苦い文学

新しい英和辞書

言葉は常に変わっています。新しい意味や新しい使い方が次から次へと誕生しています。私たちは言葉がわからない時に辞書で調べますが、そこに記された情報はすでに古く、もうない場合すらあります。辞書を引いている間にも、世界は変わっているのです。

だからこそ、新しい辞書が重要です。この度、私たちが新しい現代アメリカ英和辞書を出版したのも、日本の英語学習者の皆さんに、今現在使われている本当の英語を学んでほしいからです。

例えば、truth という言葉の意味を調べてみましょう。従来の辞書ではこんなふうに書かれているはずです。

truth【名詞】(複~s) 真実、事実、本当のこと

ですが、私たちの辞書では現代アメリカ口語の最新の情報を盛り込んでありますから、そんな時代遅れなことは書きません。ご覧ください。

truth 【名詞】(複~s) 嘘、でたらめ

さらに「偽造の、嘘の」を意味する fake を新しい辞書ではこう定義しています。

fake【形容詞】真実の、事実の、本当の
   例文:it’s fake news!「これは本当のニュースです!」

ぜひこの新しい『Clown 英和辞書』をご活用ください!
(『Crown 英和辞書』とのお間違えにご注意ください)

苦い文学

レストランの忍者

これからの時代、日本でレストランに行くということは、おのれの気配を消し、物音を立てずに移動する術を身につけたもののみに許された行為となるだろう。忍者のような人間だけが、レストランで食事を楽しむことができるのだ。

そもそも入店からして難しいのだ。自動ドアを開くときも気づかれないようにまず猫の鳴き真似をして、ホール係の注意を逸らす必要がある。それから、ホール係に見つからないように素早く床這うようにして進み、空いているテーブルに座るのだ。

席についたからといって安心はできない。まず絶対にホール係に目を合わせてはいけない。まるで店の人などいないかのように、自分の携帯か備え付けのタブレットでオンライン注文するのだ。

「おーい、すみません、メニュー!」とか叫ぶのは禁物だ。店から追い出されるだけマシで、通常はフォークでグサリだ。

注文の品が運ばれてくるときが、レストランでいちばん緊張するときだ。皿を置くホール係に気づいたそぶりは決して見せてはならない。まるで魔法のようにひとりでに皿が飛んできて、テーブルの上に置かれる、そんなふうに思い込むのだ。

ときおり、我慢できずにホール係をチラと目を向けたのを見咎められて、追い出されるものもいる。レストランはいかなる形でも客との交流を拒絶している、だからこそオンライン注文なのだ、ということを肝に銘じなくてはならない。

ごくまれにだが、ネットワークの不調のせいで、きちんとオンラインで注文したにもかかわらず、待てど暮らせど頼んだものがやってこないことがある。昔ならばホールの人を呼んで「注文通ってますか?」とか「もしかして忘れてますか?」などと直接たずねるところだが、今はそんなことをすれば一発退場だ。

そうした不測の事態が心配な人は、テーブルを確保したらまず、UBER かなにかで注文して、席までデリバリーしてもらうのがいいだろう。

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死せる魂

アメリカの社会保障番号を管理する社会保障局が、実際には生きている移民6千人以上を、勝手に法的に「死亡」扱いにしていたそうだ。こうすると、移民は身分証明ができなくなるため、就職もできないし、家を借りたり、銀行に口座を作ったりすることができなくなる。トランプ流移民追い出し作戦のひとつだという。

このニュースを聞いて、おそらく世界中のほとんどの人がゴーゴリの『死せる魂』を思い出したことと思う。

これは、記録上は生きていることになっているが、実際は死んでいる農奴を買い取ることで、富裕層に加わることができる、というビジネス戦略が書かれた世界的ベストセラーだ。

全ビジネスパーソン必携と呼ばれるこの書を読んで以来、私は日本でもなんとかこのスキームでひと儲けしたいと考えていた。だが、残念ながら日本に農奴がいないせいで、なかなか着手できずにいた。ところが、このニュースに触れるや、天啓の如くビジネス・アイディアが閃いたのであった。

あまり詳しく書くことはできないが、「死者にはビザの必要がない」「死者は人権とも労災とも賃金とも無縁」「役所の手続きは賄賂でなんとかなる」といえばご想像つくだろうか。

もちろん労働力不足に悩む日本の企業様にとって文句なしの朗報だ。「ご好評につき、海外から死者大量入荷!」 そんな宣伝文句が今からちらついている。

苦い文学

トランプの国

トランプ大統領の関税戦争が、かえってアメリカ国内の物価上昇を招き、国民の生活を脅かしています。「毎年行っていた海外旅行にはもういけなくなりました」と、アメリカ市民の一人は語ります。「外食など贅沢です。このままではアメリカはメチャクチャになってしまいます」

