チュニスの目抜通りの起点、古いカテドラルの前に小さな広場があって、イブン・ハルドゥーンの大きな立像がある。チュニスを観光する人は必ず通る場所だ。
イブン・ハルドゥーンは昔の偉い人だ。チュニス出身で、今でも読まれるような本を書いた。日本語訳もある。
ジャスミン革命前はその像が立っているきりで、私は何度か写真を撮った。革命後に行くと、イブン・ハルドゥーン像の前に「I ♡ TUNIS」という残念なモニュメントがいつの間にかできていた。イブン・ハルドゥーン像の写真に必ず入り込むので、私は写真を撮るのをやめた。
それからしばらくして「I ♡ TUNIS」が像の後ろに移動させられた。今では像の前に軍用車が止まっている。銃を持った兵士がその周りに立っている。面倒なことになりそうなので、私は写真を撮るのをやめた。
Sさんが、このイブン・ハルドゥーン像についての逸話を話してくれた。有名な彫刻家がこのチュニジアのシンボルといってもいい作品を任された。台座から足、そしてその上の胴体へと彫っていく。そして、ようやく顔に取りかかろうというときになって、彫刻家は気がついた。イブン・ハルドゥーンの顔がわからない、と。記録などないのだ。
彼は結局、鏡を見ながら自分の顔を彫った。
完成して、当時の大統領であるブルギバの前でお披露目することになった。ブルギバはイブン・ハルドゥーン像を見るや、隣にいる彫刻家の顔を指して、「お前の顔じゃないか」といったそうだ。