風刺・戯文

省エネは地球を救う

最近、なにかと話題の AI。聞けばなんでも答えてくれますし、難しいことだってかわりに考えてくれるスグレモノ。でも、この AI が地球の環境問題に大きく影響していることはご存知でしょうか。

それは、AIの電気使用量です。世界中には AI を動かすデータセンターがたくさんありますが、これらの設備が使用する電力が膨大なのです。この電力需要を満たすための環境負荷は無視できない規模になりつつあります。つまり、AI が深く考えるたびに、環境が破壊されていくのです。

これは実は人間にも当てはまります。私たち人間にとっても深く考えることは、エネルギーの消費にほかなりません。私たちもまた、考えるたびに、環境を破壊していたのです。

エネルギーの無駄づかいを防ぐために省エネが叫ばれてきましたが、環境のことを真摯に考えるならば、私たちの思考も省エネの時代を迎えたといってもいいのです。

省エネ思考、アメリカではもう大ブームだとか。日本でもさっそく取り入れたらいかが?

【ライフ・ハック:毎日繰り返して、省エネ思考を身につけよう!】
政府への信頼が、省エネの第一歩。
批判は電力のムダづかい。
反対するなら賛成で、コストの削減。
多様性よりも団結が環境を守る。

苦い文学

異界のテレビ(2)

見ると画面で日本人たちが話している。それはドラマのようだったが、見覚えのないものだった。ちょうど最後のシーンのようで、やがて、エンディング曲が流れ出した。そして、また別の日本語のドラマが始まった。ということは、これは外国の放送に日本のドラマの断片がたまたま映し出されたのではなく、日本のテレビ放送だということだ。

その次に放送された30分ドラマも彼の知らないものだったが、徐々にある疑いが頭をもたげてきた。そして、続いてやはり見たことのない映画が始まった。タイトルの後に監督の名が映し出されたとき、彼の疑いはある確信へと変わった。その監督はいつだったか性暴行で逮捕され、業界から追放され、その作品はすべて上映不可能となったのだった。やはりそうなのだ。その前のドラマも、前の前のドラマも思い当たりがあった。このチャンネルでは、すべてなんらかの不祥事によりお蔵入りとなった作品が放送されているのだ。

映画が終わり、今度はアニメが放送された。その次はまたドラマだった。いずれもメディアを騒がせた「お蔵入り作品」ばかりだった。ふと気がつくと、いつの間にか夜が白み始めている。もう空港に向かわなければならない時間だった。彼はテレビをつけっぱなしにして身支度を済ませ、スーツケースを持った。だが、どうしたわけか、彼はテレビを消すことができなかった。ホテルならそれくらい許されると思っていたのかもしれないし、もしかしたらある予感があったのかもしれない。

そしてとうとう、テレビをつけたまま、ドアを開け、部屋から一歩踏み出した。その瞬間、彼の背後で日本語が別の番組の始まりを告げた。

「さあ、今日から……まりました、……っちゃんと……いくんが生放送でお……するニュー……ラエティ、司会はこの私……しま……がさせていただき……」

彼が画面を見ようと振り向いたとき、ドアがけたたましい音を立てて閉まった。そして、しんと静まり返る廊下を彼はふらふらと歩み出した。

「たぶん疲れてたんだ、って考えるのが普通だね。けどさ、ときどき思うんだ、あれはもしかしたら夢じゃなかったんじゃないかって……」と、この話をしてくれた彼は身震いしてみせるのであった。

苦い文学

作品に罪はない

その歌手が現れて、その歌を歌ったとき、私たちはあらゆる感情を掻き立てられた。ある者は踊り、ある者はしんみりし、ある者は元気をもらったと証言した。

私たちはその歌手に夢中になり、その人が歌うのを見るために、どんな苦労も厭わなかった。どんな距離も短く感じられたし、どんな行列もちっとも疲れなかった。

私たちの熱狂が頂点に達したとき、週刊誌がとんだスクープを報じた。その歌手が麻薬に溺れているというのだ。この報道を受けて、音楽産業は直ちに歌手の歌った歌すべての販売と配信を停止した。

