散文

カとガ(6)

cattus の us は格語尾であり、これは単数主格形だ。ちなみに、単数対格は cattum、複数主格は cattī となる。

ラテン語は、俗ラテン語という中間的な状態を経て、のちにイタリア語、スペイン語、フランス語などと呼ばれるロマンス諸語へと発展していった。その際に、ラテン語の格変化はほとんど失われた。さらに、ロマンス諸語に受け継がれるさいには、主格形ではなく対格形のほうが残った、そんな噂を聞いたことがある。

そこで不思議なのは、ロマンス語では主格形はなくなりがちだというのに、なぜアラビア語方言では主格形の qaṭṭūs/gaṭṭūs がそのまま伝わったのか、ということだ。そして、もうひとつ重要なのは、格語尾は名詞の本体(語幹)に比べて音形の点で控えめであることが多いのに、qaṭṭūs/gaṭṭūs のシッポ ūs は長くて、しかもアクセントも乗っかっているのだ。ロマンス語では失われたシッポが、アラビア語方言ではむしろ長くなってフリフリと目立っているというのが、私には不思議でしょうがない。

もうひとつ不思議な点がある。それは女性形だ。cattus は男性形のオスネコで、メスネコの場合、catta と女性形になる。つまり、本体(語幹)は catt- であり、-us か -a で性別が変わってくる。アラビア語方言ではどうかというと、一般に男性形に -a を付け加えることで女性形が作られる。

qaṭṭūsa/gaṭṭūsa「メスネコ」

つまり、アラビア語方言ではラテン語の男性形 -us を含んだ形がそのまま本体になったということになる。もちろん、ラテン語とアラビア語方言では語の作り方が違うから、アラビア語で cattus ごとネコになってもいい。だが、その一方、すでに触れた標準アラビア語の qiṭṭ ではメスネコは qiṭṭa となる。だから、方言でも qaṭṭ/qaṭṭa がニャーとなっていてもいいのだが、方言によっては余分な ūs がついてくるのだ。

こうしてみると謎ばかりだ。だが、これらを一挙に解決する秘策がかねてから提案されている。