風刺・戯文

お米の輸出に反対します

政府が、米の輸出量をこれまでの8倍に相当する35万3千トンにまで増やすという計画を立てた。これに今、日本中の群衆が怒り狂っている。

「米不足で、米の値段が高騰し、いずれ一粒百円にもなろうというのに、外国に売るとは!」
「貧乏人は麦を食えとでもいうのか!」「我々はゼロ穀米しか食べられないというのに!」

これに対して、冷静で理知的な意見を述べる声もある。米の輸出は、米の生産量の増加と生産基盤の拡充につながり、結果的に国内の米の供給と価格を安定させる、というのだ。

これはもっともな意見で、知的な私もそう思う。だが、そうであっても、私は米の輸出には反対だ。それは先にあげたようなヒステリックで不合理で非論理的な群衆の意見に同調してのことではない。

まったく違うのだ。私はこんなことをしでかす日本政府を恐れているのだ。

考えてもみてほしい。米は世界中にあるが、日本のような米は日本にしかないのだ。野坂昭如が「米を神のように大切にしているのは日本人だけだ」などとよく書いているが、これが本当かどうかはさておき、「日本の米を神のように大切にしている」のは間違いなく日本人だけだ。

日本の米は私たちを育み、精神を形づくり、日本の伝統を作ってきた。そう、日本の米は日本人の魂なのだ。

そんな日本人の魂まで外国に売ろうというのだから、海外出兵は間近だと見るべきであろう。

小説

切り取りの怪物(3)

切り取り報道をつなぎ合わせてできた怪物は、フラフラと街を歩きだした。まわりでは人々が悲鳴をあげ、罵り、嘔吐していた。彼の歩む道の先には線路があり、何本もの電車がけたたましい音を立てて、猛スピードで行き来していた。山手線、京浜東北線、東海道新幹線、西武新宿線、目蒲線……。

彼はまるで吸い寄せられるように線路に近づき、鉄柵をよじ登り、その上に立った。もはやひとつのことしか考えられなかった。轢き殺されてバラバラになって、もとの切り取り報道に戻ろうと、彼は突進する電車に身を投げた。

そのとき、あたたかい光が彼を包んだ。その光はふわりと線路から運び去り、安全なところに着地させた。そして、さらに驚くべきことが起きた。怪物の身体中にある切り取り報道のツギハギが、すっかり消えてしまったのだ。怪物はもはや醜くなかった。その肌はスベスベで、光り輝いていた。首に刺さっていたペンもポトリと落ちて、彼の足元に転がった。

光の中から、不思議な声が聞こえた。「私はファクトチェック機関のスタッフだ……切り取りだというお前の体の報道をひとつひとつファクトチェックしたところ、ぜんぜん切り取りではないことが確認できた……」

「フンガー!」 歓喜の叫びがその口から響き渡った。

そして今、人間となった彼は、愚かな保守政治家たちの歴史修正発言に目を光らせ、新聞をチョキチョキ切り刻んで、スクラップする毎日だ。(おわり)

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切り取りの怪物(2)

「フンガー!」

広い世界に飛び出した怪物は叫んだが、その声にはどこか物寂しげな響きがあった。なぜなら、怪物は、恐ろしげな外見とは逆に、純粋で美しい心の持ち主だったからだ。いや、そんな見た目だったからこそ、心がいっそう清らかになったのかもしれぬ。

そんな心美しい彼をもっとも苦しめたのは、出会う人出会う人、彼を見るや悲鳴をあげて逃げていくことだった。

彼は思わず醜い自分を呪った。「フンガー!」

そのときだ、耳をつんざくような叫び声が彼の耳に飛び込んできた。ハッと見ると、自動車が今にも子どもの列に突っ込もうとしているのだ。怪物は我を忘れて車の前に身を投げ、その車体を跳ね飛ばした。あわやというところで、子どもたちの命を救ったのだった*。

だが、なんということだろうか。子どもやその親たちは、怪物に感謝するどころか、ツギハギだらけのその姿に悲鳴をあげ、拳をあげて憎悪をむき出しにしたのだ。

「フンガー!」 怪物は絶望の呻き声をあげた。ああ、切り取り報道から生まれた存在に、この世の居場所などあるものだろうか?

