苦い文学

無謀な買い物

この季節、十分な計画を立てずに、軽装で極寒のスーパーに買い物に出発したため、命を落とす事故がたびたび発生します。安全に買い物を行い、無事に生還するためには、事前の準備がなんといっても大事です。

基本中の基本ですが、まず献立を決め、そのために何を買わねばならないかをリストアップしましょう。そして、次にすべきはルートの策定です。事前に店内の売り場の配置を十分に調べた上で、どのようなルートを取れば安全にレジに到達できるかを、あらかじめ研究しておかねばなりません。

さらに、装備にも万全を期す必要があります。半袖・半ズボンなどもってのほか、必ず防寒具を用意しましょう。可能ならば携帯のほかに GPS 機能つきの通信機があると安心です。

もちろん、当初の予定通りに買い物が進めば、これらの装備は無用と言えるかもしれません。

ですが、もしレタスが売り切れていたら? お気に入りの味噌が商品入れ替えでなくなっていたら? 変わりやすいスーパーの様子に翻弄されて、うっかりルートを外れでもしたら、遭難の危険はぐんと高まります。常に最悪を想定して準備しましょう。

遭難した場合は、無闇に動き回るのは禁物です。救助要請が可能ならば、落ち着いて連絡し、「納豆売り場」「豚しゃぶ肉のコーナー」などとしっかり場所を伝えましょう。冷蔵ケースから吹き出す冷気から身を守るために、防寒具を着用し、ビバークテントの中で体力の温存に努めましょう。

また体力の消耗を防ぐために、水と予備の食料を携行しましょう。決して、精算前の食品に手をつけぬように!

苦い文学

美熟女の罠

繁華街の電柱や壁にこんなポスターが貼られているのをみたことがありませんか。

「男性募集! お金持ちの美熟女の簡単なサポート。高収入保証」

なんとなく怪しいですね。でも、もし本当だったら……そう思うといても立ってもいられず、電話をかけてしまいました。

すると、女性が出て、すぐに来てほしいというではありませんか。その女性に言われた通りに歩いていくと古びた屋敷に辿りつきました。

インターフォンを鳴らし「サポートに参りました」というと、門が開きます。その先にある玄関の扉を叩くと、扉が開き、40代ぐらいのものすごく美しい女性が現れるではありませんか。

その人は私を家の中に入れ、薄暗い客間にまで連れてくると、いきなり抱きついてきたのです。

「これはずいぶん簡単なサポートだ」と思いましたね。

ですが、そのとき、玄関がけたたましい音を立てて開きました。なにごとかと思うと、男が怒鳴るのが聞こえ、ドタドタと足音が近づいてきます。「夫が帰ってきた!」と私は慌て、逃げようとしましたが、女性は私を離しません。恐ろしい強さで締めつけてくるのです。

男はついに私たちのところにまでやってきて、私の首根っこを掴むと、女性から引き離し、床に投げつけました。そして、手に持っていた棒で女を一発打ちました。

すると、女性はたちまち1匹の大きなヒキガエルとなり、床に落ちてひっくり返ったのでした。

彼は言いました。

「危ないところだったぞ。もし私があのポスターを見ている君に気がつかなかったら、君はこのヒキガエルの餌食となるところだったのだ」

聞けばあのポスターは、カエルやヘビ、クモなどの化け物が、人間をとらえる罠として活用している場合もあるとのことです。「注意しろ」とその人(なんでも化け物を退治している人だとのこと)は言ったのですが、ちょっともったいなかったような気もしていますね。

苦い文学

贖罪のグルメ(2)

「ああ、コロナが私たちの生活をすっかり変えてしまったのです! もちろんご存知でしょうが、コロナ禍では外食はできず、出前サービスが大流行りとなりました。あなた、使ったことはありますか?」

「いえ、出前にお金を払うなんて、そんな余裕はありませんでした」

「そう、それが普通なのです。ですが、富裕層は普通ではないのです」

「ええ、うらやましいかぎりです」

「ですが、どうでしょう。富裕層の中にこう豪語する者がいたとしたら? 『もう店で食べるなんて貧乏くさくて!』 そこまで思い上がってしまったのです。なかには店の主人に向かってこう言ってのける者すらいました。『店に食べにくる貧乏人どもの相手なんかやめて、デリバリー専門にしろよ!』と」

