苦い文学

真実のエイプリルフール

どうかみなさん、私の友人を助けてください。彼は今、この山のどこかでひとり怯えながら命を繋いでいるのです。これを一刻を争う状況と言わずしてなんと言いましょうか。

彼はこの 3 月 31 日深夜、ひとりでこの山に向かい、そのまま消息を絶ちました。どうしてそんな無謀なことをしたのかと、不審に思われるかもしれません。それはやむを得ぬことであったのです。純真で真面目な彼は、エイプリルフールに騙されるのはもう絶対にイヤだと、4 月 1 日だけ、人間たちから絶縁しようとしたのです。携帯電話も持たず、一日分だけの装備でこの山に篭ったのでした。

ですが、一日経ち、二日経ち、そして一週間が過ぎ去りました。彼の友人である私たちはいてもたってもいられず、この山を訪れ、捜索を始めました。

はじめはいかなる手がかりもありませんでした。もしや彼は亡くなったのでは、と落胆した私たちでしたが、そのとき、この山の麓の住人の方から思わぬ目撃情報が舞い込んできました。

「最近痩せこけた見知らぬ男が山道を歩いているのを見かけた。近づいて声をかけると逃げてしまった」

彼は生きていたのです! そして、議論の末、私たちはこう結論を出しました。

「彼はエイプリルフールが終わったことをまだ知らないのだ」

その日から私たちは山の中を「エイプリルフールは終了しました。なんの心配も要らぬから、一緒に帰ろう!」と拡声器で呼びかけながら歩き回りました。また「エイプリルフール終了セリ。直チニ下山セヨ」と書いたビラを空から山に撒きました。ああ、ですが、なんということでしょうか。こうした懸命の捜索の結果、昨日、私たちは山奥から「嘘つきー!」と叫ぶ声を耳にしたのでした。

もうこうなったら、私たちの手には負えません。みなさんの力をお借りし、多人数で捜索すれば、きっと彼を救助できるはずです。嘘に満ちた世界とたった一人で戦っている彼をどうか助けてください!

苦い文学

さとうもか@LIQUIDROOM

さとうもかのライブに行ってきた。

1 月から始まった弾き語りの全国ツアーの最後ということだが、今日は岡山時代からの友人のバンド、スピーチバルーンがサポートする「バンドセット」でのライブだった。

昨年の 11 月にもやはりバンドセットでライブをしていて、私はその時にも行っているが、ずいぶん演奏が軽やかで、ダイナミックになったように感じた。こういう音を出すのか、と感心する瞬間もあった。これはもちろん、私が二度目ということもあるかもしれないが、楽しめた。

セットリストは 11 月のように新譜「ERA」からの曲もあったが、私としては、2020 年のアルバム「GLINTS」からの曲(特に「GLINTS」「オレンジ」「愛ゆえに」)が、コロナの不安なときに繰り返し聞いていただけに、とくに感慨深かった。

「失恋」がテーマの曲が多いさとうもかだが、そのような曲のひとつである「Dear Stranger」(「ERA」収録)の前に、「失恋している人!」と客に呼びかけた。

何人か手が挙がったようだが、私は自分がそうではないのを残念に思った。恋愛に興味はないのだが、それでも失恋は可能だろうか、と考え、答えが出ないうちに、曲が終わってしまった。大きな宿題をいただいたというべきであろう。

苦い文学

除去の訴え

私も無職で、今なお就職できずにいるが、同じような境遇の友人がいた。私たちは互いに励まし合い、せっせと無駄に就職の書類を送っていたのだが、あるとき、彼が私にこう打ち明けたのだった。

「就職できないのは、実は刺青があるからなんだ……」

私は驚いた。おとなしい彼に刺青が入っているなど想像もできなかったからだ。「え、それは……」と絶句していると彼はいった。

「いや、ないよ、刺青なんか」

「なんだよ。びっくりさせるなよ!」 私は笑ったが、彼は真面目な顔つきでこういった。

「けど、そうじゃなきゃ、どこに行っても拒絶されることの説明がつかないよ……だからさ、もしかしたら、と思ったんだ」

私には彼の苦しみが痛いほどわかった。できるだけ励みなるようなことを言おうと頑張ったが、彼はどことなく上の空で聞いているようだった。

それからしばらくして、彼が、近所のクリニックに押しかけて、大騒ぎを起こしたと聞いた。刺青を除去してくれと、しきりに訴えたのだ。もちろん、彼には刺青などないのだから、消すことなどできない。それでも、消してくれと言い張って動かないので、ついには警察を呼ぶまでになったという。

なんとなくだが、彼が何を消そうとしていたか、私にはわかるような気がする。

苦い文学

夫婦別姓の真相

あなたは、ある人が夫婦別姓の賛同者ということを知ったら、その人についてどう思うだろうか?

