風刺・戯文

苦の世界

古書を買うのに「日本の古本屋」を使っている人も多いと思う。私もずいぶん購入しているが、まだ買い足りない。しかし、お金はもちろん、本を置く場所も、読む気もないというありさまなので、欲しいものはひとまず「気になる本一覧」に登録し、堰き止めている。あとは機の熟すのをただ待つ。

とはいえ「気になる本一覧」なので、気にならざるをえない。なので用もないのに覗く。すると、大事な気になる本が売れてしまっていることがある。最近見たら『宇野浩二全集 全十二巻 限定千部』が売り切れになっていた。状態も良さそうで、価格も一万四千円という掘り出し物だった。もっとも、すぐに必要なものでもなかった。そんなわけで、いつか買える日が来るのを楽しみにしながら、私はときどき眺めていたのだが、そんなささやかな楽しみもついに失われてしまったのだ。私は激しく後悔した。

最近のニュースによれば、日本の古書が大量に購入されて海外に送られているという。AIの旺盛な食欲の餌食となるさだめだ、ともっぱらの噂だ。私の宇野浩二全集ももしかしたら今頃、AIの胃袋に収まっているかもしれない。

それどころか、宇野浩二がお気に入りになってしまう可能性だってある。AIの財力からすれば限定千部の全集などペロリだろう。日本中の宇野浩二全集が今この瞬間に収奪されようとしている。なんという苦の世界だろうか。

危機感に駆られて私は「日本の古本屋」のサイトを開く。AIの暴走を食い止めねば、となかば祈るような気持ちで、宇野浩二全集の在庫を検索し、購入手続きに進む。