qaṭṭūs/gaṭṭūs について私は、三つの大きな謎があると思う。
1)アラビア語 qiṭṭ との関係
標準アラビア語には猫を表す qiṭṭ という語がある。qaṭṭūs/gaṭṭūs との類似性は明らかだが、相違点もある。まずは母音 i と a の違いだ。とはいえ、標準アラビア語と方言の間で語の母音が異なることはよくあるので、ひとまずは考えないでおく。だが、もうひとつの違いは重要で、qaṭṭūs/gaṭṭūs の -ūs だ。アラビア語に -ūs に似た要素は見当たらないので、この猫のシッポがどこからやってきたのかわからない。
2)ラテン語の catus/cattus との関係
qaṭṭūs/gaṭṭūs の語源については、ラテン語の catus/cattus に由来するとの説がしばしば唱えられてきた。まず前提として、ラテン語について述べると、これは古代ローマ人の言語で、この言語から現在のイタリア語、フランス語、スペイン語などのロマンス諸語が発生した。古代ローマ人は地中海世界と小アジアに広がる大帝国を築き上げたが、これにより、直接、もしくはギリシア語やシリア語などを経由して、アラビア語にも多くのラテン語由来の語が取り入れられている。
有名なのはコーランのいちばん最初の章に出てくる ṣirāṭ という語だ。これはラテン語の strāta に由来するとされている。なお、strāta の意味は、形を見ればピンとくる人もいるだろうが、英語の street とほぼ同じだ。