苦い文学

真夜中の国会

議員たちは、居眠りにたいする不寛容が広がるにつれ、苦しみはじめた。ある議員は不眠を訴えるようになった。就寝中にも国民の目が向けられているような気がして、もう眠れなくなったのだ。またある議員は居眠りをしないように覚醒剤に依存しだした。密売議員が国会のトイレでヤクを捌くようになったが、不逮捕特権があるので警察は何もできなかった。

議員たちの苦しみが頂点に達したとき、議長は宣言した。私たちは議員であるあいだはもはや寝ない、と。ちょうどそれを可能にする医療技術が生まれ、かくして議員たちは眠らなくなった。

眠らない議員たちは、昼も夜も働いた。日中の国会が終わり、しばしの休憩ののち、深夜に再び国会が開かれた。国民たちは、不眠不休の議員たちの働きぶりに感嘆し、「我が国では政治がついに24時間営業になった」と誇らしげに語った。

政治は激変し、次々と政策が実現していった。「スピード感よりもスピードのほうがよいのだ」と国民たちはあらためて気がつき、喝采を送った。

しかし、次第に奇妙なことが起きはじめた。昼の国会と真夜中の国会にずれが生じてきたのだ。昼に議決されたことを、真夜中の議員たちは覆した。昼の議員たちが穏便に済まそうとしたことを、夜の議員たちは過激な言葉で攻撃した。

昼の議員たちは、真夜中の議員たちが勝手なことをしすぎると批判した。「真夜中に考えたことは朝になってみると歪んで見えるものだ! 夜の議員たちは少しは落ち着いて考えたほうがいい」 これに対して真夜中の議員たちは「昼行燈どもに政治の何がわかる」と嘲笑った。

昼の国会と夜の国会の緊張は高まっていった。そして、ある深夜、真夜中の国会はついに、昼の国会に宣戦布告することを全会一致で承認した。

こうして我が国では昼と夜の戦争が始まった。

苦い文学

高学歴プア

私は名の知られた大学を卒業し、大学院に進み博士号まで取ったが、年収が100万円にもいかない。いわゆる高学歴プアだ。

そんな悲惨な状況を見かねて、友人が「いい仕事がある」と声をかけてくれた。

「有名大学の大学院出身で低収入の男性」をとある富豪が探しているというのだ。しかも、週に1回、富豪の手伝いをするだけでいい。修士なら月に10万、博士なら15万だ。

興奮する私をみて友人は言った。「だけど、本当はその人の手伝いが仕事じゃないんだ」

「なにかヤバいことでも?」

「いや」と友人は笑った。「そうじゃなくて、本当の仕事の内容はプライドを捨てることだ」

「というと?」

「その富豪はね、経済的な事情から大学に行けなかったのだが、努力して巨万の財を築いたのだ。それで彼はこんな確信を抱くようになった。大学教育は無意味で、学問とはバカがやることだと。この反知性主義的確信を補強すべく、この度、彼は高学歴プアを募集することにしたのだ」

「あ、というと、あの一流コメディアンがアテンド芸人を通じて『女弁護士』や図書館の『女司書』を急募しているのと同じような……」

「そのとおり。彼は高学歴連中を服従させるのをなによりもの楽しみとしているのだ。だから、つらい思いをすることも覚悟しなくてはいけないよ。それでもいい?」

「もちろん! それで食いつなげるなら、どんな屈辱だって!」

そして、私は友人を通じてその富豪に履歴書を送ってもらったのだった。

数日して友人から電話がかかってきた。「ごめん。ダメだった」

「えっ、そんな!」

「だって、ハーバードで Ph.D. を取って、年収30万の人が応募してきたんだぞ……富豪はもう大喜びだ」

私はこれを聞くと切なくなって電話を切った。そして、数ヶ月後、私はその友人と会う機会があったので、例の富豪のバイトについて尋ねてみた。

「ああ、あのハーバードね」と友人は言った。「実は高卒だってことがバレてさ」

「じゃあ、クビか」

「いや、富豪はますます大喜びだよ。高学歴どもにこんなことはできやしないだろうってね」

苦い文学

老後サバイバル・セミナー

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えっ、それ本当に心配いりませんか? だって、老後に2000万円の蓄えがあれば十分だと言われていたのは大昔! 現在の物価上昇率からすると、最低でも6000万円必要な時代が来ているんです。そんなお金、どこにありますか。

「で、でも、年金があるから!」

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苦い文学

宇宙船地球号

【宇宙船地球号の唄】

(世界中の子どもたち! 胸を張って元気よく!)

みんな宇宙船地球号の乗組員
僕らも君らも誰だって
動物たちも大事な仲間
木や花も風も空も

僕ら宇宙船地球号の乗組員
合言葉はサステナビリティ
SDGs は操縦マニュアルさ
かぎりある資源大切に

(世界中の子どもたち! ゴミの分別はちゃんとできるかな?)

