では、その「地中海基層言語(前印欧語)」という謎の言語とはなんだろうか。ラテン語やギリシア語などの印欧語族が地中海世界に現れる以前に話されていたという言語は確かに存在する。よく知られているのは消滅したエトルリア語や現存しているバスク語だが、それ以外にもある。私としては、そこにベルベル語も入れたいところだ。
その特定はさておくとしても、この仮説の上にさらなる仮説を仮設したっていい。北アフリカのネコの qaṭṭūs/gaṭṭūs と語頭の[q, g, k]、そしてラテン語の cattus とロマンス諸語の gatto や gato を繋ぐ謎の言語が存在するという可能性だ。
例えば、その謎の言語に Xattūs に似たネコがいて、地中海沿岸に広がって、qaṭṭūs や gaṭṭūs や cattus や gatto(あるいは、マルタ語の ʔattus)などになった、というストーリーはどうだろうか。さらに、標準アラビア語の qiṭṭ やその方言形にだって関連がないわけが……。
「地中海、なめんなよ!」 学ラン姿のネコが一喝する。地中海の歴史はそんな空想を許すほど単純ではないということらしい。それに、仮説は仮説に過ぎない。結局のところネコの出身地はわからないままなのだ。だが、これは私の無学ゆえではなく、どうやら専門家にもわからないことのようだ。
つまり、わからなさが専門家級なのだ。専門家級の答えを出すことはついにできなかったが、そこまでたどり着いただけで十分ではないか。小さな音の違いから始まった話が、ついに地中海全体に広がった。そこにはアラビア語、ベルベル語、ラテン語以外にも考慮に入れるべき言語はたくさんある。しかも、言語だけでなく、人間の交流や歴史も関わってくる。猫の昼寝のようにのんびりと探究を続けるほかあるまい。
最後にひとこと。実のところ、私はこの問題に関する最重要人物をひとり見つけていた。私はその人に直接会って尋ねてみたい。もしかしたらその人なら、決定的な情報を教えてくれるかもしれないから。
その人はジェンナーロ・ガットゥーゾ(Gennaro Gattuso)。
会ってくれるかどうかもわからないが……。