旅・観察

チュニジアのパンの機能

チュニジアのパンにはたくさん種類があるが、大きく分けると二種類ある。丸く平たいパンとバゲットだ。平たいパンは「アラビア・パン」とも呼ばれる。もう一方は、我々がフランスパンと呼ぶ棒状のパンだ。フランスのバゲットのことはよくわからないが、チュニジアのバゲットは細くて硬い。

バゲットには硬い表皮と柔らかい中身がある。我々にとってパンとは、耳ではなく、その中身が主役だ。だが、チュニジアでは逆だ。表皮が主役だ。だから細いのかもしれない。

それは、ひとつには、表皮がおいしいからだ。表面がパリパリでヒビも細かい。ちぎると、いい音と香ばしい匂いがする。だが、それだけではない。チュニジア人にとってパンの表皮は、スプーンや箸でもある。チュニジアでは、基本的に手で食事をする。スプーンなどを使わずに、この表皮を器用に使って、すくったり、挟んだり、皿を拭ったりして、食べる。

寿司を手で食べる国から来た私も、真似して食べてみる。だが、なかなかうまくいかない。気がつくと、パンばかり食べていて、サラダやシチューはちょっとしか減っていない。

チュニジアにおいては、表皮は中身よりも機能負荷が高い。そんなわけで、表皮ばかりが、どんどん食べられていく。食後のテーブルを見ると、白い棒状の中身だけが残されていることもある。

苦い文学

クマ・サガル LIVE IN TOKYO (5)

午後6時になったとき、ステージにネパール人の男女が上がり、ネパール語で話し始めた。ステージの背後には、大きなスクリーンが設置されていたが、そこに今回の公演のスポンサーが次々と映し出されている。ゴールド・スポンサーのなんとか協会の代表の誰々、シルバー・スポンサーのなんとかレストランのオーナー誰々、といった具合で、面白いのはネパールの日本語学校も協賛に加わっていたことだ。

二人の男女はおそらく今回の公演のスポンサーについてなど話しているのだろう。その後、女性の歌手がステージに上がり、カラオケで2曲歌った。有名な人なのか知らないが、その曲は確かに有名なようで誰もが声を合わせて歌っていた。

そして、再び、ステージは無人となった。振り返ると会場は満員だ。キャパは 1,500 人というが、間違いなくそれくらい入っている。私は最前列にいたからその景観に圧倒された。その観客たちから「クマ・サガル!」コールが湧き上がる。クマ・サガルは会場の後ろのどこかにいて、ステージに上がるには、これらの大観衆をかき分けてやってこなくてはならない。

もしかしたら怖気ついたのではないか? それとも危険すぎてそのうち解散となるのではないか?

それから40分ぐらい待ったろうか、もう午後7時、というときだった。大きな歓声が上がった。いよいよやってきたのだ。観客たちは、クマ・サガルたちが通り抜けるその道筋に沿って携帯を掲げた。撮影しているのか、それともライトで照らそうというのか……いくつもの携帯の画面のそれぞれに小さい世界が映し出され、幻想的な光景が作り上げられた。

苦い文学

計画殺人(2)

「計画?」と吉田刑事は思わず聞き返した。

「計画って、Aがさ、釣りの計画を立ててたのだよ。それだけだ」

「それが、『世界が俺のものだ』というのとどうつながるんでしょうか」

「いや、まったくAもバカなやつでな。釣りの計画が、釣り堀の計画になってしまったのだ。そっちのほうが釣れるといって。そしたら、今度は魚の養殖場を作ろうってことになってな。で、その養殖場が儲かるのだ。計画通りにいけば。じゃあ、その資金で政治家になろう、日本のトップに上り詰めよう、その次は世界にうってでる計画だ、などということを、まあ、雑談していたわけだ。たわいもない話だ」

「ほほう」と吉田刑事は身を乗り出した。「確かにたわいもないです、たわいもないです。で、そこで、Aさんが……」

「ああ、そうだ。急にね。……もういいかげんにしてくれないか。こっちは忙しいのだ」

吉田刑事はBの家を後にすると、逮捕令状を取り、翌日未明、BをA殺人容疑で逮捕した。

これを聞いて飛び上がったのが、早川署長だ。さっそく吉田刑事を呼び出すと、怒鳴りつけた。「どこからどう見てもただの病死を殺人だと?」 署長は立派な机をバンと叩いた。

「もしこれが事件じゃなかったらどうするつもりだ!」

「いやいや」と吉田刑事は落ち着き払った顔。「間違いなく殺人です。署長、刑事課の者を連れてきてもよろしいでしょうか。殺人事件であることをここで証明いたしましょう!」

苦い文学

はずしてもつけても

アナウンサー:公然わいせつ行為の疑いで、男(61)が逮捕されました。

(都内某所の繁華街の映像、記者が立っている)

