小説

古典化

父親と娘がレストランの席に座って、パスタが出てくるのを待っていた。そのレストランは渋谷のにぎやかな場所にあり、店内では若者たちがおしゃべりをし、外国人観光客がビール瓶を前にくつろいでいた。

親子は黙って携帯を見ていた。店ではずっとビートルズが流れていた。ミスター・ムーンライト、アイ・フィール・ファイン、サムシング……

十代の娘が顔を上げた。「この曲知ってる?」

父親はすぐに答えた。「ビートルズのストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」

「いいね」

「うん、この店、ビートルズしか流さないみたい」

ギターのコードが鳴り響き、ア・ハード・デイズ・ナイトが始まった。若々しい声と勢いのあるカッティングにしばらく耳を傾けていた父親は、携帯を見つめている娘に尋ねた。

「どう、ビートルズ気に入った?」

「いいね。けど……こんなお店で流れてるなんておかしいね」

「なんで?」

「もっと落ち着いた場所のほうが似合いそう」

歪んだギターリフとともに、アイ・ウォント・ユー(シーズ・ソー・ヘヴィ)が流れはじめた。