リベラル、個人を尊重する人、フェミニスト、新しい社会を見据えた人、革新政党支持者……、そうポジティブに捉える人もいるだろう。

だがそのいっぽう、別の人は、家族と伝統を破壊する淫乱な悪魔、反日主義者、日本の敵、とみなすかもしれない。そうした人にとっては、夫婦同姓こそが、日本の揺るぎない伝統なのであり、真の保守ならば命を賭しても守らねばならないものなのだ。

だが、はたして、この問題はそのような思想上の問題、つまり右と左の闘争なのだろうか? 私はそうではないと思う。右にせよ左にせよ、マスコミが作り上げた虚像に過ぎないのだ。

なぜなら、私が独自に行なった調査によれば、夫婦別姓の反対者と賛成者のそれぞれに次のような傾向が見られたからだ。ご覧いただきたい。

夫婦別姓に反対の人の苗字:佐藤、鈴木、高橋、田中、伊藤、渡辺、山本、中村、小林、加藤、山田など

夫婦別姓に賛成の人の苗字:小鳥遊、四月一日、道重、九十九、安蒜、肉丸、興梠、根路銘、武者小路、岩迫、七五三掛、熊切など

そうなのだ。この問題は、思想問題ではなく、苗字の生き残りをかけた戦いだったのだ。

苦い文学

Finds You Well

Dear my friend,

I hope this email finds you well.

If it does not find you, it will follow you until it does. For it finds you well.

You can go somewhere. You can find a safe place to hide. I am sure you will. But you can’t escape. This email has super nice eyes, ears, and nose. It sees wherever you hide, well.

You may take a bullet train, a plane, or any other hi-tech vehicle, thinking you can escape.

Too bad you don’t know that this email is the fastest. It goes everywhere in an instant.

No, don’t escape. Don’t be afraid. Just stay where you are. It won’t hurt you or kill you. It only comes to find you well.

It doesn’t care if you are well or not. Even if you’re dead and are buried, it finds you, certainly well.

All the best,
The Sender

苦い文学

国外追放

【ザンゲー通信社:記者の目———独自の視点でニュースを解説】
アメリカのトランプ政権が、約 53 万人の中南米出身の移民の滞在資格を取り消し、合法的な滞在資格がなければ、国外追放するとのことです。

この 53 万人のうちどれだけが強制送還の対象となるかわかりませんが、これがトランプさんが追放したい移民の全部というわけではありません。アメリカの「不法移民」は 1100 万人以上いるということですから、なかなか大変です。

2024 年のアメリカの強制送還数は 70 万人だそうです。トランプ政権になってから、毎月の強制送還数は減っているということですから、これが今後ペースアップするといっても、いきなり 2 倍 3 倍になるとは考えられません。果たしてトランプさん、任期中に片付けられるのでしょうか。

しかも、強制送還というのは非常に手間と労力がかかります。トランプ政権には法手続きの問題はいっさいありませんから、これは無視できるとしても、「不法移民」の逮捕の問題や、移送までの収容設備と移送手段の確保はそう簡単ではありません。しかも、これらのすべてに莫大な経費がかかります。

強制送還は思ったよりも簡単ではないんです。そこで、アメリカでは「むしろ、逆にトランプ大統領を国外追放したほうが安上がりなのでは」などと真剣に議論されているそうです。

我が国に FedEx で送られてこないことを願うばかりです。

苦い文学

ガハハとウヒャヒャのいる店

居酒屋で飲むグループはたいてい二つに分けられる。ガハハ群と、ウヒャヒャ群だ。

どちらの背広を着た人たちが多い。おそらく、ネクタイに締め付けられていた喉を急にアルコールに晒すことによって発生する痙攣を、うまく利用しているのだろう。

このガハハとウヒャヒャにどんな機能があるかというと、ナワバリの誇示だ。「自分たちはこんなにガハハだぞ」「いや俺たちのほうのウヒャヒャにはかなうまい」 居酒屋内では、客のグループがそんなふうに競い合っているのが観察されている。

あるとき、いつも一人での酒を飲む私が、たまたまガハハ群とウヒャヒャ群の間に座ることになった。ガハハとウヒャヒャがずっと私の左右に聳え立っていた。まるで険しい山のようだった。私は酒を味わいながら、自然豊かなその山々を見つめていた。

そうした経験もあり、私もガハハとウヒャヒャをやりたくなった。ガハハとウヒャヒャに守られて、酒を飲んでみたくなったのだ。だが、どうやっても私の喉は痙攣してくれなかった。もしかしたらなにかが自分には欠けているのかもしれない、と悔しくなった。私はガハハとウヒャヒャの世界から締め出されていたのだ。

