私はこの通りを毎日歩いていたから、酔っ払いや犬ばかりでなく、いろいろなものに気がついた。
ホテルの前には別の大きなホテルがあった。それは古いホテルで、正面は大通りのほうに面し、寂れた側面をこちらに向けていた。その側面の一部に、カフェの跡地があった。看板が掲げられ、シャッターが下ろされている。閉店してずいぶん経つようだった。
看板の下は、入り口で、少し空間がひらけていた。そこに、マットが敷かれ、ブランケットが丸められ、プラスチックのカップが置かれていた。誰かがここを寝場所としているのだった。
また、夜になるとホテルの脇の歩道に、ひとりの男が出現するのにも気がついた。短い髭を生やした細身の男で、いつも緑色のポロシャツを着ていた。私より年上に見えた。
男はビールケースを椅子にして座って、タバコを吸ったり、道行く人に声をかけたりしていた。観察しているうちにわかってきたのだが、駐車係をしているのだった。
例のレストランの客などがこの道に駐車しようとするときに、うまい具合に誘導し、さらには車を見張って、それで小銭を稼いでいるようだった。レストランの人や客たちと男がやりとりしているようすからは、彼が厚い信頼を勝ちえているのがうかがえた。あるとき、警察の車が彼のいるところに止まったので、私は「もしや?」と心配になった。警察車両から人が出てくる。男に声をかける。すると、駐車してあった車に乗って行ってしまった。「客」だったのだ。
ある日の昼間、ホテルに戻ろうとこの道に入ると、私はカフェの下のマットに、緑のポロシャツの男が寝ているのに気がついた。ブランケットにくるまって背を向けている。そして、彼の足元からちょっと離れたところに、あの犬がまるまって寝ていた。