苦い文学

経済回せ!

「経済回せ!」が私たちの合言葉。それこそが、この停滞しきった日本を甦らせるたったひとつの方法だ。

経済が回れば、金が動き、人々が潤う。金が血のように日本全体をめぐり、私たちに生命を与える。

だが、経済をどうやって回せばいいのだろうか? 「そもそも経済が回るものなどと知らなかった!」 こんなふうに叫ぶものすらいるありさま。

有名な経済学者が提案した。「経済を回すには富裕層の力がどうしても必要だ。なぜなら、経済を回すには経済力がモノを言うからだ」

私たちは富裕層に頼み込み、その力を借りて回すべき経済の開発に打ち込んだ。そして、それはついに完成した。経済を回す時がやってきたのだ。

私たちは管制センターに陣取り、モニターに映された巨大な構造物を注視した。準備万端だ。秒読み開始!

10、9、8……。エネルギーが満ち、経済機構がうなりはじめる。5、4、3……経済指数が限界まで上昇する!

2、1、回せ!

ミシミシと地響きを立てて経済が動き始める。回った! 成功だ! 私たちは歓声を上げ、互いに抱き合った。

そして、回り出した経済は私たちをバリバリと巻き込み、富裕層以外のすべての人々を挽肉にすると、どんな災害よりも激甚に日本を破壊して、海の底に転げ落ちていった。

苦い文学

パワーストーン(2)

「賢者の石?」 友人は酔いが覚めたようだった。「無限の富と不老不死をもたらすという?」

「そのとおりです。私はこの石だけが欲しいのです。私は賢者の石を作る資金が底をつくと、こうやって石を売り歩くというわけです」

「しかし、賢者の石はヨーロッパのものでは?」

「ああ、賢者の石に国境はありません。日本でも十分可能なのです」

「それは知りませんでした」 友人の口調が丁寧になったのに私は気がついた。

「じっさい、この日本でも賢者の石の存在することが古くから言い伝えられてきたのです。賽の河原の伝承はご存知ですか」

「ええ、三途の川の河岸で、子どもたちが石を積み上げていると鬼がやってきて崩す、という話ですね」

「その物語には、日本における賢者の石の謎が隠されていたのです。つまり、子どもたちとは私たち人間です。そして石を積み上げるプロセスそのものは……」

「賢者の石の生成過程だと。だが、鬼がこれを崩してしまう、これはいったいなんなのです」

「ええ、そこが問題なのです。私は当初、石を最後まで積み上げることが賢者の石の完成を意味し、鬼とはそれを妨げるものだと考えていました。そこで、この鬼とはなにか、そしてその鬼を排除する方法を長い間探し求めていたのです。ですが、これはまったくの間違いでした。鬼が石を崩したのち何が起きるか、ご存知ですか」

「もちろん」と友人は震える声で答えた。「地蔵が現れて子どもを救うのです。では、賢者の石とは……」

「そうです。地蔵です。地蔵とは《大地の宝蔵》を意味する言葉です。地蔵こそ最強のパワーストーンだったのです」

しばしの重い沈黙ののち、友人が口を開いた。その声には興奮があった。

「では、どうやってその地蔵を手に入れるのです」

「ああ、そのためにはいくらお金があっても足りないということ以外、お教えできません。私は象徴でもって語りました。お話しできるのこれだけです……とんだ無駄話をいたしました。そろそろ店じまいとしましょうか」

「そんな! 資金難とおっしゃっていましたね。どうか私に支援させてください」

友人の懇願にもかまわず、老人は並べられた商品を片付け始めた。机の下から箱を出し、ひとつひとつ仕舞っていく。

そのとき、罵声が響き、私と友人は強い力で突き飛ばされた。いかつい男たちが机につかみかかってひっくり返した。パワーストーンはきらきら輝きながら地面に散り、あちこちに転がっていった。「誰に許可もらってここで商売してんだ!」 男たちは老人を投げ飛ばし、その懐から、売り上げとおぼしき金銭を掴み取った。

私たちは大慌てで立ち去った。そして、賢者の石を手に入れた老人が、いつかこれらの鬼たちを懲らしめる日が来るようにと祈った。

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パワーストーン(1)

夜通し酒を飲み、友人たちと初詣に出かけたら、屋台がいろいろ並んでいた。「お、こりゃなんだ」と酔っ払った友人がそのうちのひとつに目をつけた。それは小さな机だけの店で、「開運! パワーストーン」と書かれた紙が貼ってあった。

覗いてみると、キラキラした石でできた小物が並んでいる。友人は水晶とローズクォーツのブレスレットを指差し、説明書きを読んだ。

「金運・財運のブレスレットか。そしてこっちは」とネックレスを指した。「厄除け・健康・開運をもたらすラピスラズリとタイガーアイの希少品、だとさ」

こうつぶやきながら友人は、この小店の主人をじろじろ見た。くすんだ防寒着に、穴の開いた手袋、毛玉だらけのニット帽のくたびれきった老人で、しきりと鼻を啜り、顔色も悪かった。友人は頭を振りながら主人に尋ねた。