だが、私のような人はたくさんいるものらしい。「ガハハとウヒャヒャのいる店」という居酒屋では、客が希望すれば、ガハハかウヒャヒャの音声を発するスピーカーを持ってきてくれる。毎晩の酒宴がもう楽しみでしかたがない。

苦い文学

バブルのトラウマ

私たちはバブル崩壊以降、なんでも膨らむものに警戒するようになってしまった。なぜなら、それは必ず破裂するからだ。バブルの破裂があまりにも衝撃的だったため、網で餅を焼くのさえ怖くなってしまった。アツモノに懲りてナマスを吹くありさまだったのだ。

経済のどんなに小さな膨らみでも、私たちはもうドッキリ番組の巨大風船のようにハラハラしてしまう。大慌てで叩き潰さずにはいられないのだ。

もう膨らむ経済はゴメンだ。だが、どうしたらいい? 私たちは考えに考えた末、ついに結論に到達した。経済を回すのだ。それ以来、私たちはシャカリキになって経済を回してばかりいる。

そんなとき、中国でどんどん富豪が誕生し、裕福な中国人が爆買いにやってきた。経済を回すのにかかりきりで飲まず食わずの私たちは、回す手を休めて、こうつぶやいたものだった。

「かわいそうに、そのバブルはきっと破裂するのに」 そして、私たちは再び経済回しに取りかかった。だが、それから何年経ったことだろうか。中国のバブルはいっこうに破裂せず、その気配すらない。そのいっぽう、経済を回す私たちの腕は痩せ細り、目も回ってフラフラしている。

もしかしたら、と私たちは考えた。私たちは間違っていたのかもしれない。バブルとは崩壊するに決まったわけではないのでは? そうだ。破裂しないバブルもあるのだ!

私たちはもう経済を回すのはコリゴリだ。回せば回すだけ、経済は碾き臼のように私たちの体を粉砕していくのだから。やはり、私たちにはバブルしかないのだ。

バブルのトラウマはもう終わりだ。アツモノに懲りるのはやめよう。そして、ナマスを吹くその息で、世界一のバブルを膨らませよう。

苦い文学

誰ひとり取り残さない

世界と人類がよりよく存続するために、2015 年、国連総会で採択されたのが「持続可能な開発目標」、略称でSDGsと呼ばれる 17 の目標だ。私はこの目標のどれも素晴らしいと思っている。

だが、素晴らしいのはそればかりではない。これらの目標の実現にさいして、「誰ひとり取り残さない」ことが重視されているのだ。つまり、この目標は一部の特別な人のためではない、そう、私のためでもあるのだ。

私はこの SDGs のことを聞いてからというもの、国連からの連絡を心待ちにするようになった。もちろん、私にもわかっている。世界にはたくさんの人がいるから、いくら誰一人取り残さないと言っても、順番というものがある。いきなり全員など無理なのだ。

「今ごろ、国連はどこの国の人に連絡をしているだろうか。日本は有名で素晴らしい国だからきっと最初のほうに連絡をするに違いない」

「しかし、日本だってたくさん人がいるのだから、一人一人連絡するのは大変だぞ……きっと一斉メールで通知が来るのだろう」 だが、待てど暮らせど連絡がない。私はだんだん不安になってきた。

「もしかしたら、私のことを忘れたのでは? ミスかなにかで! あれほど、誰ひとり取り残さない、と言っていたくせに!」

明日の朝、私は始発に乗って、東京の国連の事務所に行くつもりだ。もしかしたら、自分だけ取り残されたのではないか、と思うと、もう居ても立ってもいられないのだ。

苦い文学

Apple Music の手(2)

Apple Music が、私たちの洋楽ライブラリをどんどんカタカナにしてしまっているということを書いたら、こういうお声をいただいた。

「まったく同感です。アーティスト名がカタカナだと、もとの綴りがわからない場合があって、Wikipedia などで調べたいときにちょっと困ります」

また反論もあった。「それなりの知名度のミュージシャンでもアルファベットのままだぞ。Dinosaur Jr. とか、Yo La Tengo とか」 確かにそうかもしれないが、そうしたミュージシャンも半年後には、カタカナになっているかもしれないのだ。

そして、ある人がこう言うのには私はうれしくなってしまった。

「XTC、R.E.M、U2 はどうだ。これらはカタカナになっていないではないか」

私はさっそく Apple Music の NRBQ のページを開いてみた。NRBQ だ。私は「ついにカタカナの侵食を食い止めてくれたか……」と感慨深く眺めていたが、やがて恐ろしいことに気がついた。

「いや、もしやこれは日本語のローマ字であって、英語のローマ字ではないのではないか。ああ、FRUIT ZIPEER や ME:I がカタカナにならないのは、これは日本語のローマ字だったからなのだ!」

バカげているとお思いになるかもしれないが、これが真実なのだ。