風刺・戯文

卒業文集投資ビジネス

犯人が捕まったとき、テレビ局がまず探すのが小学校の卒業文集だ。なぜなら、犯行の全貌を明らかにするためには、犯人の子どものときの作文が不可欠だからだ。「犯罪者は子どものときから犯罪者だ」と喝破するほどの鋭い知性の持ち主でなければ、テレビマンはやっていけない。

それで人々は、日本中の卒業文集を探し歩いて、これぞというものをストックするようになった。なぜなら、必要なときにテレビ局に高値で売りつけることができるからだ。なかには、犯罪率の高い地域の小学校に絞って、卒業文集を集めている人もいる。投資にものを言うのはデータだ。

そんななか、最近では富裕層が新しい取り組みを始めた。いくつかの小学校をターゲットにして、近隣を極度に貧困化することで、子どもの犯罪性向を人工的に高めようというのだ。政治家たちの力を借りて、当該地域へのヤクザの移住も積極的に推進している。そして、選りすぐりの教師たちが、これだという児童に心の傷を与えて犯罪への脆弱性を育むとともに、しっかりとした作文指導を施して、すばらしい卒業文集を毎年制作しているという。

いつの日か、これらの小学校が輩出した著名な凶悪犯たちが、卒業文集の価値を高騰させ、巨額のリターンで報いてくれるはず、と富裕層は、今も卒業文集の養殖に巨額の投資を続けている。

苦い文学

死に至る病

哲学倶楽部の先輩から、「君はこれを読むべきだな」と、ゼエレン・キェルケゴオルのその本を渡されたとき、私たちの友人は「死に至る病……?」とそのタイトルを口にしたきり、絶句したそうだ。

そして、その時から、彼の人生は大きく変わった。かつては市街のあちこちのカフェで、旧制高校の制服と学帽を得意げに着た彼の姿を見かけたものだが、そんなこともなくなった。

それどころか、街外れや田園地帯を彷徨い歩く彼の姿が目撃されるようになった。着物はズタズタに破れ、蓬頭垢面のそのありさまは、狂人さながらであった。いや、そうだったのかもしれない。もともと、細かいことに拘泥する質の彼だったから、それがついに度を越してしまったのだ。

しかも、さらに異常だったのは、甲高く、耳障りな声で始終叫び続けていることだった。まるで怪鳥が同類を求めて鳴き続けているかのようだった。

そして、ある日、彼が道端に倒れているのが発見された。その時にはもう虫の息で、ただかすかな声で鳥のように鳴くのだった。彼が息を引き取ったのは、それから数時間後のことだった。

私たちは、死んだ彼が『死に至る病』を固く握りしめているのを発見した。私たちは苦労して彼の手からその書を外した。彼の死の秘密を探るべく、パラパラとめくった。だが、秘密どころか、1ページも読んでいないようなのだった。その真新しい書物を見て、誰かがポツリとつぶやいた。

「彼は……『キェ』の発音から先に進むことができなかったのだ……」

苦い文学

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苦い文学

カスタマー

物乞い、あるいは乞食は、路上などで行き交う人々から金銭を恵んでもらって、生きている人々のことだ。

昔は、海外に行くと、この物乞いによく出くわしたものだが、最近では日本でも見かけるようになった。輸入されたのかもしれないし、あるいは、アベ政治が取り戻してくれたのかもしれない。

先日、都内のある駅前で、路面に座って物乞いをしている人がいた。その前にはお茶碗が置かれ、ご存じのとおり、そこにお金を放り投げてもらうシステムとなっている。

だが、私はその様子を見て失望した。お茶碗の隣に安い日本酒の紙パックが置かれているのだ。

これでは顧客(あえてこう言うが)に「どうせ酒に消えるんだろうな」と思わせるだけだ。

そうではなくて「いったいこのお金はどう使われるのだろう」とカスタマーに思わせるのでなくてはならない。我々はそのワクワク感(カスタマー・エクスペリエンス)にお金を払うのだ。

では、どうしたらよいだろうか。紙パックを隠す、というのも一案だ。だがもし、私が物乞いをするならば、むしろ逆を行きたい。高級シャンパンや高級ウィスキーを置くのだ。

注目度は抜群だ。「映えスポット」としてバズる可能性だってある。

「物乞いで集めたお金でどうやってあの酒を?」と興味津々で思わず財布を開く投資家もいるはずだ。「景品かな?」と射的感覚でお茶碗にお金を放り投げる人も出てくる。

そのうち、お金を放り投げるためだけにみんな列を作り始めることだろう。もうこうなったら、立派なアトラクションだ。

物乞いとしては成功といえるだろう。

苦い文学

災害

南海のどこかで怪獣が現れて、日本に向って北上をはじめた。小笠原諸島を通過し、八丈島に接近したかと思うと、あれよあれよという間に大島沖までやってきた。

怪獣はそこで少し東に針路を変えた。急きょ設けられた災害対策本部は慌てふためいた。東京湾に侵入しようというのだ。上陸地点は川崎から浦安のあいだのどこかにちがいなかった。

関東全域に緊急事態宣言が発令された。上陸予想地点には自衛隊の部隊が派遣された。

東京湾沿岸の住民たちは争って東北地方や関西地方に逃げだしたが、政府は混乱を避けるため交通を遮断した。食料品と生活必需品が不足し、奪い合いが起きた。パニックと略奪と放火が徐々に広がっていった。

そしてついに怪獣が都民の前に姿を現した。その巨大な生き物は海から東京を睥睨すると、波を起こしながら岸に近づいていった。

その時だった。韓国の議員が竹島(独島)に上陸したとのニュースが政府に伝えられた。

首相は直ちに会見を行い、極めて遺憾との意を表明した。政府は、駐日韓国大使館に抗議の声明を送った。また与党系の議員団は「到底受け入れることのできない暴挙」だと強く非難した。また、右翼系の政治団体はこぞって抗議運動を展開した。

このように政府が竹島問題に全力で取り組んでいる間、怪獣は東京湾沿岸の諸都市を破壊し、海に帰っていった。