「それはすこしいい過ぎだと思いますが、いろいろな価値観があってもいいでしょう」

「ええ、ですが、問題はですね、富裕層のなかにはコロナ禍の変化についていけず、零落する者もいた、ということなのです。もう出前サービスを利用できないほどに落ちぶれてしまった! そして、コロナが終わり、外食が解禁となったいま、これらの人々に店で食べる資格はあるでしょうか。いや、ないのです」

「それで、あの人は自らの高慢の罪を償い、赦しを乞うているのですね」

「ええ、そうです。自分が裏切った店を、一軒一軒まわっているのです」

(店員がモップで床を拭き始め、濡れた客を追い立てて店外に出す。そのときチキンカツが運ばれてくる)

おっ、うまそうじゃないか。これは正解。まずはソースを……

(そのとき、隣の客が話しかけてくる)

「じつにおいしそうなチキンカツですな。サクサクころもに、パリッとした皮! あふれる肉汁! ああ、私にも味わうことができたなら! 出前サービスがひっきりなしに出入りしていたあの栄耀栄華を思うにつけ……ああ!」

(そういうと、隣の客、涙を流しながら、割り箸で自分の頭を叩き始める。よく見ると足元は折れた割り箸でいっぱいで……)

苦い文学

贖罪のグルメ(1)

出張で商談がうまく済み、伸びやかな気持ちで、駅前の食堂に入った。派手ではないが、真っ当な店構え。この駅に降り立ったときから、目をつけていたのだ。

昼下がりの店内は年配の客がちらほら。席についてメニューを見る。目に飛び込んできたのはチキンフライ。もうこれは動かせないな。と、さっそく注文。もちろんビールも。

落ち着いて店内を見回す。壁のお品書きをじっくり見るのも楽しい。意外につまみも充実している。きっと夜はにぎやかなのだろうな……。

あれ、あの人はなんだろう。来たときには気がつかなかったけど、びしょ濡れじゃないか。水が床にも滴り落ちている。

(ずぶ濡れのみすぼらしい客がおり、店の女将にコップを差し出す。女将はお冷を入れる。その客、コップを頭の上に持ち上げ、自分に水をかける)

な、なんだ、あの人は。頭からお冷をかぶって。また、お冷をもう一杯……ぶっかけた!

(そのとき、隣のテーブルの男が声をかけてくる)

「度肝を抜かれたようですな」

「ええ、いったいなんなのですか」

「贖罪ですよ」

「贖罪?」

「ええ。彼はこうやって自分の罪を償わずにはいられないのです」

「いったい、どういう事情でしょうか?!」(つづく)

苦い文学

エコな不倫

平安時代の『大和物語』にこんな物語が記されている。

その昔、大和国葛城郡に男と女が暮らしていたという。やがて男には浮気相手ができ、その相手のもとへと足繁く通うようになった。

女はというと、すこしも妬むようすもなく、男を送り出すのであった。

ある時、不審に思った男は、浮気相手のもとに行くと見せかけて、物陰からこっそり覗っていた。

女は涙ながらに横になると、水の入った金椀を胸の上に置いた。すると、その水が沸騰したではないか。女はまた水を入れ替える。椀の水は再びぐつぐつと沸きだした。

これを見て、男は思わず女のもとに駆け寄った。嫉妬の炎を利用して蒸気機関を動かし、発電することはできないかと考えたのだ。男は、さっそくそのアイディアを実行に移し、実用化に成功した。

いまでは、男が浮気相手のところにいる間に、女は嫉妬の火力発電を行い、自宅の電気をまかなうばかりか、近隣の家々に電気を売っている。

そして、男は、浮気相手に会いに行くのに車を使わず電車に乗ったり、デートではエコバッグやマイ箸、水筒を持ち歩いたりして、環境にやさしいゼロエミッションな不倫を心がけているということだ。

苦い文学

昭和への探査旅行

その日、国立時間移動訓練センター所長は、「昭和探査プロジェクト」の訓練の視察に訪れた政治家たちの案内をしていた。

「ご存知の通り、私たちはついに時間軸移動を実現しました。そして、現在、センターでは第2ステップに取り組んでいます。昭和の探査です。日本がもっとも輝いていた時代、昭和に探査隊を送り、再び日本を偉大にするのが目的です。このセンターでは、オールジャパンで探査隊の候補メンバーの訓練を行なっています」

