風刺・戯文

人類に不可能なこと

アメリカの科学ジャーナル「サイエンティフィック・ベンチマーク」に「人類に不可能なこと」という興味深い記事が掲載されたので、一読に及んだ。

試みに冒頭の部分を訳す。

「人類の科学の進歩は目覚ましく、今や私たちは、高速の移動手段、全世界的な通信ネットワーク、手のひらに入る大きさの人工知能など、前世紀の人々から見れば夢のようなデバイスを手に入れた。私たちは今もなおさまざまな夢を思い描いており、科学の発展によりいつかはそれらも実現すると思い込んでいる。だが、最新の研究成果を突き合わせると、私たちの夢の中には、原理的に不可能なことがあることもわかってきた。ここに紹介するのは、人類の総力を結集したとしても絶対に実現できない夢のいくつかである」

では、その「人類に不可能なこと」とはどのようなものだろうか。記事では5つが挙げられている。以下簡単にまとめる。

①光速を超える移動(超光速航行):光速に近づくには無限のエネルギーが必要なため不可能。
②永久機関:熱力学第一法則に反するため不可能。
③未来の完全な予知:量子力学の不確定性原理により完全な予知は不可能。
④過去へのタイムトラベル:スティーヴン・ホーキングの「時間順序保護仮説」によれば不可能。
⑤移民排斥:人間は国境を越える存在だから、移民をゼロにするのは不可能。

「これらは、どだい無理なのだから、別のことに頭を使ったほうがいい」と記事は結ばれている。

苦い文学

『リアルすぎる日本語』

これまでにない新たな視点を盛り込んだ日本語教科書『リアルな日本語(初級)』が刊行された。

日本の本当の姿を知ってもらおうという熱意に溢れた教材だ。通常、初級というと、文法・語彙ともに限定されているため、会話や読み物も現実の日本語から乖離したものになりがちであるが、『リアルな日本語』はそうならないための創意工夫に満ちている。

また、扱われるトピックも、きわめてリアルであるのも大きな特色だ。こうしたトピックは通常なら上級向けとされるが、それを大胆に、そして無理なく盛り込んでいるのにも感心させられる。全15課のうち、はじめの5課の内容を次に紹介しよう。

第1課 「私は満員電車の痴漢です」(日本語で自己紹介ができる)
第2課 「いいえ、パワハラ、セクハラ、ありません」(我慢ができる:その1)
第3課 「非正規労働の先に何がありますか」(道を尋ねることができる)
第4課 「日本人は弱いものいじめが好きですね」(趣味や職業について話すことができる)
第5課 「外国人は出て行きなさい」(我慢ができる:その2)

じつに有益な教科書であり、私もクラスで使用させてもらっている。ひとつ難点をいえば、教科書を最後まで終わらせることができないというのが問題だ。最初の数課で、日本語学習者が全員いなくなってしまうのだ。

苦い文学

電子レンジ

ずいぶん前からのことだが、地獄に落ちる人があまりにも多く、もはや処理しきれない状態になっている。

とくに火炎地獄の過密は深刻な事態を引き起こしている。なぜかというに、罪人が多ければ多いほど、火炎地獄全体の温度が下がってしまうからだ。温泉やサウナと変わらなくなってしまう。地獄でととのう人が続出では困るのだ。

そこで、地獄の運営は、火炎地獄の責苦をアウトソーシングすることに決めた。それが私たちの世界にある電子レンジだ。

電子レンジの内部には罪人たちがいて、私たちが何かを温めるたびに、電子の業火によってさいなまれている。もちろん、私たちには見えないし、それで食べ物がなにか悪い影響を受けるということもいっさいない。私たちの感覚を超えた次元で、電子レンジが簡易地獄として勝手に使用されているだけだ。

だが、私たちはなんとなく気がついてはいる。なぜなら、電子レンジの熱はほかの熱とは異なるからだ。まるで悪意があるかのようだ。その悪意ある熱のせいで、私たちは皿を触ったとたん悲鳴をあげ、皿を放り投げる。それどころか、癇癪を起こして皿を叩きつけたことも何度もある。

これも電子レンジの熱に地獄由来の成分が若干ふくまれているためだ。とんだ迷惑だと思うかもしれないが、早くから体を慣らしておくのもいいことではないだろうか。

苦い文学

自然のバランス

先日都内で信号を待っていたら、デモ隊に出くわした。

「ヘイトスピーチを許すな!」とか「女性も男性も平等だ!」とか「外国人に対する偏見をなくそう!」とか、さまざまな差別に反対するスローガンを掲げて、道を行進していた。

私が興味を感じたのは、犬を連れたデモ参加者が何人かいたことだった。

私も何度もデモに参加しているが、犬と一緒というのは見たことがなかった。これら愛犬家たちは反差別と動物愛護を訴えていたのだった。

信号が青に変わり、警察がデモ隊を止めた。犬を連れたデモ参加者たちはちょうど私の前で立ち止まった。

私は道を渡ろうとしたが、そのとき、犬たちが吠えはじめた。

反差別デモに参加するような殊勝な犬たちがどんなことを言っているのか知りたくなって、私は足をとどめて、耳を傾けた。

犬たちは口々に次のようなことを主張していたのだった。

「保護犬特権を許すな!」

「普通の犬に対する逆差別をやめろ!」

「保護犬を処分しろ!」

私は、これらの犬たちの考えと飼い主の考えとのはなはだしい乖離に驚いたが、もしかしたら、自然というものはこのようにバランスをとっているのかもしれないと、神妙な気持ちになった。