船長は僕らの大統領
憧れの的さ
万能で完璧な指導者
悪をけちらすんだ

僕ら宇宙船地球号の乗組員
船長の命令なら喜んで!
掃除に奉仕に環境保全
美しい船を守るため

僕ら宇宙船地球号の乗組員
船長が教えてくれたのさ
この船に密航者がいるってことを
僕らのフリして何食わぬ顔で

密航者をつまみ出せ
密航者をつまみ出せ
でっかいロケットに押し込んで
成層圏の果てに
吹き飛ばそう!

(さあ! みんなでロケットに点火するんだ! 3、2、1! やったー!)

密航者をあぶり出せ
密航者をあぶり出せ
怪しい奴はすぐに通報
だれであろうとぜったい
宇宙に放出だ!(わー!)

僕ら宇宙船地球号の乗組員
僕らも君らも誰だって
動物たちも大事な仲間さ
木や花も風も空も

(作詞・作曲:大統領)

苦い文学

黄色い線まで

今日、田端駅のホームで山手線を待っていたら、いつもの日本語のアナウンスのあとに英語で奇妙なアナウンスが聞こえてきた。なにぶん急なことだったので、記憶もやや曖昧だが、覚えているかぎりここに書き記しておきたい。


まもなく2番線に渋谷・品川方面行きが参ります。危ないですから黄色い点字ブロックまでお下がりください。Your attention please. The train bound for Shibuya and Shinagawa will soon arrive on track No. 2. For your safety, please stand behind the YELLOW line. Stand! Stand behind the YELLOW line! Yes fucking YELLOW line! You, white people call us YELLOW. You thought that you are more clever than us. You thought that you have right to dominate us. Why? Because you thought that you are white and we are YELLOW. Now we don’t let you do this! Here is our country. OUR JR-EAST. OUR YAMANOTE Line. Now you have to stand behind the YELLOW line. Because this is OUR LINE! Now you have to stay behind the YELLOW. Yes BEHIND US! Now you have to obey the YELLOWs. YELLOW is good, great, and No. 1! Now you bastards have to stand FUCKING behind the YELLLLOOOOOOW line! 田端、田端、ご乗車ありがとうございます。2番線ドアが閉まります。ご注意ください……

苦い文学

最強の熱波師

サウナに入っていたら、熱波師がやってきた。

熱波師はしばし軽快なトークで私たちを楽しませたのち、サウナのストーブ内の石に水をかけて、巧みに蒸気を生み出した。そしてまるで魔法のようにタオルを振るって熱波を私たちに浴びせたのだった。

この燃える風を浴びるやいなや、私の毛穴から汗が吹き出した。なんという刺激、なんという快楽! 私は陶然とするばかりだったが、どこからか声が聞こえた。

「これが熱波かよ! 冷蔵庫、開けたみたいじゃねえか!」 それは私の隣の男で、熱波師に手を振り上げて怒鳴っているのだった。「もういい! お前はダメだ! 本物の熱波師を連れて来い!」

その熱波師はなにも言い返さず、ただ私たちに一礼すると、サウナ室から出て行った。隣の男は嘲った。「あの程度で熱波師とは。バカにするな!」

すると、サウナ室の扉が開き、別の熱波師が入ってきた。あご髭をはやしていて、なんだかひ弱そうだ。「おいおい、次も頼りなさそうだぜ! なあ、熱波師さんよ」と隣の男。

すると話しかけられた男はぶっきらぼう答えた。「熱波師じゃない。論破師だ」

男はタオルを振り上げると、ものすごい勢いで回し始めた。猛烈な煽りだ! しかも、タオルの描く円の中心点が刻一刻と変化するのだ。なんという論点ずらし! 一瞬のうちに、サウナ室内の熱風は炎となり、私たちに襲いかかった。

私たちは直ちにサウナ室を飛び出した。間一髪だ。だが、反論しようとした隣の男はみるまに炎上し、もえかすひとつ残らなかった。

苦い文学

セレブと鬼

私たち亡者は閻魔大王の前に引き出された。これからお裁きが始まるのだと、鬼たちが告げた。

まず私たちの中から一群のみなりよい人々が引っ立てられた。私たちはこれらの人々を見て色めき立った。生前、芸能界やスポーツの世界で活躍したセレブたちだったからだ。

閻魔大王とセレブたちとのあいだに、お地蔵さんたちが立ち現れ、これらのセレブが地上にいたあいだ、どれだけ良いことをしたか弁じ始めた。多くの人々に元気と喜びを与え、あちこちで大金を使って経済を回した。貧しい人々に施しをし、被災地ではたくさんの支援活動をした。のみならず、見捨てられた犬猫のためにも勇敢に戦ったのだ。

閻魔大王は聞き終わると微笑みながら言った。「これらの善人たちを天国に丁重にご案内せよ!」

次は私たちの番だった。だが、私たちのために弁じてくれる地蔵はいなかった。閻魔大王は手元の書類にざっと目を通すと、苛立たしげにこう宣告した。

「お前たちは、四六時中自分のことばかり考え、他の人々を助けもしなかった。お前たちの収入ときたらわずかで、寄付や支援などしたこともないのだ。こんな利己的でがめつい人間は地獄行きに決まっている。鬼たちよ、犬猫にも劣るこいつらを地獄に突き落とせ!」

