませんでした。「男のくせにお花畑なんて!」 「男なら国を守るべきだろ!」

園丁は黙って軽く会釈をすると、屈んで花の世話を始めました。そのときです。一群の男たちが花畑にやってきて花を踏みにじり始めました。案内人が悲痛な叫びをあげます。すると、園丁は素早く立ち上がり、男たちの中に飛び込んでいくと、素手で格闘を始めました。パンチで撃ちのめし、回し蹴りを見舞い、当て身で突き飛ばし、たちまち乱暴者どもをなぎ倒しました。男たちは血まみれになって花畑の中に転がっています。

まるで映画のワンシーンのような光景に私たちは息を呑むばかりでした。案内人が興奮して叫びました。「あの方はああやって陰謀論者からこの美しい花園を守ってくれているのです!」

園丁は、筋骨隆々たる両腕を腰のあたりでぐいと引いて「押忍ッ」と私たちに挨拶すると、再び花の世話を始めました。

苦い文学

小数点以下の子どもたち

内閣は新しい少子化対策担当大臣に、日本一のバカを任命した。これまで頭の良い人々がなにをやっても成功しなかったので、逆の人に担当させてみたらうまく行くのではないかと考えたのだ。

バカで新しい少子化対策担当大臣は、就任にあたって次のように述べた。

「日本は世界でももっとも少子化が進んでいる国のひとつです。現在、日本の出生率は、1.26 %と過去最低を記録しています。これは、1 と 0.26 の子どもしか生まれないということです。このままでは日本がなくなってしまうので、私は全力をかけてこの問題に取り組みます」

そして、次のようなバカで骨太な政策を掲げた。

「任期中に、出生率を 2 %にまで上昇させることをお約束します。現在の 1.26 %のうち、課題なのは、0.26 という小数点以下の子どもたちです。これらの 1 に達しない子どもたちが、1 になったら、間違いなく出生率は 2 %になります」

さっそく大臣は、0.26 の子どもたちの支援を始めた。0.26 が 1 になるようにするのは非常に大変だった。教育も大事だし、家庭環境の改善も重要だ。所得も上がる必要がある。医療と福祉の果たす役割も不可欠だ。0.26 の子どもたちが、すこしでも 1 に近づけるように、大臣はさまざまな政策を実現していった。

バカな大臣のバカな政策だったが、不思議と出生率は上がりはじめている。

苦い文学

最後尾の人(2)

その日以来、尾藤は常に自分が列の最後尾にいるのに気がついたのだった。

電車を待つとき、職探しに並ぶとき、銀行のATMに並ぶとき……いかなる列でも、彼が一番最後だった。並びながら、いくども振り返った。だが誰もやってこなかった。

最初のうち、これは彼を苛立たせ、不機嫌にした。しかし、最後尾の日々が続くにつれ、不気味さがまさってきた。まるで最後尾の貧乏神に魅入られたかのようなのだ。

彼は抗った。最後尾から逃れようとした。列を見るや、割り込んでみせた。ああ、だが、その瞬間、割り込まれた人々はバラバラに散っていき、彼が最後尾となるのだった。

あるときは、どこからかこんな声が聞こえてきたような気がしてきた。

「あの背中!」

もしかしたら自分の背中に人を後ろに立たせるのに躊躇させる何かがあるのかもしれない。そんな思いにとらわれて、彼は背筋を伸ばしてみた、肩をいからせてみた、逆になでで肩にしてみた、さまざまな形の肩パッドを試してみた、すごく派手なスカジャンを着てみた……すべて無駄な試みだった。

果ては、列の呼び込みまで始めた。最後尾に立ちながら、道ゆく人に対して、食べ物なり商品なりを勧めて自分の後ろに並ばせようとしたのだ。だが、誰一人彼の言葉に購買意欲をそそられるものはいなかった。それどころか営業妨害だと警察を呼ばれるありさまだった。

これらさまざまな試みののち、彼は諦めた。この世には一番がいるように、最後尾になる人間もいなくてはならない、ということを受け入れた。彼はこの世界の最後尾だったのだ。

尾藤老人は死の床で青年に語った。

「ああ……それを認めるのは苦しかった。いや、それを認めてからも苦しかった……だが、高望みしてなんになろう……そうだ、高望みはするな……たとえそれが最後から2番目に繰り上がることだとしても……」

そう言い残して、老人は息絶えた。

看護師と医者が入ってきて最後の処置をはじめた。青年は、最後尾に取り憑かれた老人について考え、哀れに思った。そして、病室を出ようと立ち上がったとき、医者たちが驚きの声をあげた。

老人が息を吹き返したのだった。

蘇った老人は起き直ると、青年に向かって悲しげに言った。

「あの世に入る列に並んだら、まだ最後尾はいらないんだと」

その老人はいまも死ぬ順番を待っている。

風刺・戯文

MOTTAINAI

私たちの住んでいる市の中学校で、生徒が自殺した。原因はいじめだ。この悲痛なできごとをきっかけに、市民のあいだで市の教育のあり方を問い直す動きが生まれた。その結果、市長は深く謝罪するとともに、生徒の死を無駄にしないと誓い、「いじめ防止基本方針」を策定した。

また、私たちの市には魔の交差点といわれる場所がある。かねてから事故の多発する場所で、住民は長いこと市に対策を求めていた。市の反応は鈍いものであったが、先月、この交差点で児童の列にダンプが突っ込み、7人の犠牲者がでるという大惨事が起きた。ことここに及んで、ついに市は対策に乗り出した。市長は深く責任を痛感すると語り、こどもたちの死を無駄にしないためにも、市内全域の通学路の安全性を見直し、問題があればすぐに対策を講じると約束した。

コロナ禍による医療崩壊という出来事もあった。市の対応が不十分かつ適切であったため、多くの高齢者が亡くなったのだ。市長は直ちに記者会見を開いた。会見では、医療体制の充実を図ることで、高齢者たちの死を無駄にしない、と目頭を押さえながら陳謝した。

私たちは、次に死を無駄にされないのは自分ではないかと、もう戦々恐々なのだ。