風刺・戯文

謝罪の評価

ヨーロッパのとある国の政治家が堂々とつり目のポーズで写真を撮り、アジア人を侮辱したことに大きな非難が巻き起こった。

良心ある人々はこのような差別は許してはいけないと訴え、その声が国の政府を動かした。大統領がこんな声明を発表したのだ。

「私たちの国の国会議員による最近の侮辱的なソーシャルメディアの投稿に対して、心からおわび申し上げます。こうした投稿は、平等とインクルージョンを大切にする私たちの国の価値観を反映していません。人種差別、あらゆる差別は私たちの国にあってはならないものです」

こうした一連の騒動について、日本でも差別を非難したり、大統領の声明を評価したりする声が上がった。そして、この問題はついに日本の国会でも取り上げられるに至った。

野党が首相に質問を投げた。

「首相は、大統領の謝罪についてどうお考えか」

首相はこう答えた。

「今回の大統領の謝罪に関しては私はたいへん評価しているところであります。つり目の国民の皆さんもこれでひと安心でしょう」

小説

新しいサービス(3)

スタッフの指示にしたがい Apple Store の2階に行くと、そこには別のスタッフが立っていた。私を見ると近寄ってきて柔らかい口調で用件を聞いた。

「修理を待っている人専用の待合室に行きたいのですが……」

スタッフは私の名前を聞き、iPad を操作した。「こちらにどうぞ」

ついていくと、エレベーターの前に出た。だが、通常のエレベーターと異なり、ボタンがないのだった。スタッフは「このままお待ちいただければ、自然に降りてきます」と告げて立ち去った。

しばらく待っていると銀色の扉が静かに開いた。私は箱の中に入った。壁は薄い銅色のパネルで覆われていて、まるでホテルのエレベーターのようだった。だが、壁面に手すりがあるだけで、ボタンも緊急停止装置もインターホンも何もなかった。いや、ただ大きな Apple のロゴだけが壁の中央に配されていた。

あちこち見回していると、開いたときと同じように静かに閉まった。そして、機械の囁きと体の感覚の変化から、上昇しはじめたのを知った。上昇は続いたが、扉の脇にも上部にもいかなる表示もないため、いったい何階を通過しようとしているのかわからなかった。閉じこめられ不安が忍び寄ってきた。エレベーターが停止し、扉が開いた。

苦い文学

地頭がいい病

だれもが「地頭のいい人」を褒め称えている。だが、地頭の悪い人間のひとりとして、私は文句を言わずにはいられない。「地頭がいい」というのは病気だ。それはただ単に「頭の回転が速い」だけの空虚な病なのだ。

実際、頭の回転が速いということは、そんなに褒められたことではない。たとえば、それは食べるのが速いのに似ている。早食いはいつか体を壊す。ゆっくりよく噛んで食べるに越したことはない。

それと同じで、頭の回転が速いだけだと、かならず害が起きる。むしろゆっくり考えなくてはならない。本当の頭のよさとは、頭の回転に振り回されるのではなく、それに歯止めをかける能力のことではないか。だが、回転を遅らせてゆっくり考えるためには訓練が必要だ。

訓練とは、事実を集め、仮説を立て、その仮説を検証し、誤りがあれば現実に即して直す。難しいように思えるが、普通の人なら誰でもやっていることだ。

ただ「地頭がいい病」はこれができないし、むしろ軽蔑すらしている。その結果、自分の頭の回転の赴くままに世界を理解し出す。こうなるともう好きなものしか食べない。頭の回転習慣病だ。そのうち陰謀論にはまりだす。

孔子の言葉に「学びて思わざれば則ちくらし。思ひて学ばざれば則ちあやうし」というのがある。私は論語の解釈ができるような知識はないが、ここでいう「学ぶ」というのは、上で述べた「現実を相手にした訓練」のようなものだろう。そして「思う」とは「頭の中の働き」だ。

事実を扱う訓練だけをしても意味がないのはもちろんだが、「地頭のよさ」だけで現実をすっ飛ばそうとするのは、あぶない。

苦い文学

未来の電車

久しぶりに田舎に帰ったら、電車の本数がひどく減っていた。

しかも車両も減っていた。昔は6両ぐらいあったと思うが、今はたったの2両だ。

私はこの短い電車に乗った。しばらくして、目的の駅に着いた。降りようとしてドアの前に立ったが、開かない。驚いたことに、ドアの開け閉めは、乗客がボタンでやる式になっていた。寒いところでよく見かけるやつだ。慌ててボタンを押す。こんなところに閉じ込められるのはごめんだ。

ついにドアの開閉にも手を抜くようになったのだ。外から見ると、電車には「ワンマン運転」と書いてあった。いばった男がいかにもやりそうなことだ、と思って運転室を見ると女性がいた。

私には未来が見える。これから日本の電車に何が起こるか、予言をしておこう。

まず、電車は1両になるだろう。その次は、運転手がいなくなる。乗客が運転するようになるのだ。

その乗客もどんどん少なくなっていく。

最後は、線路の上にトロッコが置いてあるだけになる(ただし、特急料金と指定席料金が必要)。

苦い文学

ハミガキ

以前、チュニジア人の友人が言っていたのだが、日本のハミガキはとても甘いのだそうだ。あまりにも甘いので、なにか体に良くないものが入っていそうだ、とも言っていた。

その人ひとりだけの意見ならばいいのだが、もうひとり別の人も同じことを言っていた。

チュニジアに滞在している間、ちょうどハミガキが切れた。ではチュニジアのハミガキは甘くないのだろうかと思って、薬局に行って買った。

チュニジアのハミガキといっても、店に置いてあったのはどれもヨーロッパの製品のようだった。チュニジアのものもあったのかもしれなかったが、「日本のは甘い」と言っていた人は、フランスで暮らしている人だ。だから、ヨーロッパ製でも構わないだろうと思って、店頭に並んでいるもので一番上に掲げられているものを買った。けっこう高かった。

それでさっそく磨いてみたが、甘くないと言われればそんな感じだ。しかし、高級なヨーロッパ製だ。店主おすすめの逸品だ。私はありがたく磨き、ありがたい気持ちのまま日本に持ち帰り、ありがたい気持ちを抱きつつ最後までしっかり使った。

その製品の名前は「Sensodyne」。日本ではシュミテクトの名で売られている。