「どんな訓練かね」 と政治家の一人が尋ねた。

「ひとことで言えば、どんな宇宙飛行士よりも厳しくつらい訓練です。今、実際に進行中の訓練をご覧に入れましょう」

と所長はスクリーンにセンター内のようすを映し出した。そこでは全身に管を挿入した訓練生たちが叫びながらのたうち回っていた。

「時間移動では、重力が拡散するため、全身がちぎれるような激痛と恐怖が時間移動士を襲います。そのさいにパニックにならないよう強靭な精神力を養わねばならないのです」

政治家たちは満足げな表情だった。所長は別の動画に切り替えた。「ですが、最大の困難が待ち受けているのは昭和なのです」

訓練生たちが狭い部屋に閉じ込められているようすが映し出された。すると、部屋の四方に設置されたダクトから煙がモクモクと溢れ出て、たちまち画面を白濁させた。

「これはタバコの煙です!」

「ゴホゴホ! ガハガハ!」 画面から訓練生がむせる音声が聞こえてきた。

「昭和の日本に突入するためにはタバコの煙にどうしても慣れなければなりません」

「ゼーッ! ゼーッ! ゼーハッ、ゼーハッ!」 煙の中で訓練生たちが倒れていくのが見えた。

政治家たちは鼻を鳴らして不満を表明した。

「残念ながら、この訓練をパスした者はまだいないのです。ああ、いかに私たちは軟弱になったことでしょうか。いかに昭和の日本人が強靭だったことでしょうか」

「ヒュー、ヒュー、ヒー……ヒー……」 窒息した訓練生たちはぴくりとも動かなかった。

一人の政治家が声を上げた。「もっと、訓練生が必要だ! 日本を偉大にするためにはしかたがないではないか!」 たちまち、賛同の拍手が沸き起こった。

所長はこれを聞くと満足げに画面を消し、政治家たちを喫煙所に案内した。

苦い文学

温暖化

地球の温暖化が進んでいる。

このまま行くと日本は春も秋もない二季になるのだという。

だが、もっと大胆な予測によれば、その先に待ち受けているのは一季、つまり夏だけだという。もはや四季は季節外れなのだ。

いや、それでも四季は保たれる、と主張する人もいる。

その意見によれば、日本は「すごく暑い夏、ものすごく暑い夏、殺人的に暑い夏、地獄の夏」の四季になるのだという。

いずれにしても大変なことだ。

だが、私が思うに、地球の温暖化よりももっと重大な危機をもたらす温暖化があるのではないだろうか。

それは、人類の頭の温暖化だ。

今、人類の頭の中がカッカカッカするようになってきているのだ。

ホリエモンがいつもあんなに怒っているのもこの頭の温暖化のせいだ。

いやそればかりではない。プーチン、金正恩、習近平らの頭がチンチンなのもそのせいだ。この温暖化も剣呑なのだ。

頭の温暖化の仕組みは、まだ十分に解明されていない。指摘されているのは、頭の中に陰謀ロンというガスが発生して、脳の沸騰をもたらすメカニズムだ。

温室効果ガスの削減も重要だが、陰謀論にガスった頭の対策も急務なのだ。

ぜひ国際的な場での論議の盛り上がりを期待したい。

苦い文学

落とし物

私は若いころ、交通事故に遭って死にかけたことがある。

病院に搬送されたが、頭を強打したせいか何日も意識が戻らず、生死の境をさまよう状態だった。

もちろん私はなにも覚えていないが、うっすらと残る奇妙な記憶がある。

私はずっと川のほとりいたのだった。そこには交番があって、外にはベンチが置かれていた。私はそこに座って、川を行き来する船を眺めていた。

その交番には一人の警官がいた。私が外にいるのに飽きて交番に入ろうとすると、彼は無言で外に追い払うのだった。

私はしかたなくベンチに戻り、川を眺め続けた。見ているうちに自分も船に乗って川を渡りたくなったが、いざ立ちあがろうとすると体が動かなかった。

どれくらいそこにいたかわからない。あるとき、影のように薄い存在が交番にやってきた。それは交番に入り、警官と話しはじめた。窺い見ると、なにやら書類を作成しているようだ。