「金運だ開運だなんだいうが、おじいさん、嘘じゃないの? ほんとだったら、こんなところで石売ってるわけなんかないよね」

私はひどく困惑した。友人は酔うといつもこうなのだ。すると店の人はこういった。

「ええ、その通りですね。どうして私が元旦からこんな寒いところでこんな商売をしているかというと」と、彼は裾を捲り、痩せた手首を見せた。そこにはパワーストーン・ブレスレットがいくつも巻きついていた。

「これらが私にもたらしてくれるどんな金運も追っつかないほど浪費してしまうからです。それで、しかたなく、こんなことをしているのです」

「じゃあ、その無駄遣いをやめりゃいいんじゃない」と友人はさらに絡んだ。

「ああ、いまさらそれは無理です。なにしろもう気の遠くなるような長い年月、続けてきたのですから。それに、じっさい、あと少しで完成しそうなのです」

「なにがさ」

「賢者の石です」

友人は一瞬かたまった。

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自然の不思議な摂理

自然というものはまったく不思議だ。枯れ葉のように見える虫や、目のような模様で天敵を威嚇する蝶などはどのように進化したのだろうか。私にはどうも、神のような知性を想定する「インテリジェント・デザイン説」が正しいように思える。

最近、赤ん坊の泣き声に関する研究が公表されたが、これなどもまさしくインテリジェント・デザイン説の新たな証拠となりそうだ。

どんな研究かというと、赤ん坊の泣き声と逆の位相をもつ音波の生成がそのテーマだ。わかりやすくいえば、赤ん坊の泣き声のノイズキャンセリングだ。

さまざまな実験が行われ、ついに赤ん坊の泣き声を打ち消すにもっとも適当な音声が明らかになった。それが驚くなかれ、男性高齢者の怒鳴り声であったのだ。

私たちは公共施設や電車の中で、赤ん坊の泣き声にイラ立って怒り出す男性高齢者にしばしば出くわす。じつはこの高齢者の行動はノイズキャンセリングとして最適であったということになる。

もちろんのこと男性高齢者は自分の声にそのような機能があるとは思っていない。ただ怒り狂っているだけなのだが、結果として逆位相の音声が生じノイズキャンセリングとなっていた。まさに自然の摂理というべきではなかろうか。

もしかしたら、イラ立つ男性高齢者の不機嫌な顔、恐るべき無慈悲さ、偏屈ぶりなども、知性ある存在がこしらえたデザインかもしれない。私たちは自然の不思議に感嘆せずにはいられないのだ。

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駅の階段での祈願

駅のホームから改札口に上がる階段は、上り優先部と下り優先部とに手すりで分けられていて、たいていは下りのほうが幅狭になっている。

私たちの乗った電車がホームに止まる。私たちはどっと降り、改札口に上がろうとする。しかし、降りた人が多すぎて、一度に階段に入りきらず、階段の前で列ができる。列はノロノロとしか進まないが、私たちはじっと耐えている。

ところが、私たちのノロい列のとなりで、階段をすいすい上がっていく人々がいる。あろうことか下り優先部を駆けあがっているのだ。

列に並ぶ私たちはじっと堪えながら、これらの無法者が次々と追い抜いていくのを見上げる。憎しみをむき出しにしながらこう呟く。

「なんで駅員たちはこうした連中を取り締まらないのか!」
「奴らにとってルールなどなんの意味もないのだ」
「生来の犯罪者だ!」

そして、駅とホームの神々に祈願する。「どうか降りる人を出現させて、これらの不届き者を懲らしめてください!」 だが、いつまで待ってもだれ一人降りてこない。その間にも、犯罪者どもはどんどん上にいってしまう。私たちがまだ階段の一段目にもたどり着いていないというのに!

私たちはついにこう考え出す。

「あいつらのようにしたってなにが悪い? 駅員どもも何も言わないじゃないか」
「そうだ。こんなところでくすぶっているくらいならば、俺たちだって!」

私たちは意を決して、もはや一歩も進まなくなった上りの列を離脱する。そして、下り優先部の下部に立つや、一気に駈けあがる。

だが、そのとき、突如として降りる人々が出現し、蹴散らされた私たちはホームの下に転落する。

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小数点以下の子どもたち

内閣は新しい少子化対策担当大臣に、日本一のバカを任命した。これまで頭の良い人々がなにをやっても成功しなかったので、逆の人に担当させてみたらうまく行くのではないかと考えたのだ。