(*怪物のいる前で、都合よくこんな事故が起きるなど、できすぎた話だと思う人もいるかもしれない。だが、我が国の車は子どもの列と見ると突進せずにはいられないのだから、こんなことは実にありふれた出来事なのだ。こうした事故を根絶したいのならば、もっとアメリカ車を輸入すべきだろう。)

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切り取りの怪物(1)

マスゴミどもの切り取り報道により、謝罪と辞職に追い込まれた元国会議員が、故郷の自宅の広大な敷地に秘密のラボラトリーを建設した。彼はそこで、狂気の実験を繰り返した末、恐るべき怪物を作り上げたのだった。

その怪物は今、全身ツギハギだらけという醜い姿で、巨大なベッドに横たわっていた。いかつい首の左右からは、マスゴミのペンが突き出している。元国会議員は唇を歪めて笑った。「フハハ、普通の人ならば一目見ただけで、そのおぞましさに気絶してしまうだろう!」

元国会議員はベッドの脇に設置されたレバーに手をかけた。「切り取り報道をつなぎ合わせて創造された我がモンスターよ!」 彼は、レバーを押し下げながら叫んだ。「目覚めよ!」

たちまち凄まじい閃光がほとばしり、その巨大な体躯が痙攣した。怪物はゆっくりと目を開けると上半身を持ち上げ、この世のものとも思えぬ恐ろしい叫びをあげた。元国会議員の声が響き渡った。「行け! お前を切り刻んだマスゴミどもを血祭りに上げ、恨みを晴らすのだ!」

「フンガー!」

モンスターは地響きを上げながら立ち上がり、ラボの壁を拳で打った。たちまち粉々に砕け散り、ぽっかりと穴が空く。そこから怪物は外へと出ていった。

風刺・戯文

餃子のタレ

私たちはそのとき、中華居酒屋で飲んでいたのだった。どうしたわけか政治の話になった。一人がこんなことを言って怒りだした。

「野党というのはいつも反対ばかりだ。反対するなら対案を示せばいいのに」

私はその人のことはよく知らなかったが、この意見を聞いてその人のことが多少わかった。あまり物を考えない人だ。だが、私は黙っていた。すると、私の友人が「なるほど」と応じた。「確かにそうだ」

彼は愚かどころか賢い人だったので、私は彼の言葉に内心驚き、また不愉快に感じた。私としてはこうしたつまらない話に付き合いたくはなかったのだ。友人はテーブルの上の餃子を指して反野党の人に言った。

「ところで、この餃子、メニューには『何もつけないでお召し上がりください』って書いてある」

「それが?」と反野党の人。「俺はね、お酢と醤油とラー油で食べたいんだ」と餃子をひとつ箸でつまむと、小皿に自分で調合したタレをたっぷりつけて食べた。

「野党ってのは、そのタレのようなもんだ」と友人は笑った。「向こうがいらないっていったって、自分好みの味に変えるのは自由だろ」

風刺・戯文

秘密の万博

ジャーナリストどもってのは心の歪んだ人々で、批判したり、けなしたりすることしかできない。私たちの万博だって、始まる前からさんざん文句を言うので、私たちはもうイヤになってしまった。

そこで私たちの為政者はついにこんなルールを定めた。万博に来場する人は絶対に万博のことを話してはいけない、と。写真も動画も配信も、ノーだ。これも卑しいジャーナリストどもから万博を守るための苦渋の決断だ。

そんなわけで万博が始まったが、私たちはそこで何が行われているのかまったく知らない。これはとても誇らしいことではないだろうか。規律正しい日本人だからこそできるのだ。それに知らなくてもまったく問題はない。私たちは素晴らしい万博がこの国のどこかで開催されているということだけでもう満足なのだ。

もっともジャーナリストというのは人間のクズだから、それでもあることないこと書き立てる。「万博の中は完璧な報道統制が敷かれているので、不倫好きな芸能人と野球選手がこぞって訪れている、なぜなら絶対に写真に撮られないからだ」だと。バカバカしいにもほどがある。

それどころか、マスコミがいないのをいいことに、悪人がやりたい放題だなんていってる。やりたい放題なのは、マスゴミさんではありませんか?

それに、こんな噂まで流してる。

「万博内に強制収容所とガス室が建設されて、毎日数十万人の外国人が殺害されている」

呆れるを通り越して腹立たしいばかり。私たちの素晴らしい万博を汚すこうした連中を、ガス室送りにする方法はないものだろうか?

風刺・戯文

ヴィランども

私は良い人間でも悪い人間でもない。でも、弱い人間が理不尽にいじめられているのを見ると、黙っていられない。

弱い人間とは、その人の強さ弱さをいうのではない。社会的に弱者とされている人だ。例えば女性。女性の中にはもちろん強い人もいっぱいいるが、その強さだけではどうしようもできない暴力にさらされている。そして、その暴力にもっとも苦しむのが、弱い立場にいる女性たちだ。

また難民もそうだ。難民というのは、国家という後ろ盾を失った人々であり、そうした人々はひとしなみに「うさん臭い、弱いもの」と見なされる。もちろん、難民にもイヤな奴はいくらでもいる。だが、イヤな奴だからといって、その人を不当に苦しめることはできない。

私は、これら弱い人々のために一生懸命働いてきた。だからといって、普通の人々を蔑ろにしているわけではない。こうした弱い人々が力をつけることが、結局のところ、それ以外の人々の生活の豊かさにつながるのだ。

