小説

最後の読者(1)

私は書くものを SNS で発表しているが、読者がひとりもいなかった。フォロワーもゼロ、「いいね」もゼロ、つまり意味がゼロで、この状況に耐えかねて、私はついに AI に作品を読ませてみた。すると AI は何作か読んだ後で、こう結論づけた。

「あなたの作品に読者はいないでしょう」

私はさらに自分の書いたものを読ませてみた。するとこんな返事が返ってきた。

「これらは、読者を拒否する作品です」

「そんなわけがない」と私はムキになって、大量に読み込ませてみた。するとAIは、向っ腹を立てたか、腹でも下したのかもしれない、こんなことを言うまでになってしまった。

「あなたの作品は、意味はゼロ。価値もゼロ。読者もゼロ。目的もゼロ。作品と呼ぶことさえ妥当ではない」

「なんだこのゼロ回答。ひどいじゃないか」と私は不愉快になった。「じゃあ、読者が読みたくなるような作品とやらを書いてやろうじゃないか。そんなの簡単だ」

私は読者に寄り添うことを第一として「作品」を描き始めた。SNS と AI、推し活などの現代的な装置を絡めた物語に、魅力的なキャラ設定を融合した。結末にも神経を集中し、切なくて、読んだ後に共感の輪が広がるように工夫を凝らした。そして、ついに「あなたのことがここに書いてあるよ」と宣伝できるような作品が完成した。AI のメッセージ入力ボックスに強引に押し込んで送信すると、すぐに返答が返ってきた。

だが、それはまったく意外なものだった。

苦い文学

改姓専門弁護士

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苦い文学

これが社会構成主義だ

先生は壇上に立ち、私たちに静かに語りかけた。

「私たちのものの見方は、社会によって限界づけられています。つまり、私たちの知識は、社会を離れては存在しませんし、逆を言えば、社会を離れた存在は私たちには知覚することもできないのです。このように知識の客観性を疑う立場が、社会構成主義です」

先生は一枚のカードを取り上げられた。「ここに一枚のカードがあります。私たちがこのカードの存在を認識しているのは、私たちの社会がそのように見させているからです」

先生はポケットからハンカチを取り出し、カードの上にかけた。「ここで、私はこのカードを社会から離脱させてみましょう。ワン、ツー、スリー!」

ハンカチが取り除けられると、カードが消え失せていた。「これはマジックではありません」と先生は言った。「私たちの社会の構造からこのカードを追放したのです。それで、みなさんの目の前からこのカードが消え失せたのです」

私たちがざわめき出すと、先生は微笑まれた。「もう少し説明が必要なようですね。では、みなさんにも参加していただきましょう」

先生は会場に話しかけ、ひとりの女性が壇上に上がった。先生は彼女を隣に立たせた。「私たちがこの素敵な女性を認識しているのは、私たちの社会の構造にこの方が組み込まれているからに過ぎません。では、その構造を少しばかり変えてみましょう」

背後に大きなボックスがあり、先生はその女性を入れ、蓋を閉じた。「では、社会構造に変化を与えましょう」

先生は「オールタネーション!」と大きな声で唱え、ボックスの蓋を開けた。中はからだった! どよめきと驚きの声が響くなか、先生は叫んだ。

「これが社会構成主義です!」

盛大な拍手が鳴り響き、先生はゆうゆうと退場された。司会が次の出し物をアナウンスした。

苦い文学

生まれる前の記憶

幼児のある時期に、生まれる前の記憶を語りだす子がいる。

例えば、母親の胎内にいたときにこんなことがあった、とか、生まれるときはこんなふうに出てきた、とか語るのだが、奇妙なことに、親はそれに思い当たる節があるのだ。

また、それ以前の記憶を語る子どももいる。「神様のところで遊んでいたんだよ」とか、「空の上からお母さんを見つけて気に入ったのでお腹の中に入ったんだ」などと言っては、親を神妙な気持ちにさせるのだ。

友人の息子が、3歳のとき、急に生まれる前の記憶を話しだした。ただしその記憶は少し変わっていた。幼いながらに一生懸命語ろうとするその言葉を総合すると、どうやら精子の時の記憶を語っているようなのだ(もっとも、そういう例もある)。それはこんな内容だ。

その子が精子だったとき、他の精子たちと競走になった。彼は一生懸命走って、とても大きな家(子宮と思われる)に1番で入ったのだという。

しかし、負けた精子の中でもっとも大きい精子が、「不正があった!」「受精が盗まれた!」と騒ぎだし、その親玉精子に賛同する精子たちが、おかしなかぶりものを身につけ、暴れながらその大きな家に侵入してきた。これが「すごくイヤで困った」のだそうだ。

生まれる前の記憶を語るこの物語をどう解釈するかはともかく、陰謀論との戦いは、我々が生まれるずっと前から始まっていることは、確かなようなのだ。

苦い文学

町の恥

コロナのせいなのか、それともアベノミクスのせいなのか、私の住む町に、おかしな連中がウロチョロするようになった。

くたびれたトレンチコートをまとい、黒縁の眼鏡をかけた男は、いつもこの格好で、何やブツブツつぶやきながら、町のあちこちに出没する。今日だけで私は、朝に2回、昼前に2回、午後から夕方にかけて4回、さらに夜には2回、駅・スーパー・商店街で見かけた。

こいつに劣らずおかしなのは、身なりのよい年配の婦人で、なんと見るたびにかぶっている帽子が違うのだ。今日、朝7時ごろに見かけたときは、白い花の飾りがついた丸い帽子だったが、午後3時にはつばの広い黒い帽子を載せていた。そして、午後8時に私が駅の地下道ですれ違ったときには、茶色いニット帽を目深にかぶっていた。一人でファッションショーでもやっているつもりなのだろうか。

この町に巣くうおかしな連中について語り出すとキリがないが、もう一人だけ挙げておこう。そいつは、いつも駅のデッキにいて、ギターともウクレレともつかぬような奇怪な弦楽器を抱えている。そして、驚くなかれ、決してそれを弾くことはないのだ。私は今日も始発前からこいつを見張っていたから、本当だと断言できる。この「ギタリスト」はただ立っているだけなのだ。なんたる時間の無駄遣いであろうか。

どいつもこいつもたいした暇人で、頭のおかしい連中だ。こういう連中が徘徊しているとは、町の恥ではないか。政治家は何とかすべきだと思う。

問題:この町で、もっとも暇で、もっともウロチョロしていて、もっとも頭のおかしい住人は誰か答えなさい。