苦い文学

ポジティブ・シンキング

ネガティブな考えばかりでは、人生を損しているようなもの。なんだってポジティブに考えれば、生きるのが楽しくなってきます。

例えば、電車に乗り遅れるのはイラつく経験。でも「そのおかげで、ゆっくりと待つ時間ができた」と考えれば、腹も立ちません。街に出れば、ひどい混雑で、とてもストレスフルですが、そんなときこそノンキに人間観察してみましょう。富裕層さえ見なければ、きっと楽しくなってくるはずです。

外食しようと街に繰り出したのに、どこも満席で食べる場所がない。ならば、いっそのこと、家に帰ってホームパーティなどいかが? たったひとりでもかけがえのない経験ができるはず。

所持金が少ないのも、これは無駄遣いができないということだから、かえってありがたいですね。そして、お金のありがたみをもっともよく知っているのは、低収入のあなたでなくてなんでしょうか。

仕事が底辺? 底辺に降り立ったあなたがこう語っているところをイメージしてみましょう。「人間にとっては小さな一歩だが人類にとっては偉大な一歩だ」 そうすれば、底辺を這い回るのだって、大冒険です。

年金がもらえないので、老後が心配ですって? そんなあなたは、野垂れ死という滅多にない体験ができるんです。今なら、野晒しチャンスもついてますよ!

なんやかんやでもう死にそう? このラッキー野郎! クソみたいな世界から早くおさらばできますよ!

苦い文学

独身をつらぬく男

こんにちは、独身をつらぬく男です。

現代の日本では、未婚率は年々上昇し、独身はすでに当たり前となりました。今やどこにでも独身が溢れています。独身の人々が人生を楽しんでいます。まるで、独身であることが、劣っていると見られていた時代などなかったかのようです。

「独身をつらぬく」とは、そうした古い時代の名残りです。そうした時代には、結婚だけが唯一の選択肢であり、それ以外の道を歩こうとするものは、大変な苦労をしたものでした。ですから、独身は「つらぬくもの」とされるほど、覚悟のいることでした。

現代は、そうした苦労がなくなったかわりに、独身をつらぬくこともなくなってしまいました。皮肉にも、独身の認められた現代ほど、独身をつらぬくのに困難な時代はないのです。

私、独身をつらぬく男は、今、この独身をつらぬく行為を復活させようと奮闘しています。現代では、それはほとんど不可能な行為かもしれません。ですが、試すだけの価値はある、と私は考えています。

なぜなら、不可能だとわかっていても真剣に挑み続ける、この私のひたむきな姿を見て、胸をときめかせる女性がきっといるはずでしょうから……。

苦い文学

インバウン人

私たちは、インバウン人。日本を外国の脅威から守るために、過酷な戦いを続けている。日本政府の特殊機関「Z」が、密かに開発した人間兵器が、私たちなのだ。

Zは、円の価値が下落し、安くなったニッポンを買い漁る外国人観光客を撃退するために設立された。このZが、国家存亡の危機において最初に戦線に投じた兵器が、インバウン丼だ。

インバウン丼とは、身の毛もよだつ高額の価格によって、おぞましい外国人観光客の資金を奪い取ることを目的に開発された、見る目もおいしそうな海鮮丼だ。この兵器は、当初は期待通りの活躍をしてみせた。外国人観光客の資金力に打撃を与え、日本国内での収奪に歯止めをかけたのだ。

だが、円安のスピードがインバウン丼の効果を遥かに超えるという予想外の事態が明らかになると、Zは、私たちインバウン人の開発に乗り出し、実用化に成功したのだった。

私たちは今、日本のあちこち、とくに新宿や渋谷などの激戦地区で、外国人観光客に対する捨て身の攻撃を繰り返している。私たちは日本を守るために死ぬことを厭わない。なにも知らない日本人たちは、インバウン丼を軽蔑したように、私たちを軽蔑しているが、それは私たちの尊い任務を汚すものではない。

私たちには親もいなければ、家族もいない。Zだけが私たちのことをわかってくれる。Zだけが、私たちの流した血と涙に、どんな外国人観光客も払いきれないほどの価値があることを教えてくれた。

私たちは日本のために死ぬだろう。そして、Zが約束してくれたとおり、靖国で安らうことだろう。

苦い文学

ふりだしに戻る(2)

そのカレン人女性がビルマに帰国してからの状況は、彼女の友人からときおり聞くくらいで、詳しくはわからなかった。

ただ、それらの話から私は、彼女がまるで異世界にいて、出口のない迷宮をさまよっているかのような印象を受けたのだった。

それから1年して、私は彼女がカナダに出国した、という話を聞いた。

さて、彼女のボーイフレンドだが、私はタイで会ったことがあった。彼女がまだ日本にいるときで、私がチェンマイに行くと聞いた彼女が紹介してくれたのだった。

彼女がカナダに行ってからは、二人がどうしているかについて、私に教えてくれる人もなく、すっかり忘れてしまった。

それが、今年の春、二人から急にメッセージが来た。11月に日本に遊びに行くから、会おうというのだ。そして、11月25日、私たちは再会し、巣鴨で食事をした。

難民としてカナダにやってきた二人ではあったが、今ではしっかりとした生活を築きあげていた。彼女は現在、看護師として働いている。夫のほうは聞くのを忘れたが、彼の下で二人のカナダ人が働いているそうだ。

