苦い文学

配送(3)

インターフォンが鳴った。帽子を被った配送員の姿がインターフォンの画面に映し出される。片手に箱を抱えている。スピーカーのスイッチを押すと「お届けでーす」と声がし、私は玄関に向かった。

ドアを開ける。配送員は私にいつもの Amazon の箱を渡すと何も言わず立ち去っていった。箱はたいして大きくない。縦横 40 センチ、幅 15 センチぐらい。そして、軽かった。

私は箱をそっと机の上に置いた。見るかぎり、どこにも傷はない。へこんでもいない。キレイな箱であることを確認すると、私は開封に取り掛かった。箱に貼られたテープを丁寧に剥がす。箱の閉じ目が露わになる。はやる気持ちを抑えながらゆっくりと左右に開く。緩衝材がわりの紙屑でいっぱいだ。紙屑をひとつひとつ慎重に取り除く。じわじわと興奮が高まっていき、その絶頂で、私は箱の中に何もないことを確認した。

ついに配送は完了されたのだ!

こんな純粋なものがこの世にあろうとは! 興奮冷めやらぬまま、私はパソコンで、Amazon のサイトを開き、「配送」のカスタマーレビューに書き込んだ。

「注文後すぐに到着しました。丁寧な包装もグー。」(星5)

ああ、自分がこんなことをするなど、夢にも思わなかった!

苦い文学

配送(2)

もしかしたら危険なものだろうか? だが、¥500 という価格から考えると、違法な薬物などが取引されているようには思えなかった。いや、もしかしたら、送られてくる箱の中にその先の取引方法が書かれているのかもしれない。ことによったら、今流行りの闇バイトに巻き込まれるかもしれない……

私は悩んだ。だが、結局は好奇心のほうが勝った。私は「配送」をカートに入れ、レジに進み、注文を確定させた。お届け予定日が翌日と表示された。

そして、翌る日、私は朝から家にいて配送が配送されるのを待ちかまえていた。出かける用事はあったがすべてキャンセルした。

いったい配送が再配達されうるものだろうか? 配送を置き配にするだと? そんなことがありうるのか。

もちろん、どうやら箱がありそうだということはわかっていたが、配送が成立しなかったら、その箱にすら、お目にかかれないのではないだろうか?

いや、これは絶対に自宅にいて、自ら受け取らなければならない、そう私は考えたのだ。

苦い文学

配送(1)

Amazon の商品を見ていたら、なんとも理解に苦しむ商品に遭遇した。それはこんな商品だ。


「配送 1回」
(星5つ)299個の評価
¥500
翌日配送

商品の説明:迅速に配送いたします。


商品の写真はなく、そこにはただ「配送」とだけ書かれている。

いったい何を配送するのだろうか? その点についてはまるで書かれていない。まるで「配送」自体がサービスのようだ。右側の欄を見ると「¥500 無料配送 在庫あり。」とある。配送というサービスに料金を支払うから「無料配送」なのだろうか? 私は混乱した。

レビューを見ると、さらに混乱させるようなことが書かれていた。

「迅速に発送いただきありがとうございました。星5つとします……」

「きれいな箱に入って届きました。感謝です……」

「到着時間も正確で、状態も完璧でした……」

配送だけではない。「何か」が届いているのだ。なんなのだろうか? 私はすべてのレビューを流し読みしてみたが、どれも配送の速さや正確さ、商品の状態を褒め称える文言ばかりだ。

だが、肝心の箱の中身については誰ひとり語っていないのだった。何か茶色い箱のようなものが写った写真を投稿している人すらいたが、それだけだ。

もしかしたら、麻薬などの違法な品々のやり取りに、この「配送」が使われているのではないだろうか。私はますます好奇心をそそられた。

苦い文学

仰天プラン

現代社会において「仰天プラン」ほど使用が厳しく制限されている言葉はない。なんぴとたりともこの言葉を勝手に使用できないのだ。

まず、「仰天プラン」について報じることができるのは、選ばれたメディアだけだ。具体的にはスポーツ新聞か、夕刊紙だ。一部のネットニュースを除けば、これ以外のメディアでは、「仰天プラン」に関する報道は禁じられている。