バカで新しい少子化対策担当大臣は、就任にあたって次のように述べた。

「日本は世界でももっとも少子化が進んでいる国のひとつです。現在、日本の出生率は、1.26 %と過去最低を記録しています。これは、1 と 0.26 の子どもしか生まれないということです。このままでは日本がなくなってしまうので、私は全力をかけてこの問題に取り組みます」

そして、次のようなバカで骨太な政策を掲げた。

「任期中に、出生率を 2 %にまで上昇させることをお約束します。現在の 1.26 %のうち、課題なのは、0.26 という小数点以下の子どもたちです。これらの 1 に達しない子どもたちが、1 になったら、間違いなく出生率は 2 %になります」

さっそく大臣は、0.26 の子どもたちの支援を始めた。0.26 が 1 になるようにするのは非常に大変だった。教育も大事だし、家庭環境の改善も重要だ。所得も上がる必要がある。医療と福祉の果たす役割も不可欠だ。0.26 の子どもたちが、すこしでも 1 に近づけるように、大臣はさまざまな政策を実現していった。

バカな大臣のバカな政策だったが、不思議と出生率は上がりはじめている。

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私は宇宙人に襲われた

衝撃的なニュースが世間を騒がしている。今からちょうど 8 年前、2015 年のとある夕方、東京都北区尾久の野原を散歩していた 20 代の女性Aさんが、UFOに誘拐されたのだ。そのアブダクションの全貌を、彼女は先日、週刊文春で告白した。

彼女によると、突然まばゆい光に包まれ、その中から現れたリトルグレイが「私は遠い星からやってきた。あなたを私たちの宇宙船に招待したい」と語りかけてきたのだという。恐怖に身を動かすことのできなかったAさんには、うなずくしかなかった。

リトルグレイに宇宙船に連れて行かれたAさんは、そこで別の宇宙人に出会った。それは金の光に包まれた体の大きい宇宙人で、前に立ったとたん、Aさんの体は動かなくなった。そして、宇宙人はAさんの体に異様な操作を行った。Aさんは恐ろしさに悲鳴をあげ、そこで彼女の記憶は途切れる。

気がつくと、Aさんは真夜中の野原にひとり倒れていた。この奇妙な体験以後、Aさんは PTSD に苦しむようになった。今回、自分のアブダクション体験を公表したのも「同じように苦しんでいる人の力になるかもしれないと思って」と語る。

この告白は大きな反響を引き起こしたが、以下にまとめたように否定的なものもみられた。

「宇宙船に連れて行かれて何もされない思っているのがそもそもおかしい」
「8 年前のことを今さら蒸し返すのはなんか裏があるね」
「とんだ尻軽女だ」
「なんでアブダクションされたときにムーの編集部に行かずに、今頃になって文春に売るのかね。金目当てだ」
「これで宇宙人が地球に来なくなったらどうするのだ」

もっとも、まともな人々もたくさんいて、こうしたネガティブな反応を「セカンド・コンタクトだ」と非難している。

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注文者たちの日

コロナが来るずっと以前のこと、彼はとある居酒屋で絶望していた。なぜかというと、何度手を挙げ、どれだけ声を張り上げても、店員たちが彼のところに来てくれなかったからだ。

ぶらりと入ったこの店で、たまたま大テーブルに空いている席を見つけ座ったのはいいものの、最初の注文ができずにもう1時間が過ぎようとしていた。おしぼりも箸もお通しもまだなのだった。

店はさほど混んでいるわけでもなかったが、どういうわけか店員たちの知覚から彼の存在は滑り落ちてしまうようだった。声をかけると店員はちょうどよそ見している。来たと思って手を挙げると、厨房に呼ばれて急に引き返す。彼は店員がもっとも近づき、なおかつこっちのほうを向いているときを辛抱づよく待つ。ついにその時がくると、もうなかば腰を上げるようにして「すいませーん」と大きな声で叫ぶ。だが、その声はおりから湧き起こったサラリーマンたちの野太い笑い声にかき消されてしまう……。

彼の顔には疲労と深い悲しみが浮かんでいた。その歪んだ口は「いつもこうなることはわかっているのに、どうして店になんか入ったんだろう!」とでも言いたげだった。そう、彼はいつもこんな目に遭っていたのだ。彼はかぶりを振って、店から出ようと立ち上がった。