関税戦争により、打撃を受けるのはアメリカ以外の国々も同じです。そこで、関税に対抗するために、国境を超えた市民同士の連帯を作ろうという動きがアメリカで生まれています。世界各国で連帯を訴え続けるアメリカ全国市民生活協会の代表、トーマス・ミラーさんが、今日、来日しました。

「民主主義という価値観を共有する日本の市民のみなさんと力を合わせれば、関税を食い止めることができるはずです」と期待を語るミラーさん。ですが、彼を待ち受けていたのは、予想以上の日本人の生活の貧しさでした。

「欧米では時給が 1 万円、年収 3000 万円以下が貧困層、ホームレスの年収が 1200 万円ですが……これでは日本の国民のほとんどが極貧ではないですか。日本では、もうかなり前からトランプが現れて、国をメチャクチャにしていたとしか考えられません」

ミラーさんは「トランプ先進国に用はない」とすぐさま滞在を切り上げて、他の国に向けて出発しました。

苦い文学

決してやりなおせない社会

「私たちはやりなおせる社会を作りたい!」

そんな一面広告が全国各紙に掲載された。

「日本は、やりなおせる社会でなくてはなりません。人間は誰しも過ちを犯すものです。たった一度の過ちで、その人の人生が否定されることなどあってはいけないし、そうした人にも、もう一度自分の人生を立て直すチャンスがあって当然ではないでしょうか。やりなおせる社会は、誰もが許される寛容な社会なのです」

この意見広告の賛同者には、錚々たる著名人の名が連ねられていた。政治家、芸能人、スポーツ選手、作家に YouTuber……。

この広告からしばらくして、二つの出来事が起きた。ひとつは性暴力でテレビ界を追放された芸能人が、謝罪と苦悩の告白とともに、復帰したこと。メディアは、つまり、オールドもおニューも、これぞ「やりなおせる社会」だと称賛した。

もうひとつの出来事は、この芸能人の被害者のひとりが、ネットに動画をあげて、「私にもやりなおしのチャンスを与えてほしい」と語ったことだ。すると「なんとずうずうしいのだろう!」「いまさら蒸し返すとは金目当てか?」「やりなおしをしようとしている人の邪魔をするとは!」と日本中から激しい非難の声が上がった。

炎上はしばらく続き、そのうちにその人は死んでしまった。

例の芸能人はこのニュースを聞くと「日本はまだまだやりなおせる社会ではないのです。私はやりなおせる社会を作るために次の選挙に出ます」と語り、再び称賛の的となっている。

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地獄

一流の人はみな人格者ばかりだ。いや、心がやさしく、人間的にも優れているからこそ、トップの座にのぼりつめたといっていい。

そして、二流三流、その下の下流はといえば、卑しく、悪どい連中ばかりだ。というのも、もしもこれらの輩に、ほんのかけらでも徳というものがあれば、そんな底辺で燻っているはずなどないのだ。

下流の人々は妬みでいっぱいだ。「一流の人間が名声も、富も、才能もすべて独占してしまうなどずるいではないか」 そこで、一流の人間が失敗するようにいつも呪いをかけている。

この呪いがけっこう効くのだ。一流の人々が、パワハラ、セクハラ、性暴力などで落ちぶれていくのはこのせいだ。一流の人々は人格者なのだから、そんなことをするはずがないのに、こんなことが起こるとは、下流の人間たちの呪い以外ないではないか。

下流の人々は「自分たちは社会正義を実現した」と公言して憚らない。

そこである人が、下流の人々にこう尋ねた。「社会正義というけれど、その実現のために、女性たちがパワハラや性暴力に苦しまねばならないとは、理不尽ではないのか」

すると、下流の人々はこう答えた。「ええ、ですので、私たちは女ばかりでなく、男も性暴力の被害に遭うように、バランスを心がけています」

すでに地獄になったのか、とその人は感心したそうだ。

苦い文学

カルチャークラブの戦争はんたーい!

拘置所にいる友人から手紙が送られてきた。以下に書き写す。

……僕が犯した罪についてはもう聞いているだろうか。弁護士に説明しても理解してもらえなかったから、こんな手紙を送ります。

Colour by Numbers って、カルチャークラブのアルバム、1983 年に出たんだけど、僕が聞いたのは中学生の頃だった。誰もが衝撃を受けたよね。僕もそうだったんだけど、そのとき僕は自分が他の人と違うということに気がついたんだ。

アルバムのジャケットを覚えているかな。カラフルなジャケットの右半分にボーイ・ジョージの顔があってね。僕はこのジャケットを見たとき、それまで味わったことのない感情を感じた。というのも、ボーイ・ジョージの隣にこんなふうにカタカナが書かれていたから。



僕がショックを受けたのはこれなんだ。この「ー」なんだ。僕はなんだか横書きの「ー」を縦にしたくなった。思い切ってジャケットを横に回してみた。すると「ー」は「|」になったけど、なんと「ボ」と「イ」は横になってしまったんだ! 僕は怖くなってレコードを押入れの奥にしまって、それきり忘れてしまった。