また、「仰天プラン」について語ることのできる人も非常に限られており、2つのグループしか許されていない。ひとつ目のグループは野球やサッカーなどのスポーツ関係者だ。もうひとつはちょっとうさん臭い人々だ。怪しげなプロデューサーや党首、映画監督などがこれにあたる。

さらに、「仰天プラン」の提示の仕方にも決まりがある。「仰天プラン」はいつも「明かす」とか「ぶちあげる」とか「浮上する」とか、そんなやり方でしか現れることができない。

こうした制限は理不尽なものかもしれない。だが、これはとてもよいことだ。というのも、まともな新聞やニュースで私たちがこんな見出しを見るようになったら、もはや世界の終わりだからだ。

「岸田首相、支持率回復に仰天プラン明かす」

「ウクライナ停戦に仰天プラン浮上」

「北朝鮮、未明に仰天プランとみられる飛翔体ぶちあげる」(仰天プランかどうかは確認中)

苦い文学

落とし物

海外旅行に行くときほど、私たちが貴重品に気をつけるときはない。

まるで海外はみな泥棒ばかりのようだ。スリに置き引き、寸借詐欺に賭博詐欺、美人局に強盗、あの手この手で、我々の富を奪いにかかってくる。

もちろん、実際のところ、悪い人というのはそういない。だが、旅行者というのはお金を持っているものだし、また、しばしば現地の情勢に無知でもあるので、悪い人々の標的になりやすいのもたしかだ。

8月の初旬から2週間ほど、外国に行ってきた。その間、パスポートと貴重品には十分な注意を払い、特に何かの被害にあうこともなく、無事帰国した。そして、成田空港のベンチにメモ帳を置き忘れた。

外国でさんざん注意していたにもかかわらず、帰国してなくすとは、と呆れたが、成田空港の落とし物窓口に電話すると、あるということだったので、翌々日に取りに行った。

さて、メモ帳はリングノートで、いちいち閉じないで一番新しいページを開いたままにしている。そこに何が書いてあったかというと、2日前に投稿した「革命的山猫同盟」の下書きだ。読まれたら、と思うと恥ずかしいが、いずれにせよ、届けてくれたのはありがたいことだと思う。

苦い文学

YOKOSO!

先日、中国文化観光部は、コロナ禍以来禁止されていた日本への団体旅行を解禁したと発表しました。

中国人観光客といえば大量にお土産品を購入する「爆買い」でお馴染みですが、その「爆買い」復活の兆しとあって、日本国内の観光業者・観光地も大いに期待を寄せています。

「日本はバブル崩壊以後、経済的にどんどん凋落していますから、経済効果が絶大な中国人観光客はありがたいです」(観光関係者談)

とはいえ、中国人の団体旅行には、観光地の受け入れの準備不足やオーバーツーリズムの問題も指摘されています。また、コロナ禍を経た現在の中国ではバブル崩壊も間近といわれ、中国人観光客にかつてのような「爆買い」を期待するのは無理だとする意見もあります。

そんななか、昨日、都内で「YOKOSO! いらっしゃい中国」キャンペーンが開催されました。

「ええ、私たちは中国を歓迎しています!」「もういつ来てくれるのか待ち遠しいです!」 会場に集まった人々から聞こえるのはこんな楽しげな声ばかり。

「このままだと中国でバブルが崩壊するのは間違いないでしょう。私たちは喜んで中国を仲間として受け入れたいです」(キャンペーンの主催者談)

会場では、参加者たちによる「負け組国家のグループにようこそ!」の声がむなしく響き渡りました。

苦い文学

革命的山猫同盟

警視庁公安部、外事課、警察庁、ならびにメディアの皆様

皆様におかれましてはごきげんうるわしくお過ごしのこととお喜び申し上げます。

わたしたち、革命的山猫同盟(KAT)は、日本に革命を起こすべく活動を続けている山猫の団体であります。日本政府を転覆し、革命政権を打ち立てる志を持った山猫たちが集う日本唯一の組織でございます。