記者:繁華街の真ん中で男は、不特定多数に対して露出行為を行なったとのことです。

アナウンサー:逮捕された自称・無職の男(61)は、午後6時ごろ繁華街の大通りで、若い女性たちの目の前で、露出行為を行なった疑いが持たれています。女性たちにケガはありませんでした。

(CG による再現映像:男が通行人の前でマスクを外す)

記者:警察によりますと、男は夜の大通りを徘徊し、露出行為に及びました。犯行を目撃した市民からの110番通報でかけつけた警察官に逮捕されました。

目撃者:女の人たちの悲鳴が聞こえたので、なにごとかと思って……ええ、びっくりしましたよ。

記者:調べに対し男は「マスクを外したのは間違いない」と容疑を認めています。

アナウンサー:犯行後、手際よくマスクで顔を隠そうとするなど、常習犯の可能性もあるとみて、警察は慎重に調べを進めています。

苦い文学

難民すごろくで遊ぼう

「難民すごろく」とは、駒の難民を進めて「難民認定」という上がりを目指すすごろくだ。数日前に私はふりだしの部分を紹介したが、面白いのはそこだけではない。

難民すごろくの盤を開くと、大きく2つの部分に分かれているのにお気づきになるだろう。

左の面は普通のすごろくのようだ。すでにお話しした、スタート地点の「成田国際空港」は左下の隅にあり、そこから発したマス目の列は複雑に蛇行し、交差し、絡み合いながら中央の上がり(「晴れて難民認定!」)まで続いている。

ではもう片方の右面はどうかと言うと、全面にわたって大きな円環がひとつ印刷されているだけなのだ。その円環はマス目からなっている。

しかも、このマス目のサーキット、完全に独立している。つまり左面の部分と繋がっていない。まったく別のすごろくのようなのだ。

この右側の部分が何かというと、ここは「入管収容所ゾーン」なのだ。左面のマス目には「入管に収容される」と記されたマス目がいくつかあり、ここに駒が止まった人は、強制的に右側の「入管収容所ゾーン」に飛ばされるのがルールだ。

この「入管収容所ゾーン」から脱出するのは非常に難しい。マス目の指示はここでは驚くほど横柄で、乱暴で、残酷だからだ。10回休みのマス目だってざらにある。

「こんなところにいたら、左面にいる他のプレーヤーがどんどん駒を進めて、上がられてしまう!」と焦るかもしれないが、心配はいらない。

遅かれ早かれすべてのプレーヤーがこのゾーンにやってきて、世界が滅びるその時まで、ぐるぐる回り続けるのだから。

お正月に家族みんなでどうぞ。

散文

ただいま禁酒中!(5)

 禁酒をしている人のブログを見るのは、気を紛らわせるのにちょうどいい。また、禁酒というのは人によってさまざまだから、いろいろな人が経験を残しておくと後に来る人の役に立つ。

 しかし、ブログはたくさんあるわけではないので、しばらくすると見尽くしてしまう。たくさんあれば、なにかと励みにもなると思うので、私もささやかながら自分の経験を書いている。

 さて、これらのブログには、たいてい禁酒のメリット・デメリットが書かれている。しかも、たいていデメリットはないとされる。デメリットは確かにないと思う。また、多くの人の言う通り、メリットもたくさんあるだろう。だが、私にとってはこのメリットは少々微妙である。

 よく言われるのが、禁酒すると痩せる、ということだが、私は間食が増えたので、むしろ太った。また、肌がキレイになるというのもある。もしかしたら、そうなのかもしれないが、50の男の肌がきれいになっても誰も心動かされまい。

 節約になる、という人もいるが、これは今まで無駄に使っていたお金が減るというだけのことで決して「節約」ではない。そんなこと言うなら、飲みすぎて早死にしたほうが、完璧な節約になろう。死んだらお金は使えないので。

 また、私のように、「酒に使っていた分だからいいか」などとウキウキ気分で浪費して、かえって出費が増えるという愚か者もいる。

 健康になる、というのもあるが、飲酒自体が不健康なことであるとすれば、これは当たり前のことだ。そもそも、飲酒以外にも不健康になる要因はごまんとあるのだから、肝機能の改善というピンポイントの目的がないかぎり、禁酒に健康一般をお任せするのは無理というものだろう。

 時間が有効に使える、ということをメリットに挙げる人もいる。確かにそうかも知れないが、私としては「いまさら時間を有効に使っても」という気もしないではない。むしろ、その有効な時間が、これまでいかに時間を無駄に使ってきたかの後悔の時間になっているぐらいだ。

 そう考えていくと、結局、私にとっては、禁酒のメリットとは、禁酒自体以外にないように思える。飲まなくてよい、というのは、非常に気が楽だ。これは飲んでいた時には気がつかなかったことだ。

 禁酒して人生がうまくいけば大いに結構だが、たとえうまくいかなくても、この気楽さだけは確保できれば上出来ではなかろうか。

チュニジアのレストランのお酒のつまみ。