苦い文学

久米仙人

世俗の生活に疲れ果てたので、仙人になろうと思った。それで、このコロナ禍をものともせずに旅に出て、仙人の山にたどり着いた。

見上げると、山は険しく、夏だというのにその頂は霞に隠れている。この霞の向こうには桃源郷が広がり、仙人たちが自由自在に空を飛び回り、毎日、楽しく暮らしているのだ。

そう思うと気がせいたが、もう午後3時近かった。今から登るのは危険だと判断した私は、少し引き返して、麓の小さな町で一泊することにした。

町は、山に向かう時には気が付かなかったが、なんとなく奇妙な印象を与えた。私は汗をかきかき、宿を探して歩き回った。ときたま、町の人々を見かけた。下校中の小中学生たちが騒がしく私のそばを駆け抜けて行った。

町の様子を知れば知るほど、ますます違和感が募っていった。やがて、一軒の旅館を見つけ、玄関を入ると、年配の男が出てきて、部屋に案内してくれた。

その男は旅館のあれやこれやについて説明してくれたが、その口調や物腰は穏やかだった。私は少し不躾かもと思いつつ、彼に尋ねた。

「さっき、町を少し歩いたのですが、ひとりも女性を見かけませんでした。小中学生も男の子しかいませんでした。すこし不思議に思えますが……」

「ああ、この辺りでは、女は家にいるものと決まっているので。学校に行くのも男だけ。女の子は家に先生がやってきて面倒を見るんで」

理由を尋ねると、男はこともなげに答えた。

「女が外をうろついていると、仙人様たちが迷惑だというのでね。この辺りの昔からのしきたりです。なにしろ、仙人様あっての町なので」

「じゃあ、どうしても女性が外出しなくてはいけないときは?」

「そのときは黒い布をすっぽりかぶって出かけます。ですので、今日みたいな暑い日は女は決して出やしません」

「では、この町では買い物も洗濯も男性の仕事なんですね」

「ええ、ですが、最近では男も外では黒い布をかぶるように、と仙人様サイドから町に要望が出ているそうで……これも時代の流れでしょうかね……」