政治については、それほど積極的ではない。というのも、そのせいでいろいろと苦労してきたからだ。カナダにはカレン人を含めたくさんのビルマの難民が暮らしているが、彼がいうには、自分たちは距離を置き、カレン人としてよりも「カナダ市民」として、自分たちの生活を楽しむことを優先している、とのことだった。二人の間には子どもがいないので、ときおり、二人だけで海外旅行に出かけ、そのひとつが今回の日本訪問だった。

とはいえ、彼女にとっては、日本再訪だった。以前、東京で働いていたときは、他の場所に行ったことなどなかったので、今回は大阪と広島を回ってきたそうだ。日本語もほとんど忘れたと言っていたが、それでも多少の会話はできた。

思えば、彼女の難民すごろくは 20 年近くも昔にこの東京で始まり、カナダで立派に上がりに到達したのであった。すごろくでは、ふりだしに戻ることほど悔しいことはないが、いったん上がった後でふりだしに戻るのは、喜ばしいことにちがいない。

苦い文学

ふりだしに戻る(1)

2006 年のこと、カレン人(ビルマの民族のひとつ)の若い女性が、不法就労で逮捕され、品川の入管に収容された。

彼女にはタイにボーイフレンドがいた。タイ・ビルマ国境出身のカレン人の男性で、チェンマイに滞在して、カナダに難民として移住する時を待っていた。

カレン人女性は、収容所で2つの選択を迫られた。日本で難民申請するか、ビルマに帰国するかだ。

彼女には難民となるだけの十分な理由があったので、日本で難民申請すれば、いつかは在留許可が出る可能性はあった。しかし、問題はその「いつか」だった。その当時、難民申請をした人は何年も結果が出るまで待たされたものだった。

彼女はボーイフレンドがカナダに移住したら、結婚してカナダに行くつもりだった。だが、難民申請をしてしまったら、結婚したとしても、カナダにすんなり行けるかどうかはわからなかった。なぜなら、難民申請中は外国に行くことはできないからだ。行けるかもしれないが、かなり複雑な手続きが必要で、ことによったら裁判にも発展するかもしれなかった。

では、難民申請を取り下げて、日本からカナダに行けばいい、と思うかしれない。だが、難民申請を取り下げた時点で、彼女は日本では不法滞在者となる。そうなると、カナダどころではない。再び、入管に収容されて、身の振り方を悩むことになる。ふりだしに戻るだ……。

入管に収容中の彼女は悩み続け、やがて結論を出した。ビルマに帰国する、と。どうせふりだしに戻るならば、もっと戻ってやろう、と思ったのかどうかはわからない。

苦い文学

読者の皆様へ

【読者の皆様へ】
本作品には、差別や偏見を助長するような表現、言葉、言い回し、慣用句、罵詈雑言などが含まれています。

そして、これらの表現や言葉は、あくまでも表面的なもの、というわけではなく、作者の偏見や差別意識の明確な表れだということは、作品全体をよく読めば、否、最初の1ページ目を読んだだけでも、明らかです。また、作者が、差別や偏見に対して抗議するどころか、面白半分にこれを煽っていることも、読者の皆様ははっきりと読み取られることと思います。

これらの表現は、これが書かれた現在、そしてこれが書かれる以前の過去、そしてこれが書かれたのちの未来(おそらく今後人類が存続する全期間)においても、決して許されるべきではありません。

しかしながら、こうした作品を出版するさいにこのような「読者の皆様へ」的な文を末尾に掲載すれば、どのような差別的な表現も可能であるどころか、出版社が真剣に差別に向き合っている感も演出できるとのことなので、私たちはこのような小文を掲載し、本作品を刊行することとしました。

読者の皆様におかれましては、どうぞご理解いただけますようお願いいたします。

苦い文学

改姓専門弁護士

熊谷さん「猟友会に撃たれたらと思うと心配で……」
森田さん「マナーの悪いソロキャンパーが火の不始末をしたせいで火事になったら?」
寒川さん「『地球温暖化なのにまだその苗字?』と笑われました……」

そんな悩みのある苗字のみなさん、専門の弁護士にどうぞご相談ください! 苗字変更実績ナント1万件!

【お客様からの感想】
「いまどき井戸など不要と思い、ご相談しましたところ、たちまち変更できました!」(原さん、旧姓:井原)
「花粉症の原因かと思うと気が重かったですが、頼んで正解でした!」(林さん、旧姓:杉林)
「日本の食料自給率を2倍にするために改姓を決意した私を応援してくださりありがとうございます!」(畑畑田田さん、旧姓:畑田)

【改姓トラブルにも対応!】
「財政再建のため合併したところ、新しい市の名前をめぐってトラブルに。弁護士先生のおかげで無事解決しました!」(な行市さんたち、旧姓:中村、西村、沼村、根村、野村)

改姓といえば「いばりかわ弁護士事務所」!

