苦い文学

地獄

一流の人はみな人格者ばかりだ。いや、心がやさしく、人間的にも優れているからこそ、トップの座にのぼりつめたといっていい。

そして、二流三流、その下の下流はといえば、卑しく、悪どい連中ばかりだ。というのも、もしもこれらの輩に、ほんのかけらでも徳というものがあれば、そんな底辺で燻っているはずなどないのだ。

下流の人々は妬みでいっぱいだ。「一流の人間が名声も、富も、才能もすべて独占してしまうなどずるいではないか」 そこで、一流の人間が失敗するようにいつも呪いをかけている。

この呪いがけっこう効くのだ。一流の人々が、パワハラ、セクハラ、性暴力などで落ちぶれていくのはこのせいだ。一流の人々は人格者なのだから、そんなことをするはずがないのに、こんなことが起こるとは、下流の人間たちの呪い以外ないではないか。

下流の人々は「自分たちは社会正義を実現した」と公言して憚らない。

そこである人が、下流の人々にこう尋ねた。「社会正義というけれど、その実現のために、女性たちがパワハラや性暴力に苦しまねばならないとは、理不尽ではないのか」

すると、下流の人々はこう答えた。「ええ、ですので、私たちは女ばかりでなく、男も性暴力の被害に遭うように、バランスを心がけています」

すでに地獄になったのか、とその人は感心したそうだ。

苦い文学

カルチャークラブの戦争はんたーい!

拘置所にいる友人から手紙が送られてきた。以下に書き写す。

……僕が犯した罪についてはもう聞いているだろうか。弁護士に説明しても理解してもらえなかったから、こんな手紙を送ります。

Colour by Numbers って、カルチャークラブのアルバム、1983 年に出たんだけど、僕が聞いたのは中学生の頃だった。誰もが衝撃を受けたよね。僕もそうだったんだけど、そのとき僕は自分が他の人と違うということに気がついたんだ。

アルバムのジャケットを覚えているかな。カラフルなジャケットの右半分にボーイ・ジョージの顔があってね。僕はこのジャケットを見たとき、それまで味わったことのない感情を感じた。というのも、ボーイ・ジョージの隣にこんなふうにカタカナが書かれていたから。



僕がショックを受けたのはこれなんだ。この「ー」なんだ。僕はなんだか横書きの「ー」を縦にしたくなった。思い切ってジャケットを横に回してみた。すると「ー」は「|」になったけど、なんと「ボ」と「イ」は横になってしまったんだ! 僕は怖くなってレコードを押入れの奥にしまって、それきり忘れてしまった。

ところが、それから何十年も経った後に、外を歩いていると、不意に「カーマは気まぐれ」が耳に飛び込んできたんだ。そのとき、あの思い出が蘇ってきた。あのときよりももっともっと強烈に。

そのときたまたま、外国人観光客が目に入った。自撮り棒を片手に動画を撮りながら歩いている。横にしたり縦にしたり、横、縦、横、縦……僕はもう見境をなくして、その自撮り棒を奪い取って、真っ二つに折った……どうしようもなかったんだ。

弁護士が言うには、僕は裁判にかけられるそうだ。法廷では「Do You Really Want To Hurt Me」を歌うつもりでいるよ。

苦い文学

The pre-fucking-sident

“fucking” を辞書で調べると、「ひどい、いやな」などを意味する「無意味な強意語」だということだ。以前、何かで読んだのだが、この “fucking” の特徴は、どこにでも現れるということなのだそうだ。

「Where’s my fucking phone?!」「Are you fucking serious?」のように名詞や形容詞の前に現れるし、「She fucking ignored me.」のように動詞の前にも現れる。また副詞の前だっていい(「He came fucking out of nowhere!」)し、「No, we fucking won’t.」のように助動詞の前だって平気だ。

しかも、単語の中にだって入り込んでしまうというのだ(例:abso-fucking-lutly、un-fucking-believable、fan-fucking-tastic)。

これほど自由に動くことのできる神出鬼没の fucking なのだから、ついに文から飛び出して、大統領になっちゃったとしても、とくに驚きはない。

苦い文学

ポケットの中の紛争

嘘か本当かわからないが、都内に住む吉田さんのズボンの左ポケットを、某国が自国の領土だと主張しはじめた。

そればかりか、吉田さんのポケットの周囲で軍事演習を行って威嚇する始末だ。ついには、吉田さんがポケットに手を突っ込むと内政干渉だと警告を発するまでになった。

吉田さんは左ポケットを自分のものだと固く信じていたから、こうした脅しには屈しなかった。いつも通り、左ポケットに財布や飴玉などを入れていたのだった。

しかし、昨日、吉田さんが支払いをしようと左ポケットから財布を取り出そうとしたとき、予期せぬことが起きた。他人の手がポケットに侵入してきたのだ。その手は、吉田さんの財布を掴むと、奪い取った。某国がとうとう実力行使に出たのだ。