ところが、それから何十年も経った後に、外を歩いていると、不意に「カーマは気まぐれ」が耳に飛び込んできたんだ。そのとき、あの思い出が蘇ってきた。あのときよりももっともっと強烈に。

そのときたまたま、外国人観光客が目に入った。自撮り棒を片手に動画を撮りながら歩いている。横にしたり縦にしたり、横、縦、横、縦……僕はもう見境をなくして、その自撮り棒を奪い取って、真っ二つに折った……どうしようもなかったんだ。

弁護士が言うには、僕は裁判にかけられるそうだ。法廷では「Do You Really Want To Hurt Me」を歌うつもりでいるよ。

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The pre-fucking-sident

“fucking” を辞書で調べると、「ひどい、いやな」などを意味する「無意味な強意語」だということだ。以前、何かで読んだのだが、この “fucking” の特徴は、どこにでも現れるということなのだそうだ。

「Where’s my fucking phone?!」「Are you fucking serious?」のように名詞や形容詞の前に現れるし、「She fucking ignored me.」のように動詞の前にも現れる。また副詞の前だっていい(「He came fucking out of nowhere!」)し、「No, we fucking won’t.」のように助動詞の前だって平気だ。

しかも、単語の中にだって入り込んでしまうというのだ(例:abso-fucking-lutly、un-fucking-believable、fan-fucking-tastic)。

これほど自由に動くことのできる神出鬼没の fucking なのだから、ついに文から飛び出して、大統領になっちゃったとしても、とくに驚きはない。

苦い文学

ポケットの中の紛争

嘘か本当かわからないが、都内に住む吉田さんのズボンの左ポケットを、某国が自国の領土だと主張しはじめた。

そればかりか、吉田さんのポケットの周囲で軍事演習を行って威嚇する始末だ。ついには、吉田さんがポケットに手を突っ込むと内政干渉だと警告を発するまでになった。

吉田さんは左ポケットを自分のものだと固く信じていたから、こうした脅しには屈しなかった。いつも通り、左ポケットに財布や飴玉などを入れていたのだった。

しかし、昨日、吉田さんが支払いをしようと左ポケットから財布を取り出そうとしたとき、予期せぬことが起きた。他人の手がポケットに侵入してきたのだ。その手は、吉田さんの財布を掴むと、奪い取った。某国がとうとう実力行使に出たのだ。

だが、吉田さんも負けてはいない。彼の手はただちに某国の手先につかみかかった。ポケットの中の小競り合いはエスカレートし、ついに激しい紛争が始まった。侵略者の手は強力だった。しかも手ぶらじゃない。いっぽう、吉田さんの手はというと、まさしく徒手空拳のありさまだ。お手上げとなるのも時間の問題かと思われたそのとき————

ポケットの近傍に配備されていたミサイルが、なぜかむくむくと起き上がり、発射。某国は撤退し、吉田さんはポケット防衛にみごと成功した。

吉田さんの周りいた人々は、その勝利に歓声をあげた。だが、誰一人として吉田さんに近寄って抱きしめたり、握手したりしたがらなかったのは不思議だ。

苦い文学

トランプ関税クライシス

それでは経済ニュースです。

(トランプ大統領の映像)トランプ大統領が発表した「相互関税」で世界中がパニック状態に陥っています。

(株式市場の映像)実際に関税が発動する事態になれば、世界的な景気後退が予測されるとあって、金融市場はすでに大混乱。

(自動車輸送船に向かう輸出車の列の映像)日本の経済界も不安とともに事態を見守っています。トランプ関税により、日本の主要産業である自動車関連企業が大きな打撃を受けるからです。

(エコノミスト登場)「日本の自動車産業にとってアメリカは大きなマーケットですから、関税により大幅な減収となるのは間違いありません。これは自動車産業だけでなく、日本社会全体にとって危機的状況です」

(都内の町工場の情景)そんななか———ここは東京足立区綾瀬にある工場。混迷する経済をよそに工場はフル操業を続けています。

(作業服の社長が語る)「ええ、もういくら生産しても追っつかない状況が続いています」

(記者、驚く)「これがみんなアメリカに輸出されるのですか?」

(社長)「そうです」

この企業が製造しているのはなんと関税。アメリカではトランプ大統領があちこちに関税をかけすぎたせいで、深刻な関税不足となり、それを補うために、日本や中国から輸入しているとのことです。

(アメリカ人のバイヤーが関税の味見をする様子)「うん、素晴らしい品質です。全部ください」

(社長がバイヤーと握手する様子)あっという間に商談がまとまりました。

日本の関税は、ヘルシーなイメージから、今後もますますアメリカでの需要が高まる見通しです。