苦い文学

見失った羊

(朝、押しつぶされそうなほど満員の通勤電車が急に停止し、アナウンスが流れる)

ただいま、停止信号のため、緊急停止いたしました。信号が変わりしだい、運転を再開いたします。

(ざわめく車内)

ただいま、線路内に人が立ち入ったとの情報が入りました。安全の確認が取れるまで、しばらくお待ちください。お急ぎのところ、電車が遅れまして、まことに申し訳ありません……安全の確認が取れたため、線路内に立ち入った人の捜索を開始したとのことです。

(車内に怒りの声が上がる)

お急ぎのところ、申し訳ありません。現在、捜索中とのことです。聖書に書いてあるとのことですが、昔、百匹の羊を所有している人がいたそうですが、そのうちの一匹がいなくなってしまいました。そこで、その所有者は、残りの九十九匹をほったらかしにして、見失った一匹を懸命になって探し、ついに見つけました。

(苦しくなった乗客が喘ぎはじめる)

所有者は、大喜びでその羊を連れて帰ると、友人や近所の人々を呼び集めて、羊が見つかったお祝いをしたそうです……再び情報が入ってきました。どうやら無事に保護されたとのことです。運転再開までしばらくお待ちください。

(ほっとする乗客たち)

見つかったお祝いが終わりしだい、発車いたします。

(罵声、悲鳴、絶叫)

苦い文学

宇宙人は人類を監視している

近年、世界各地で UFO の目撃が相次いでいますが、これは UFO に乗った宇宙人が私たち人類を監視しているからでしょう。

それは、UFO の目撃地点が、核施設、大規模テロの現場、戦場などに集中していることからも明らかです。宇宙人は、人類が核をどう使うかに関心があるのです。はっきり申し上げれば、人類が愚行によって滅びないように、監視を続けている、ということです。では、どのように彼らは人類を監視しているのでしょうか。

UFO から目視によって監視しているに違いない、そう思う人もいるかもしれません。それは確かにそうなのですが、考えてみてください。宇宙人は人類よりもはるかに進んだテクノロジーを持っているのです。高度な技術によって、人類のあらゆる場面を記録し、分析している可能性のほうが高いのです。

つまり、ここにいる皆さんの日常のすべてがモニタリングされているのです。これは、今後、宇宙人が私たちと接触してきたときに、大きな問題となると思います。

なぜなら、宇宙人が行なっていることは、盗撮にほかならないからです。これは迷惑行為防止条例と軽犯罪法に抵触する犯罪行為です。それだけではありません。全人類ということを考えると、当然、未成年者も含まれますから、児童ポルノ製造等罪にも関係してきます。仮に「不特定または多数の者に提供する目的」で宇宙に公然と送信したとなれば、天文学的な重罪となるでしょう。

もちろん、これらの法律の対象はあくまでも人類であり、宇宙人ではありません。ですが、宇宙人の盗撮が見逃されるのというのは、不公平な話です。全宇宙を視野に入れた法整備が強く望まれるところです。

苦い文学

スキマ人

貧富の格差がますます広がり、貧困層はもはや本業だけでは生きていくことができなくなった。いまやスキマ時間を活用して稼ぐしかないのだ。

スキマ時間で稼げるような仕事はスキマの仕事だった。人々は、スキマを見つければ見つけるだけ金になることを知った。スキマこそ金だったのだ。人々はスキマの仕事を求めて、社会のスキマの奥へ奥へと入り込んでいった。

そのいっぽうで、富裕層の世界も激しく変化を遂げていた。進歩したテクノロジーによって富裕層はますます豊かになり、超高性能 AI が貧困層の本業を根こそぎ奪っていった。本業を失った貧困層に残されたのはスキマだけであった。

貧困層は、さらなるスキマを目指した。社会の最奥に沈潜し、知覚の閾値以下の空間に身を隠した。スキマに適応して進化した結果、貧困層は完全に社会から見えなくなった。富裕層は貧困層の存在を感知することもできなくなった。

貧困層は極小のスキマでのびのびと手足を伸ばし、繁殖し、発展し、やがて独自のスキマ文明を築き上げた。

そして———世界をスキャンする富裕層のある科学者が、不可解な生命反応を観測した。科学者は分析のすえ、次のような結論に至った。

「この世界には私たちとは異なる生命体が潜んでいる。私はこの生命体をスキマ人と名づけよう。もし、ファーストコンタクトが実現すれば、私たちはこの知的生命体から高度な科学を学ぶことができるかも知れない」 

科学者がそう発表すると、富裕層の社会は猛烈な批判を浴びせかけた。科学者は学会を追放され、地位も信頼もすべてを失った。そして、ある日突然姿を消した。

弟子たちは、科学者がスキマに消えたと証言している。