こうして私たちは地獄で、鬼たちに永遠に責め苛まれることになった。苦しく痛く絶望しかない時間が、宇宙の終わりまで続くのだ。

ときおり、セレブたちが天国から私たちのところに降りてくる。セレブたちは私たちのために豚汁やお菓子を運んできてくれる。配り始められるやいなや、私たちは我先に奪い合って、一口で飲み込む。

そのあいだ、セレブたちは鬼たちと親しげに会話し、握手などしている。

私たちにはもうわかっている。セレブもまた鬼なのだ。

苦い文学

イケメン訴え

イケメンという言葉がなかったせいで、若い頃イケメンと呼ばれず、精神的苦痛を受けたとして、千葉に住む70代の男性が、全国で初めて国を提訴した、いわゆる「イケメン」裁判で、今日、裁判所は訴えを棄却しました。

この裁判で男性は、自分はイケメンなのに、当時イケメンという言葉がなかったせいで、イケメンと呼ばれなかったため、イケメンとして当然受けられるべき機会を逃したとして、国に対して5億円の損害賠償を求めていました。

支援者ら約200人が傍聴券を求めて訪れ、裁判の行方を見守りました。「あのころイケメンと呼ばれていたら、私もこんな人生を歩んでいなかったのに」と福井から駆けつけた87歳の支援者は無念そうに語ります。

今日の判決で、裁判長は「大昔にイケメンという言葉のなかったことについて国に責任を問うことはできない」と指摘したうえで、「現在のイケメンの基準に照らして、原告をイケメン相当と認定しえないことにはなんら矛盾はない」などとして、訴えを退けました。

原告の男性は「私たち男性からイケメンと呼ばれる権利を奪う、承服しがたい判決。判決理由を精査したうえで、イケメン弁護団を組織して控訴する」とコメントしています。

音楽

デヴィッド・ボウイのファイブ・イヤーズ漫談

店立ち並ぶ広場を通ると
母親たちがみんな悩ましげにため息
ニュースがたった今やってきたんだ
泣いてられるのも5年だけだって
ニュース番組の人は泣きながら告げる
地球が死にかけてるって
泣きすぎて顔がぐしょぐしょだ
で、嘘じゃないってわかった

5年しかない。しっかり見とくんだ
5年だって。なんてこった!
ファイブ・イヤーズ!
ファイブ・イヤーズ!
ファイブ・イヤーズ……

というわけで、先日私、ビルマ出身のカレン人とタイに行ってきたのですが、バンコクのスワンナプーム空港はもう立派なもので、キレイなんです。

それから、電車でバンコク市内に向かったのですが、車窓から見る景色はといえば、ハイウェイに、高層ビルと非常に発展しています。

そこでカレン人の友人がこういうのです。

「すごいね、バンコクは。ミャンマーは軍事政権のせいでなんにもない。50年前はヤンゴンのほうがよかったけど、いまはもうバンコクだね。ミャンマー政府が全部ダメにしちゃった……」

私はうなずきながらも、こう思ったんですね。

《50年前はヤンゴンのほうがすごかったって、別のカレン人からも同じこと聞いたぞ、20年前に……!》

50年? なんてこった!
フィフティ・イヤーズ!
フィフティ・イヤーズ!
フィフティ・イヤーズ……

苦い文学

Tattoo You Too

各地で訪日観光客を見かけるようになった。コロナ以前でも思っていたのだが、白人観光客は刺青が目立つ。刺青だけに肌感覚で言えばだが、訪日する白人のすべてが刺青をしているのではないかと思う。

そんなわけない、という人もいるかもしれないが、服や下着の中までみて確認したわけではあるまい。もう間違いなく全員が刺青をしているのだ。

昔からよく言われているのは、欧米で起こることはやがて日本でも起こるということだ。現在の日本では、刺青とは反社会組織の象徴であり、憎むべきもの、蔑むべきものとされているが、10年後にはどうなっているかわからない。おそらく日本も欧米のように刺青社会となるのではないだろうか。

となると私たちも、いつかは刺青を入れなくてはならないのだ。それを見越して、今は入れないにしても、自分ならどんな刺青を入れたいか、日頃から考えておくことがどうしても必要だ。憧れる人物の顔、アニメのキャラクター、信仰する神様、座右の銘、竜や虎やペット、好きな食べ物……なんだっていい。とにかく、備えあれば憂いなしだ。

急きょ刺青を入れなければいけない事態に陥って泡を喰うなんて事態だけはどうしても避けたいものだ。あわてて「岸田首相の顔で」などと口走ってしまったら、それこそ後悔してもしきれない。あとからせめてメガネだけでも消そうと思っても、そう簡単にはできないのだから。