だが、吉田さんも負けてはいない。彼の手はただちに某国の手先につかみかかった。ポケットの中の小競り合いはエスカレートし、ついに激しい紛争が始まった。侵略者の手は強力だった。しかも手ぶらじゃない。いっぽう、吉田さんの手はというと、まさしく徒手空拳のありさまだ。お手上げとなるのも時間の問題かと思われたそのとき————

ポケットの近傍に配備されていたミサイルが、なぜかむくむくと起き上がり、発射。某国は撤退し、吉田さんはポケット防衛にみごと成功した。

吉田さんの周りいた人々は、その勝利に歓声をあげた。だが、誰一人として吉田さんに近寄って抱きしめたり、握手したりしたがらなかったのは不思議だ。

苦い文学

トランプ関税クライシス

それでは経済ニュースです。

(トランプ大統領の映像)トランプ大統領が発表した「相互関税」で世界中がパニック状態に陥っています。

(株式市場の映像)実際に関税が発動する事態になれば、世界的な景気後退が予測されるとあって、金融市場はすでに大混乱。

(自動車輸送船に向かう輸出車の列の映像)日本の経済界も不安とともに事態を見守っています。トランプ関税により、日本の主要産業である自動車関連企業が大きな打撃を受けるからです。

(エコノミスト登場)「日本の自動車産業にとってアメリカは大きなマーケットですから、関税により大幅な減収となるのは間違いありません。これは自動車産業だけでなく、日本社会全体にとって危機的状況です」

(都内の町工場の情景)そんななか———ここは東京足立区綾瀬にある工場。混迷する経済をよそに工場はフル操業を続けています。

(作業服の社長が語る)「ええ、もういくら生産しても追っつかない状況が続いています」

(記者、驚く)「これがみんなアメリカに輸出されるのですか?」

(社長)「そうです」

この企業が製造しているのはなんと関税。アメリカではトランプ大統領があちこちに関税をかけすぎたせいで、深刻な関税不足となり、それを補うために、日本や中国から輸入しているとのことです。

(アメリカ人のバイヤーが関税の味見をする様子)「うん、素晴らしい品質です。全部ください」

(社長がバイヤーと握手する様子)あっという間に商談がまとまりました。

日本の関税は、ヘルシーなイメージから、今後もますますアメリカでの需要が高まる見通しです。

苦い文学

たてつけ力

新社会人のみなさん!

社会人の先輩である私からみなさんにお伝えしたいのは、ぜひとも、「たてつけ力」を磨いて欲しいということです。

こう言いますと、新社会人の中には「たてつけ? 障子の開け閉め?」「ん? 改造車のこと?」などとお思いになる方もいるやもしれませんが、私がいう「たてつけ」は違います。これはビジネス用語なのです。

みなさんもそのうち、上司や先輩がこう話すのをきっと聞くことでしょう。

「この制度は、こういうたてつけになっている」「A の場合は、B として処理されるたてつけだ」

このとき「たてつけ? えっ、わからない!」などと、慌てる必要はありません。「たてつけ」という言葉は、意味がわからなくてもなんとなく使っていい、そういうたてつけになっているのです。

さらにみなさんは、この言葉の表記にも大いに迷うことでしょう。なぜならある文書には「立て付け」、また別の文書には「建て付け」と書かれているのですから。でも、心配は無用です。そういう勃て付けなだけなのです。

このように急なたてつけに出会っても動じないのが「たてつけ力」です。この能力こそが、ビジネスパーソンとしての成長に不可欠だ、ということを、最後にたてつけて、終わりたいと思います。

苦い文学

女も加害者

男たちはもう我慢できなかった。「フェミどもはどうして男ばかり責めるのだろうか? なぜ男ばかりいつも悪者なのだろうか?」 「そうだ、女たちはいつも責め立てる。『男は加害者だ! 男たちのせいで女たちは苦しんできた!』と!」 「そんなのは嘘だ! 男たちはいつも女にやさしくしてきたではないか。選挙権も人権も専用車両だって欲しがるままに与えてきたではないか。それをいきなりこんなことを言い出すとは、狂っている!」

男たちは「女だって加害者だということを、俺たちが証明してやろうではないか!」と口々に叫びながら研究所に乗り込むと、女の研究者を追い出して、男たちだけで秘密の研究に取りかかった。そして、数ヶ月後、最悪の加害者女が誕生した。

【最悪の加害者女の特徴】
・すぐ男を殺す。
・自分が50代なのに20代の男に好かれると思っている。好かれないとすぐ殺す。
・騙して自分の家におびき寄せ、性暴力を振るう。その後、税金のかからない範囲で見舞金を送る。

