ラテン語が地中海圏の諸言語に与えた影響を考えれば、qaṭṭūs/gaṭṭūs が catus/cattus「猫」に関係があってもおかしくはない。そこで、もしも cattus が語源だとすると、次のような過程が想定できる。
cattus > qaṭṭūs > gaṭṭūs
しかし、それでも cattus と qaṭṭūs にはなお、以下の三点にまとめられるような隔たりがある。
① cattus の ca [ka] が、アラビア語では [qa] になっていること。
とはいえ、ラテン語にはそもそも [q] の音がないので、[ka] の発音のとき、母音の a の影響で、[k] が少し奥寄りになり、それをアラビア語話者が [qa] と聞き取ったという可能性も考えられなくない。
あるいは、cattus と、qaṭṭūs/gaṭṭūs を繋ぐ存在として、kaṭṭūs があったと考えたほうがいいかもしれない。
② tt が ṭṭ となっていること。
ṭ というのは、通常の t とは異なる音で、強調音と呼ばれる(咽頭化音とも)。この ṭ はラテン語にはないから、ラテン語の t が ṭ になった理由を考えなくてはならない。これについては、標準アラビア語の qiṭṭ の影響で t が ṭ に変わったという考え方もできる。
(複雑になるのであまり詳しくは書かないが、q もまた強調音的な特徴を持つので、q が ṭ を引き寄せたという可能性、あるいはその逆の可能性もありうる)
③ cattus の us が、qaṭṭūs では ūs になっている。
ラテン語では、u と ū は明瞭に区別されており、後代にはその区別がなくなるとしても、cattus の短い us が、qaṭṭūs では長い ūs に対応していることについて、特別な説明が必要となる。
それだけではない。この us と ūs の問題は、考えれば考えるほど謎が深まっていくのだ。