風刺・戯文

死後の世界の出会い

臨死体験をすると、人生が変わるそうだ。「死が終わりではない」という確信が、生き方や価値観を変えてしまうのだ。

私の知り合いにも、この臨死体験をした人がいる。彼は事故で亡くなったのだった。気がつくと、光に溢れた広い世界にいた。暖かく、清々しい。ぶらぶらと歩いていると、一人の男が図面を片手に立っているのが目に入った。

「何をされているのですか」と友人は丁寧な口調で尋ねた。

男は微笑んだ。「ああ、今、死後の世界を構築中なのです」

「え」と友人。「ここが死後の世界だと思っていましたが」

「そうには違いないのですが、それだけでは不十分なのです。私はちゃんとした死後の世界を作りたいのです」と男は図面を広げ、友人に見せた。その図面はいくつかのエリアに分かれ、それぞれに「天国」「地獄」「煉獄」「鬼の宿舎」「大エントランス」「大浴場」などと記されていた。友人は驚きの声をあげた。

「すごいでしょう」と男は得意げに言った。「でもですね。構想が大きすぎて、どこから手をつけていいかわからないのですよ。しかも、ガワだけではなく、システムも難航していて。大量にやってくる魂をどのように流し、どこでどう捌き、どう再生するか、これは挑戦ですよ」

「ということは、もしかしたら、天国だとか、生まれ変わりだとか、はまだない、ということですか」と友人は落胆しながら尋ねた。

「ええ、それは認めざるをえません。なにしろ非常に複雑で大規模なもので……天国が実装されるまでには、まだかなりの年月が必要でしょう」

「では、それまでのあいだ、魂はどうしていればいいのでしょうか」

男は図面をたたみながら、こともなげに言った。「これまでのように地上に留まっていれば、問題ないかと……」

私の友人は、死後の世界から生き返った。だから、死後の世界があるとは信じていない。

苦い文学

フキダシのドットたち・・・

私はネットで、友人とメッセージのやり取りを続けていた。

私たちはK-popについて話していたのだが、あるアイドルの新曲の話題になったとき、私はこう言った。

「あれ、一回聴いてもういいかなって。最近の傾向かもしれないけどガチャガチャしててメロディがないんだよな」

こう送信した後、私は彼がこのアイドルの大ファンだったことを思い出した。

すぐに取りつくろう言葉を送ろうとしたが、彼のほうで入力中のマークが出現するのが見えた。フキダシの中で小さいドットの列が薄くなったり濃くなったりしている。

私は彼の返事を待った。あんがい同意見かもしれない、と思ったからだったが、彼はずっと入力中のままだった。

私はしばらく待っていたが、灰色のドットのアニメーションは変わらなかった。なにを書いているのだろうか。私はメッセージを送ろうかと考えたが、そのとき家人に呼ばれて携帯を閉じた。

一時間ほどして、再び携帯を開くと、私は彼の入力中のステイタスが変化していないのに驚いた。もしかしたら、と私は思った。入力の途中で放置しているのかもしれない。

それから私はこのことをすっかり忘れてしまった。二日ばかりのちにふと思い出して、アプリを開くと、彼はまだ入力中なのだった。

やはり彼は怒っていたのだ。それで、とんでもない長編の反論を執筆中なのだ。確かにそんなことをしでかしかねない男だったが、私はこの途方もない空想を打ち消した。

不可解な思いに囚われながら、私は、左から右へ動いているように見えるその小さなドットを見つめていた。

すると、私は奇妙なことに気がついた。それらのドットのアニメーションは、いつもの入力中のものとはどこか違うのだ。

私は目を凝らして、そのドットたちを見つめた。私の老眼の目が欺いたのであってほしいと思うが、それらはドットに似た文字であり、ひたすら罵りの言葉を繰り返していた。

苦い文学

ふりがなフリガナ

申請書や履歴書などではトラップに気をつけてほしい。氏名の欄の上に必ず振り仮名の欄があるが、これがそうなのだ。

その振り仮名の欄をひらがなで書く。すると、書き終わった瞬間に、その欄が「フリガナ」と書かれているのに気がつく。もうこれで書き直しだ。

それで、今度はカタカナで最後まで書く。だが、なんということだろうか、そのときあらためて見てみると「ふりがな」と書かれているのだ。さっき見たときは「フリガナ」だったのに。