男たちは叫んだ。「これを見ろ! 女も加害者ではないか!」 「そうだ、こいつを作るのに、俺たちは、何人もの女の体をツギハギにしなくてはならなかった!」 

そのとき、最悪の加害者女が、恐ろしい叫びをあげた。檻をぶち破り、刃のような牙と鋭いツノで、男たちを串刺しにした。そして、国連女性差別撤廃委員会に出席するためにどこかの山に消えていった。

苦い文学

真夜中のストリートピアノ

僕たちの街から、ストリートピアノがなくなっちゃったんだ。街の広場にあるそのピアノで僕たちはいつも遊んでたのに。ギャンギャングワングワン叩いたり、ポロンポロンキャンキャン弾いたり、ツタタタタタタンと楽しんだりしてたんだ。

だけど、ある朝、こんなふうな張り紙がしてあったんだ。

「ストリートピアノは、プロのピアニストが無料で弾くためのものです。それ以外の人は汚い手で触らないでください。市長より」

僕たちみんな、がっかりしたんだ。そしたら、大人たちが怒り出したんだ。

「ストリートピアノは、誰でも自由に弾くためのものだ!」

「プロが無料で、だなんて、厚かましいにもほどがある!」

とうとう大人たちが市役所にまでやってきて、大声で叫んだものだから、市長は謝って、この街にストリートピアノがあるとロクなことにならない、ってどこかに持っていってしまったんだ。

それからしばらくして、革命が僕たちの街にもやってきたんだ。

市長は革命軍の仲間になって、ピアノのときに反抗した大人たちを全員捕まえて、その夜、街の広場で全員の頭をかち割ったんだ。ちゃんとドレミの音が聞こえたよ。

苦い文学

真実のエイプリルフール

どうかみなさん、私の友人を助けてください。彼は今、この山のどこかでひとり怯えながら命を繋いでいるのです。これを一刻を争う状況と言わずしてなんと言いましょうか。

彼はこの 3 月 31 日深夜、ひとりでこの山に向かい、そのまま消息を絶ちました。どうしてそんな無謀なことをしたのかと、不審に思われるかもしれません。それはやむを得ぬことであったのです。純真で真面目な彼は、エイプリルフールに騙されるのはもう絶対にイヤだと、4 月 1 日だけ、人間たちから絶縁しようとしたのです。携帯電話も持たず、一日分だけの装備でこの山に篭ったのでした。

ですが、一日経ち、二日経ち、そして一週間が過ぎ去りました。彼の友人である私たちはいてもたってもいられず、この山を訪れ、捜索を始めました。

はじめはいかなる手がかりもありませんでした。もしや彼は亡くなったのでは、と落胆した私たちでしたが、そのとき、この山の麓の住人の方から思わぬ目撃情報が舞い込んできました。

「最近痩せこけた見知らぬ男が山道を歩いているのを見かけた。近づいて声をかけると逃げてしまった」

彼は生きていたのです! そして、議論の末、私たちはこう結論を出しました。

「彼はエイプリルフールが終わったことをまだ知らないのだ」

その日から私たちは山の中を「エイプリルフールは終了しました。なんの心配も要らぬから、一緒に帰ろう!」と拡声器で呼びかけながら歩き回りました。また「エイプリルフール終了セリ。直チニ下山セヨ」と書いたビラを空から山に撒きました。ああ、ですが、なんということでしょうか。こうした懸命の捜索の結果、昨日、私たちは山奥から「嘘つきー!」と叫ぶ声を耳にしたのでした。

もうこうなったら、私たちの手には負えません。みなさんの力をお借りし、多人数で捜索すれば、きっと彼を救助できるはずです。嘘に満ちた世界とたった一人で戦っている彼をどうか助けてください!

苦い文学

さとうもか@LIQUIDROOM

さとうもかのライブに行ってきた。

1 月から始まった弾き語りの全国ツアーの最後ということだが、今日は岡山時代からの友人のバンド、スピーチバルーンがサポートする「バンドセット」でのライブだった。

昨年の 11 月にもやはりバンドセットでライブをしていて、私はその時にも行っているが、ずいぶん演奏が軽やかで、ダイナミックになったように感じた。こういう音を出すのか、と感心する瞬間もあった。これはもちろん、私が二度目ということもあるかもしれないが、楽しめた。

セットリストは 11 月のように新譜「ERA」からの曲もあったが、私としては、2020 年のアルバム「GLINTS」からの曲(特に「GLINTS」「オレンジ」「愛ゆえに」)が、コロナの不安なときに繰り返し聞いていただけに、とくに感慨深かった。

「失恋」がテーマの曲が多いさとうもかだが、そのような曲のひとつである「Dear Stranger」(「ERA」収録)の前に、「失恋している人!」と客に呼びかけた。

何人か手が挙がったようだが、私は自分がそうではないのを残念に思った。恋愛に興味はないのだが、それでも失恋は可能だろうか、と考え、答えが出ないうちに、曲が終わってしまった。大きな宿題をいただいたというべきであろう。