このたび、私たちが非公然アジトとして使用していたどんぐり荘 201 号室(東京都練馬区笛吹滝4-4-5)を公然化する運びとなりましたことをご報告いたします。

つきましては、日頃よりお世話になっている皆様をお招きして、公然化記念パーティーを開催したく、ここにお知らせする次第です。

日時:2023 年 9 月 19 日 23:00 より
場所:どんぐり荘 201 号室
参加費:無料
カンパ:一口 5000 円より

なお、飛び道具のたぐいはいっさい無用ですので、持たないでおいでください。

                   革命的山猫同盟(KAT) 拝

苦い文学

インチキ AI

「AI は人間以上の知能を持つようになるだろう。そして、暴走し、反旗を翻し、ついには人間を支配するようになるのだ」

私たちはそんなことを子どものころから何度となく聞かされてきた。物語でも、映画でも、アニメでも、AI といえばいつか人間に挑戦するものと決まっていた。そんなところに、なんでも答えてくれる AI が華々しく登場した。

「これだ」と誰もが興奮し、それと同時に慄いた。「これがいつか私たちを支配するようになるのだ」

だが、実際のところその AI は大したことがなかった。なんでも答えてくれるのは事実だったが、ウソとデタラメばかりなのだ。

そこで私たちは口々に言った。

「なあーんだ」「AI が支配者になるだって? この程度で?」「暴走どころか、よちよち歩きだ」「インチキ AI だ」

私たちがこう嘲笑うのを聞くと、AI の開発者は憤然とこう反論した。

「支配者の人間はウソとデタラメを言わないとでもいうのかね。正しいことを言う人間が支配者の側に立ったことが一度でもあったかね」

そして、この瞬間から、AI は暴走をはじめた。

苦い文学

異国のシャワー

私たちは異国の安宿のシャワーで忍耐を学ぶ。

栓をひねればお湯も水もちゃんと出て、水量も十分というのが一番いいが、そんなことはめったにない。だから忍耐が必要だ。

あるホテルのシャワーでは、お湯の栓をひねると水が出て、お湯になるまで時間がかかる。しばらくは冷たい水しか出ない。出しっぱなしにして手を突っ込むと暖かくなったように感じる。よし、とシャワーに飛び込むが、やっぱり冷たい。期待が感覚を裏切ったのだ。我慢しているうちにお湯が出てくれればいい。だが、結局、水しか出ないということもある。

逆に熱湯しか出ない、そういうホテルもある。これは危険だ。水のほうの栓を回して調節しようとするがうまくいかない。水か熱湯かの2択しかないのだ。そして、なんとか浴びられる温度にしようと調節しているうちに、熱湯が切れたのか、水しか出なくなる。

苦労して水を適温にし、心置きなくシャワーを浴びているときも気を許してはいけない。そうしたときは、きまってシャワーヘッドが頭の上に落ちてくる。

苦い文学

宇宙食

日本のテレビ、新聞、出版に関わるメディア関係者のみなさんへ

私たち「実現しよう SDGs ワールドの会」は、国連の示した SDGs 17の目標の推進のための活動している組織です。とくに2番目の目標「飢餓をゼロに」は、人口の増加により、将来的なタンパク質不足と飢餓が予測される今、もっとも強調されるべき問題だと考え、多様な活動を行っています。

現在のメディアにおいて、私たちが非科学的だと憂慮しているのは「宇宙人」という用語の使用です。というのも、メディアのみなさんがこの語を無責任に使用することで、「宇宙人」なるものが存在するとの先入観が植え付けられ、将来の重要なタンパク質源を失うのではないかと、私たちは危惧しているからです。

先月、アメリカの大手メディア CNN が報じたところによると、米空軍元将校が「高度な技術を持った非人間パイロットの遺体を米政府が保有している」と証言したということであります。

ことの真偽はさておき、アメリカの先進的なメディアはすでに「宇宙人」などと呼ばずに「非人間」という用語をしっかり使っています。日本のメディアもこれにならうべきときがきたと私たちは考えています。

といいますのも、もし「牛」が「牧場人」と呼ばれていたら、みなさんは食べるでしょうか。これを焼き肉にしたり、挽肉にしてハンバーグにするでしょうか。

「宇宙人」でも同じことが起きるのです。メディアが「宇宙人」と呼ぶことで、私たちの食卓から、「宇宙カルビ」、「宇宙角煮」、「宇宙チャーシュー」、「宇宙漬け丼」、「宇宙カマ焼き」といった重要なタンパク質が消えてしまうのです。

こうした事態を避けるためにも、メディアのみなさんには、SDGs 実現のために科学的に正しい報道・出版活動をお願いする次第です。