これでもう多くの人は申請書や履歴書を書く気をなくしてしまう。たとえ何十万円もの過払い金が返ってくる申請書でも、高収入の職に繋がるかもしれない履歴書でも、もう怖くて書けない。

だが、ここで諦めてはいけない。もう一度繰り返すが、これは罠なのだ。申請書や履歴書の数を減らして楽をしようとたくらむ輩たちの計略なのだ。

「ふりがな」と書かれていようと「フリガナ」と書かれていようと気にする必要などない。自分の好きなほうで書くのだ。そもそも、「ふりがな」なのにカタカナで書いてあると非難して、その書類をつっ返す権利は誰にもないのだ。たとえひらがなとカタカナでたがいちがいに書いたとしても、そんなことはできない。

「それでも……」と不安を拭えない方がいたら、安心してほしい。最後は万葉仮名で書けばなんとかなるから。

苦い文学

最後の日本人

私たちが世話をしているお年寄りたちの中にジャマーダさんという人がいました。物静かで、いつもニコニコしていて、甘いものが大好きで……。

見たところ普通の老人でしたが、ひとつ他の老人と違うところがありました。

ジャマーダさんは最後の日本人だったのでした。日本人というのは昔の人々で、日本人の話になるとジャマーダさんは決まってこういうのです。

「立派すぎていなくなったのだ」

私たちはおかしくてたまりません。でも「そんなことってあるの?」だなんて聞こうものなら怒りだすので、ただうなずくだけです。

ジャマーダさんは日本語も話すことができました。得意そうに話してみせてくれましたが、本当は少ししか知らないようでした。

ジャマーダさんが亡くなった時のことも覚えています。何日も昏睡状態だったのですが、急に目を開いて日本語で何か話し出したのです。

驚いた私たちが話しかけるとこんなふうに言いました。

「タケシマが取られる! タケシマが取られる!」

私たちはジャマーダさんを落ち着かせながら「大丈夫ですよ。取られませんよ、絶対に……」

ジャマーダさんは微かに笑みを浮かべて、その夜亡くなりました。

私たちが初めに考えたのは「タケシマ」というのは日本語で「魂」のことだろうということでした。ですが、ジャマーダさんの遺品を片付けていると、きちんと畳まれた服の下からたくさんのお菓子が出てきました。「タケシマ」というのはお菓子のことだったのです。

私たちは、ジャマーダさんの棺にこれらの「タケシマ」を入れてあげました。私たちの世界にはもう不要なものでしたから。

苦い文学

ロシア語初級の時間

世界で一番難しい言語はなんだろうか。

ある人は日本語という。ある人はアラビア語だと。また別の人は別の言語を挙げることだろう。

こんなふうに意見が分かれるのは、言語の難しさというものが相対的なものだからだ。

英語話者にとっては確かに日本語は難しいのかもしれないが、逆に日本語に似た言語、例えば韓国語の話者にとっては、日本語はもっとも学びやすい言語のひとつなのである。

だが、逆は必ずしも真ならず。

世界でもっとも易しい言語を決めるのは非常に容易だ。

それは現在のところ、ロシア語だ。

この言語には難しい発音も、動詞の活用も、名詞の格活用もまったくない。なんという楽しさ。

しかも、初級のあなたにとって覚えるべき単語はたったひとつ。

Да(ダー)「はい」

これのみ。これを覚えるだけで、ロシア語の勉強時間が数百時間省ける。

「ドンバスの人民共和国の独立を承認せよ!」
「Да!」

「ウクライナの極右勢力とネオナチグループを撃退せよ!」
「Да!」

「これは戦争ではない。特別な軍事作戦だ!」
「Да!」

「撃て!」
「Да! Да! Да!」

次はロシア語上級の時間にお会いしよう(まだ命があれば)。