すると、そのとき、誰かが彼の腕を掴んだ。それは向かいに座る若い男だった。

その若い男は、彼の腕をグイと引っ張って再び座らせると、店員を呼んだ。まるで魔法のようにすぐに駆けつけてくる。男は壁の品書を見ながらゆっくりと言った。

「えーとね。上唐揚げともつ煮込み、あと、エシャレット、それから、芋焼酎で」 と、ここで彼のほうを向いた。「でね、なににします?」

彼は慌てながら「え……ビールで、あと、タコぶつ」

「じゃあ、それでお願い」と男は頼んだ。

店員が去り、注文が運ばれてくるまでのあいだに、若い男は自分がIT関係の会社の経営者だと明かし、こう言った。

「失礼ながら、先ほどから拝見しておりましたが、ぜひご協力をお願いしたいと思いまして」

「ご協力とは?」

「現在進行中の私たちのプロジェクトに加わっていただきたいのです。その悔しいお気持ちをプロジェクトに思う存分ぶつけてもらえたら……」

店員が芋焼酎のグラスと中生ジョッキをテーブルに置いた。若い男はグラスを持つと彼にうながした。「さあ、乾杯しましょう! 私たちが変えようとしている世界のために!」

2人が乾杯したこの日こそが、現在の「タブレット注文システム開発記念日」だ。この日、タブレット端末で注文すると、全品5%引きになる。

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ゲロの町

ここは豊島区と新宿区と渋谷区に囲まれた「年谷町(としやちょう)」という小さな地区。2023年、暮れも押し迫る12月29日金曜日、それは起きた。

【午後11時15分】
突如として鳴り渡った異常な地響きに、寝支度をしていた住民たちは騒然となった。地震かと慌ててネットを見た人々は、いかなる警報も見つけることはできなかった。

【午後11時20分】
再び恐ろしい地鳴りが街を揺さぶった。家の外に出た住民たちはこう叫ぶ声が聞こえたのを記憶している。

「逃げろ! 逃げろ! ゲロだ!」

そのとき、住人たちは、とろみのある液体が足もとにひたひたと押し寄せているのに気がついた。

【午後11時45分】
住民たちの避難がはじまる。ゲロは徐々にかさを増しつつあったが、十分に歩行可能な状態であった。

【午後11時58分】
ゲロの水位は10センチにまで到達。

【午前0時08分】
ゲロが一瞬のうちに引く。そしてしばしの静寂ののち、住民たちは高さ10メートル以上の黒い壁が迫り来るのを目撃した。

【午前0時09分】
ゲロの高波によって年谷町は壊滅した。

《災害の原因は》
災害後に直ちに調査が実施され、年谷町にゲロが押し寄せるという未曾有の災害が発生したのは、以下の4つの条件が偶然にも重なったためであるとの報告がなされた。

1)新型コロナウイルスが5類に移行して迎える初めての年末であったこと。
2)忘年会や年末の飲み会が最後の金曜日であるこの日、12月29日に集中していたこと。
3)年谷が豊島区・新宿区・渋谷区に囲まれた低地であったこと。
4)これらの各大繁華街で発生した大量の酔っ払いたちが一斉に・盛大に嘔吐を始めたこと。

《住民たちは訴える》
ゲロに足を滑らせて転倒した少数の負傷者を除けば、奇跡的に住民たちは全員無事であった。しかしながら、住居と財産を失った住民たちは、都が災害を予測しうる立場にありながら十分な対策を怠ったとして補償を求めた。都は適切な支援を行うとしながらも、災害の責任については否定した。これを受けて住民側は都を相手どって提訴。

人災か天災か、法廷がどのような判断を下すかが注目される。

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殺める人々

コロス派とアヤメル派の間で激しい論争が持ち上がった。コロス派というのは、人の命を奪うのはすべて「殺す」というべきだと考える人々だ。いっぽう、「殺す」という語は認めつつも、やむを得ぬ理由のある場合は「殺める」を使うべきだというのがアヤメル派だ。

アヤメル派が「卑劣な殺人と斟酌すべき事情のある殺人は区別するのが当たり前ではないか」と声高に主張すると、コロス派は「『殺す』より『殺める』のほうが高級だということがあろうか。どちらも同じ行為なのに。それに、殺人の理由を判断するのは裁判だ」と反論する。

アヤメル派はさらに「日本語の豊かさを知らないとはまったく無教養な連中だ。もしかしたら日本人ではないのかもしれない」と攻撃する。これに対し、コロス派は「人情刑事ドラマの見すぎだ。言葉の情緒に流されると、現実を見失うぞ」と反撃し、ひとこと付け加えた。「いったい、この人たちは、自分が『殺められ』ても文句は言わないということだろうか」

この皮肉がアヤメル派を激怒させた。

さて、アヤメル派はいつもニコニコしているのに対して、コロス派はわりあい厳しい顔つきだった。そんなわけで、人々はアヤメル派を応援し、アヤメル派はどんどん大きくなっていった。

そして、ある朝早く、アヤメル派は武器を持ってコロス派の家を一軒一軒まわり、全員を殺害した。

すべてが終わると、アヤメル派は大声でこう人々に告げた。

「私たちは彼らを殺め、そして殺められた彼らは、自分たちがいみじくも見越したように、文句ひとつ言わなかった」と。