すると、警官が私を呼んだ。私が交番に入ると、警官はそのぼんやりした黒い影の隣に座らせ、こう言った。

「この方が、お前の命を拾ってくれたそうだ。感謝をしたまえ」

私はよくわからないまま、お礼を言った。

「この方はお前に10%のお礼を請求しているが、どうかな」

「お礼?」

「お前のこれから生きる寿命の1割だ」

私がうなずくと、警官は書類を作成した。そして、私はその薄暗い存在に自分の命の10%を差し出した。

その黒いシミは命を受け取ると、奇妙な声を発し、弾むような足取りで立ち去っていった。

警官は私に言った。「さて、お前も交番を出て、こっちの方にずっと歩いて行くのだ」

私は交番を出て、言われた通りに歩いて行った。気がつくと病室の中にいた。

ときどき、私はあの影のような存在について考える。まったく見当もつかないが、私が与えた10%の命を有意義に使っていてくれればと思う。

苦い文学

スキマ時間

10月1日
以前から気になっていた『スキマ時間を活用! 司法試験合格』をついに購入。普段は忙しくて勉強の時間はないけど、スキマ時間を活用すれば、なんとかできそうだ。というか、スキマ時間があればなんでもできそうな気がしてきた。49万円と高かったが、司法試験に合格すれば十分ペイする額だ。

10月2日
今日は朝からずっと仕事だった。スキマ時間が見つからなかったので、せっかくの教材を活かすことができなかった。夕食後、テレビを見て過ごす。明日こそ、スキマ時間が確保できるように。

10月3日
スキマ時間がなく勉強できず。

10月4日
今日は久しぶりの休みだった。休みの日にはスキマ時間はなさそうなので、お昼まで寝て、午後はスーパー銭湯に行ってビールを飲む。

10月5日
今日も1日仕事。仕事の合間に、カスタマーセンターに問い合わせて、スキマ時間がない場合は返品可能か、聞く。出版社に来れば、直接対応してくれるとのこと。時間の予約をする。

帰宅途中、出版社に立ち寄る。受付に話すと、待合室に通される。約束の時間より15分ほど早くきてしまったので、待たされる。

「スキマ時間ってまるで幻みたいだ」とつくづく思った。

苦い文学

効果のあるガス

「今、日本が危ない! 私たちは美しい日本を取り戻さなければならない!」 そう叫びながら、真の愛国政党が政権を握ったとき、私たちは拍手喝采した。なぜなら、この政党だけが日本を守ってくれると確信したからだ。

愛国政府は、我が国を敵対する勢力を厳しくやり込める政策をどんどん実行していった。私たちは胸がすくような思いで応援した。

愛国首相がこの世界の真実を暴いたときも、私たちは大喜びしたものだった。

「GHQ は日本を破壊しようと数多くの卑劣な企て行った! そのうち最大のものが日本の四季の破壊だ! 反日勢力は気象兵器で温暖化なるものを引き起こし、日本の春と秋をなくそうとしているのだ。なぜなら、桜咲く春と紅葉彩る秋は、日本精神にとってかけがえのない季節であり、これを破壊することによって日本精神を根絶やしにしようとしているのだ!」

首相はこの歴史に残る演説を続けた。

「温暖化など、反日勢力が日本を滅ぼすために捏造した嘘にすぎない! 我々はこれら卑劣な反日勢力を一掃し、気象兵器に対抗しなくてはならない! 日本の四季を取り戻そう!」

私たちはこの演説を聞くや、すぐさま街頭に繰り出して、パレードを始めたものだった。

そして、ある日、政府は反日勢力の弱点が見つかったと発表した。奴らがきらいなのは、なんと温室効果ガスだったのだ。

私たちはこれを聞いたとき「なるほど、それで温暖化などでっち上げ、ガスを減らそうなどとのたまっていたのか」とあきれ、この策略を見抜いた我が政府の慧眼に感心した。

政府はさらに発表した。「反日分子かどうかは、温室効果ガスを吹きかければすぐにわかる」

ただちに日本中に「反日分子判定センター」が建設された。そこには温室効果ガスで満たされた小部屋がいくつもあって、反日分子はその中では生き延びることはできない。

このガスにそんなありがたい効果があったとは!

私たちは歓声を上げながら判定センターに押し寄せ、今、その前で列を作って、入る順番を待っている。