あの人の歌が聞けなくなると聞いて、私たちは猛然と抗議した。「確かに罪を犯したかもしれない。だが、作品に罪はない!」

私たちはあらゆることを試みた。署名、抗議デモ、記者会見……。だが、音楽産業は決して動かなかった。

しばらくすると、新たな報道が出た。その歌手は麻薬など使用していなかったというのだ。でっち上げの告発だった! 音楽業界は直ちに動き、すべてを元通りに解禁した。私たちは歓喜し、小躍りしながら音楽に飛びついた。

その歌手は復帰するやいなや、自分を苦しめた不正について歌いはじめた。そればかりでなく、その不正を許した政府を厳しく批判する歌を何曲も書いた。その舌鋒の鋭さたるや、私たちは耳を塞ぎたくなるくらいだった。

いま、私たちはその歌手の歌を発禁にするよう政府に働きかけているところだ。やりすぎだという人もいる。だが、私たちの国の敵が作った作品に罪がないなどとどうしていえようか?

苦い文学

生首寿司

近頃、世間で問題になっているいわゆる「寿司テロ」は、やるほうが悪いのはもちろんだとしても、人件費削減、店舗大型化、経営合理化による「客の人格軽視」にも原因があろう。

提供するほうが客などいないかのようにふるまいたがるのだから、「なにしてもいいのだ」と思う客も出てこようというものだ。

とはいっても、昔のようなこぢんまりとした寿司屋に戻ることはできないだろうから、もう、回転レーンに生首を乗せて巡回させるほかないのではないか。

人間はやはり人の目を気にするものだから、これは効果的だ。

生首は本物でもいいのだが、経費もバカにならない。だから、SiriとかAlexaとかの生首版でもいい。目がキョロキョロと客を見つめるようになっている。というか客から目を離さない。近づくあたりから始まって、遠ざかって向きを変えるぎりぎりまでじーっと睨んでるのだ。カメラが仕込まれているのはいうまでもない。

寿司をどうやって取るかというと、客に近づくと口を大きく開ける。舌の上に寿司とか味噌汁とかが乗せられている。客が取るときに、舌が指をペロペロッと舐めるのはちょっとした警告だ。

《わかってるだろうな、やるなよ》

だが、真に受ける必要はない。その証拠に生首がウィンクしている。意外に愛嬌たっぷりなのだ。

注文だって簡単だ。生首に向かってこう言うだけだ。

「Hey Taisho、マグロとハマチと茶碗蒸しとパフェ、お願い」

「はい、マグロとハマチと茶碗蒸しとパフェをシャッフル再生します」と口をもごもごしだす。

なにが出てくるか知れたもんじゃないが……

苦い文学

あなたに訴状を届けたくて

企業などに訴状を届けるのは「特別送達」と呼ばれるが、これを担当する郵便配達員はつねに危険と隣りあわせだ。

訴えられた企業は、あの手この手を使って、郵便配達員を妨害するからだ。

なんとしても訴状を受け取りたくないのだ。永遠にあの言葉を繰り返していたいのだ。

「訴状が届いていないのでコメントできない」と。

企業側の妨害はさまざまだ。ならず者を配達員にけしかけることもある。郵便局に工作員を送り込んで騒動を起こすこともある。ニセ配達員でかく乱させて訴状を奪おうとしたり、色仕掛けで骨抜きにすることなど日常茶飯事だ。刺客を放つことだってある。

もちろん、日本郵便だって負けてはいない。訴状を届ける特別送達配達員は精鋭ぞろいだ。全員、イーサン・ハントみたいなのだ。

ときには、訴状の奪い合いが日本を飛びだすこともある。アマゾンの密林での暗闘、シベリアの氷上での激戦、宇宙ステーションでの決闘などだ。

宇宙ステーションでは配達員はあやうく訴状ごと宇宙の藻くずとなるところだった。だが、なんとか敵を打ち破ると、危ういところでポッドで脱出したのだ(その直後に宇宙ステーションは爆発だ)。

大気圏を通過したポッドが千葉沖に無事着水すると、待ちかまえていたヘリに乗り込む。そして、都内でバイクに飛び乗ると、宛先の企業に訴状を届けたのだ(その企業は訴状を受け取った瞬間、建物ごと崩壊した)。

なお、訴状の配達員はどんなときでも必ず相手に届けることになっている。なので「ご不在連絡票」は決して持たないそうだ。