風刺・戯文

文学のリマスター

リマスターとは、現代の最新技術を用いて、昔の音源や映像の音質や画質を向上させることだ。音楽であれば、デジタル化、音圧調整、ノイズ除去などによって、音を補正すると、クリアで迫力のある音に生まれ変わる。

映像のリマスターも同じで、解像度を高くしたり、傷やノイズを無くしたり、色調を鮮やかに補正することだ。YouTube などには、古い作品とリマスター後の映像を並べ、その違いをはっきりと示してくれる動画もたくさんある。古い映画やアニメ・ドラマが、まるで最新の作品のようにキレイに見えるのだ。

このリマスターの手法を、文学にも応用できないか、と私はかねてから考えていた。そして、いろいろ試行錯誤した結果、ついに小説のリマスターに成功した。解像度を 8K にまで高め、独自に開発した AI を活用してノイズを消去し、色調も可能な限りオリジナルに近いものを目指した。リマスターしたのは、あの名作、夏目漱石の『それから』のラストシーン。ぜひ、クリアになったイメージと、美しい色彩を味わってほしい。

【修復前】
烟草屋の暖簾が赤かった。売出しの旗も赤かった。電柱が赤かった。赤ペンキの看板がそれから、それへと続いた。仕舞には世の中が真赤になった。

【8K AI リマスター後】
烟草屋の暖簾が赤かった。売出しの旗も赤かった。電柱が赤かった。赤ペンキの看板がそれから、それへと続いた。仕舞には世の中が真赤になった。

苦い文学

地震発生確率ゼロ世界

今月 15 日、政府の地震調査委員会は、南海トラフ巨大地震の今後 30 年以内の発生確率について、80 %に引き上げた。

これは「いつ地震が起きても不思議ではない」ことだという。なんとも恐ろしいかぎりだ。

この発生確率 80 %とはどういうことだろうか。私は独自に確率を研究したのだが、それによると、これは 100 の並行世界があるとすると、そのうちの 80 の世界で地震が起きるということだ。とすると、私たちのこの世界が地震の起きない 20 の世界のひとつであれば、地震は起きないということになる。

では、どうすればその 20 %に加わることができるのだろうか。ここで少し考えてほしい。もしサイコロを振って、1の目が出てほしいときに1が、あるいは6の目が出てほしいときに6が出た人がいたら、私たちはその人をどう呼ぶだろうか。もちろん幸運な人である。

つまりこういうことだ。もしも私たち日本人が十分に幸運であるならば、この世界を地震の起きる 80 %の世界ではなく、地震の起きない 20 %の世界に移行させることができるのだ。

では、幸運であるためにはどうしたらよいだろうか。おまじないやお守りといった個人的な努力には限りがある。日本政府が率先して運気アップ政策を推し進める必要があろう。新たに 7777 円札を発行するのも有効だ。

しかし、もっとも大事なのは幸運を浪費しないことだ。私たちはつまらないことで運を使わないように我慢すべきだ。幸運節約社会こそ地震のない世界への近道なのだ。

北朝鮮のミサイルが運悪く日本の原発に落下したり、不幸な無差別テロが頻発したり、不運な事故で無辜の人々が犠牲になったり、皇位継承者がゼロになったり、ロシア・中国との戦争に駆り出されて命を散らしたりなどという非運の連続も、幸運にも地震の起きなかった日本のためだと思えば、どうということもなかろう。

苦い文学

ドリーム忠臣蔵

《スポイラー注意:以下の小文を読んだ者は、以後、まともに忠臣蔵を味わうことができなくなるであろう》

元禄 14 年 3 月、江戸城松の廊下で浅野内匠頭が吉良上野介を切り付ける事件が発生した。事件を重く見た幕府は浅野内匠頭に即日切腹を命じた。

赤穂藩は改易処分となり、主を失った元藩士たちは浅野家再興の運動を始めた。そのいっぽう、江戸詰めの浪人たちから、仇討ちを求める声が上がり出した。

筆頭家老であった大石内蔵助は、京都山科に隠棲していた。仇討ち派の動きが活発になったのを受け、江戸に下り、元藩士たちと会合を重ねた。

京都に戻った大石内蔵助は、廓で放蕩三昧の日々を送るようになった。遊女に囲まれ、酔い痴れて、歌を歌っているところに、吉良側に寝返った元藩士がやってきた。内蔵助に仇討ちの意図ありやなしやを探る、その元藩士の目の前で、酔い潰れた内蔵助はいびきをかいて眠ってしまった。

夢の中で、大石内蔵助は、46 人の仲間たちを率いて、吉良上野介の屋敷に討ち入り、みごと仇討ちを果たした。

苦い文学

免疫の虐待

孤独を防ぐワクチンに反対する反ワクチン主義者は、次の四つの傾向に分けられる。

①どこにでも現れるお馴染みの陰謀論者たち。秘密結社《カバール》が人類を支配するためにワクチンを利用している、という荒唐無稽な主張をなす。

②孤独ワクチンの接種を人権侵害だと非難する人権活動家たち。ワクチンを受けない自由も保障されるべきだと訴える。

③孤独の擁護者たち。②のリベラルな考えを極端に推し進めた結果、人間から孤独を奪ってはならない、という不合理な見解を抱くに至った。

④過激な動物愛護主義者たち。

最後のグループについては説明が必要である。このグループの信ずるところによれば、ワクチン接種はきわめて重大な動物虐待を引き起こしており、ただちにあらゆる接種を停止すべきだというのである。

この「動物虐待」について、これらの人々はが主張するところはこうだ。

「ワクチン接種によって、人間の体内にイミューンという生命体が生まれる。このイミューンを人間の体という檻に閉じ込め、その命を搾取することによって、われわれは免疫を獲得する。つまり、孤独に対する免疫とは本質的には動物虐待なのだ」

奇怪な妄想というほかないが、にもかかわらず、これらの異常な動物愛護主義者たちのグループは勢力を伸ばしつつあり、しばしば事件を起こしている。

先日も、このグループに属す医師がひとり逮捕されたばかりである。報道によれば、この医師は「イミューン」を死者の頭から救出するという妄想にとらわれて、遺体を毀損したのだという。

苦い文学

チャーチル式

マティーニとはジンとベルモットを混ぜて、オリーブを投入するショートカクテルだ。ベルモットの量が少なければ少ないほど辛口になって、ドライ・マティーニ、さらにはエクストラ・ドライ・マティーニと呼ばれる。

イギリスの首相チャーチルは辛口のマティーニを好むあまり、ベルモットの瓶を横目でチラと睨むだけでよしとしたという。これはよく知られたうんちく話だ。

さて、日本では少子化のため、どこの大学も学生を集めるのに必死だ。なかには経営を成り立たせるため、留学生を多く受け入れている大学もある。

しかし、どんな留学生でも大学にはいれるわけではない。日本語能力試験というものがあり、N2(上から2番目のレベル)に合格していなくてはならない。

とはいえ、N2合格者だけ、とすると、今度は志願者が限られてくる。なので、一計を案ずる学校が出てくる。

N2の試験を受けていれば、入学を認める、というのだ。その心意気だけでもうN2相当と認めちゃう、というわけだ。

この調子で行くと、そのうち、N2のことをチラとでも考えたことがあるだけでも入学させてしまう大学が出てくるのではなかろうか。

いや、なかろうかどころではない。実はチャーチル式の大学はすでにあるのだ。