議員たちは、居眠りにたいする不寛容が広がるにつれ、苦しみはじめた。ある議員は不眠を訴えるようになった。就寝中にも国民の目が向けられているような気がして、もう眠れなくなったのだ。またある議員は居眠りをしないように覚醒剤に依存しだした。密売議員が国会のトイレでヤクを捌くようになったが、不逮捕特権があるので警察は何もできなかった。
議員たちの苦しみが頂点に達したとき、議長は宣言した。私たちは議員であるあいだはもはや寝ない、と。ちょうどそれを可能にする医療技術が生まれ、かくして議員たちは眠らなくなった。
眠らない議員たちは、昼も夜も働いた。日中の国会が終わり、しばしの休憩ののち、深夜に再び国会が開かれた。国民たちは、不眠不休の議員たちの働きぶりに感嘆し、「我が国では政治がついに24時間営業になった」と誇らしげに語った。
政治は激変し、次々と政策が実現していった。「スピード感よりもスピードのほうがよいのだ」と国民たちはあらためて気がつき、喝采を送った。
しかし、次第に奇妙なことが起きはじめた。昼の国会と真夜中の国会にずれが生じてきたのだ。昼に議決されたことを、真夜中の議員たちは覆した。昼の議員たちが穏便に済まそうとしたことを、夜の議員たちは過激な言葉で攻撃した。
昼の議員たちは、真夜中の議員たちが勝手なことをしすぎると批判した。「真夜中に考えたことは朝になってみると歪んで見えるものだ! 夜の議員たちは少しは落ち着いて考えたほうがいい」 これに対して真夜中の議員たちは「昼行燈どもに政治の何がわかる」と嘲笑った。
昼の国会と夜の国会の緊張は高まっていった。そして、ある深夜、真夜中の国会はついに、昼の国会に宣戦布告することを全会一致で承認した。
こうして我が国では昼と夜の戦争が始まった。