そして今、人々は正義に飢えている。腐敗しきった世の中が正されるのをいまかいまかと待っている。「悪を懲らしめてくれ!」 そう口々に叫んで、新しいリーダーを求めている。人々は私の名を呼ぶ。前に立ってくれと、絶叫する。ついにそんな時代になったのだ。力あるヒーローが憎きヴィランどもを滅ぼす、そんなスカッとする世界がついに到来したのだ。

私もまもなくヴィランのひとりとして殺されるだろう。

風刺・戯文

闇のバイト

……ええ、吉田十郎です。26歳です。私はギャンブルのため、多額の借金を抱え、困っていました。仕事もありませんでした。お金を返せないので、怖かったです。

そんなとき、SNS でバイト募集を見つけました。車に乗るだけという簡単な仕事で、「高額」「即日即金」でした。はじめは怪しいと思いましたが、「ホワイト案件」と書いてあったので安心だと思い、スマートフォンで登録しました。

すぐに返事が返ってきて、バイトの登録のために身分証の写真や住所や家族の情報を送るように言われました。そうすると、Telegram に登録するよう返事があり、そこで集合場所を指示されました。

私はこの時点で怖くなり、「やめたい」と返事をすると、家族がどうなってもいいのか、と脅迫されました。家族に危険が及ぶのが心配になり、待ち合わせ場所に行きました。

朝早く、待ち合わせ場所に行くと、はじめてみる人たちがいました。みんな派手なジャンパーを着ていました。私は無理やり車に乗せられ、「車の窓から顔を出して手を振れ」と命令されました。イヤだと言うと、強く叩くので怖くて必死になってやりました。

それからのことはもうニュースになった通りです。私は最年少で議員に当選し、政府と政党から裏金を騙し取って、犯罪者に渡しました。

ええ、今の国会には、私のような闇バイト議員がたくさんいると思います。

風刺・戯文

未来の選挙

私は選挙制度についてはよくわからないが、このまま日本が少子高齢化を突き進み、地方の過疎化が進み、さらに東京に人口が集中していくと、将来、奇妙なことが起こりそうだ。

ひとつを除いたすべての選挙区が東京に吸収され、そのいっぽう、東京以外の選挙区はひとつに統合されてしまうのだ。つまり、日本全国東京以外はすべて同じ選挙区なのだ。

選挙になると、この選挙区の広大な領域内では、どこでも同じポスター掲示板が立てられることになる。何百キロ歩いても、同じ立候補者の顔ばかりだ。海を渡って沖縄に行っても同じだ。まるでお釈迦さまの指に出会った孫悟空のように、有権者は絶望する。

いっぽう、東京はどうだろうか。その頃には東京は日本中の人口のほとんどすべてが集中していることだろう。都内は巨大な超高層ビルに隙間なく覆われている。そんなビルが何百万とあるハイパーメガシティに、何十億という人々がひしめき合っている。

そして、その居住ビルひとつひとつが選挙区となっているのだ。立候補者もそのビルの居住者だし、投票するのもそのビルの居住者だ。

選挙のときになると、居住者たちは、自分たちが政治家を選んでいるのか、マンションの管理組合の理事長を選んでいるのか、わからなくなる。

風刺・戯文

国際カンケイ大研究!

今年の夏、国連が、アンケート「国家と国家のあいだに友情関係は成立する?」を大々的に実施し、その結果が公表されました! いったいどんな結果が出たでしょうか?!

「国家と国家のあいだに友情は成立すると思いますか?」という質問に、なんと半分以上の国家が「成立する」を選びました! 「成立しない」と「どちらともいえない」がそれぞれ約 20 %でした。以下、回答を寄せた国々からのコメントをご紹介!

【成立する派のコメント】
「我が国には友邦との強固な同盟関係が存在するため」
「たくさんの親日国に恵まれている我が国がその証だと思います」
「一部敵対勢力を除けば、すべての国家が我が帝国にひれ伏しているから」

【成立しない派】
「友人づきあいをしているうちに、いつの間にか敵意を感じるようになった」
「相手のふとした仕草が、思わず敵対感情を誘発して……その後はご想像にお任せします」
「ただの友達だと思っていたが、あるとき急に一方的に告白されて、開戦する事態に」

【どちらともいえない派】
「ほとんどの国家が友達未満敵以上なので」
「友人関係が成立したとしても、お互いの線引きが難しいから」
「友人関係から恋人関係、さらには結婚にまで至りましたが、その後関係が破綻し、二人の間に授かった領土の領有権をめぐって国際家庭裁判所で争う事態となった」

今回は「国家と国家のあいだに友情関係は成立する?」をテーマとしたアンケート結果をまとめました。結果を見るかぎり、世界平和はまだまだ、という感じですね!