私はキャリーバッグをうんとこしょと持ち上げて電車を降りた。それはオレンジ色の大きなバッグで、中には本が詰まっていた。長年使ってきたせいか、車輪の部分がおかしくなって、転がすとゴロゴロとやけに大きな音を立てた。あまりにもうるさいので、ときどき振り返る人もいる。私は恥ずかしかったが、捨てるのも面倒なのでそのまま使い続けていた。それに、ノイズキャンセリング機能のついたイヤホンを装着すると、音も聞こえなくなった。
階段で持ち運べないほど重かったので、私はエレベータを探した。ホームを少し歩くと、エレベータの表示のついた柱が見えた。入り口は反対側にあるようで、今しも三人の乗客がゆっくりと回り込んで行くところだった。歩き方がどこかぎこちないジャージ姿の男の後ろを、二人の老人がトボトボと歩いていた。私は次に乗ろうと思って急がずに進み、エレベータの前に立った。すると思わぬことに、閉まっていた扉が開いた。中の人が私に気が付いて開けてくれたのだ。私はとっさにイヤホンを外し、お礼を言いながら乗り込んだ。ジャージの男が連れの人に「ゴロゴロ音が聞こえたから、乗る人がいるって気が付いたんだ」と得意そうに言った。
エレベータは改札口のある階に到着し、私たちは降りた。三人が改札口に向かうのを見送りながら、私は乗り換えのために反対側にあるもう一基のエレベータに向かった。
エレベータの前には、若い女が立っていた。そのわきには薄紫色のスーツケースがあった。エレベータが上昇してきて、扉を開いた。私は彼女の後に続いて乗り込んだ。女が「閉まる」のボタンを押したとき、背の高い老人がのっそりと戸口に現れた。私は慌てて「開ける」ボタンを押そうと探した。老人は閉まろうとするドアを手で押さえて、私のすぐ隣に立った。下降を始めたエレベータの中で、女が「もう!」と苛立たしげに言うのが、ノイキャン越しにも聞こえた。