散文

カとガ(1)

アラビア語には二つの「カ」の音がある。ひとつは日本語の「カ」に近い音だ。一般的な音声記号で書くと [k] になる。専門的には無声軟口蓋破裂音という。もうひとつの「カ」は、[k] よりも口の奥のほうで作る音で、無声口蓋垂破裂音と呼ばれる。記号で書くと [q] だ。これは日本語にはない音だ。口を大きく開けてカラスの鳴き声を真似すると近い音が出るかもしれない。

アラビア語では [k] と [q] はまったく違う音だ。kalb は「犬」を意味する語だが、この k を q に変えて qalb とすると「心」という意味になる。

さて日本語にはさらに「ガ」がある。これは [g](有声軟口蓋破裂音)だ。これとは別に鼻濁音の「ガ」([ŋ]、軟口蓋鼻音)もあるが、ここでは関係ない。そして、アラビア語にはこの [g] の「ガ」がない。

ただし、これは標準アラビア語の話だ。アラビア語には、公的な場で使用される標準アラビア語と日常的に使われるアラビア語方言という二種のアラビア語がある。標準アラビア語には [g] はないが、方言にはこれを持つものも多い。とくに北アフリカのアラビア語方言では「ガ」がよく聞かれる。

私はこの [k] と [q] と [g] の三つの音についてかねてから不思議に思っていることがある。それについて少し書いてみるというのが、この記事の目的だ。