風刺・戯文

熊の拡散

日本漢字能力検定協会は 12 月 12 日、令和 7 年の世相を漢字 1 文字で表す「今年の漢字」が「熊」に決まったと発表しました。今年、各地で熊の出没が拡散し、人身被害が過去最多となったことがその理由です。

そんな中、熊のいない県として知られる千葉県の観光業者が都内でイベントを開催しました。その名もなんと「熊なし県にYOKOSO!」。

主催者「ぜひ年末年始には『熊なし県』千葉にお越しくださって、熊のいない安全を楽しんでいただこうと企画しました」

会場となった公園には大きなドームが設置され、中では県内で採れた新鮮な魚介類や野菜、ピーナツなどを味わうことができます。

訪れた参加者「熊襲撃の危険なしだと味わいも増しますね」

しかし、本当に千葉県には熊が来るという危険はないのでしょうか。

主催者「まったくありません。もしいるとしたら、東京ディズニーランドだけでしょうね。くまのプーさんがいますから! ハハハ!」

実行委員会は、『熊なし県』千葉のブランド向上のために、利根川からの熊の侵入を防ぐ警備隊の創設と防御壁の建設、さらにアクアライン通過時、熊に類似した人に「熊でない証明書」の提示を求めるなどの防御体制を実現すべく、熊谷俊人千葉県知事に対応を求めていく方針です。

苦い文学

ライブ授業

僕たちの学校に新しい先生が加わった。でも、ロン毛でぴちぴちのジーンズでちょっと変わってるんだ。「先生、どうしてそんなカッコなの」と聞くと先生はサングラスをちょっと下げて答えたんだ。

「なんでって、先生はロックミュージシャンだからさ」

「えー、先生じゃないの」

「どっちも一緒さ」

先生は言うんだ。「授業はライブだ」って。だから先生は毎日授業の前にツイッター(現X)にこんな投稿をするんだ。

ライブの告知でーす。
初めてのワンマン@2-5教室でーす。待ってるゼ!
12月18日 1−6教室 開場08:40、開演08:45 【SOLD OUT】
12月18日 2−5教室 開場09:30、開演09:35 【残席わずか、S席完売】
12月18日 1−6教室 開場09:40、開演09:45 【当日券有】

でも、授業に出席するのはいつだって同じクラスの子ばかりだ。

先生の授業はいつも楽しくて面白い。僕たちはとっても勉強が大好きになったんだ。それに先生はたのもしいんだ。いじめっ子を「お前はステージ裏の開放席行きだ!」と教室から追い出したときは、もう大喝采だった。

だけど、先生にはひとつだけイヤなところがあるんだ。それは、どんな授業の前にも先生にかならず 60 円払わなくてはならないこと。ドリンク代だっていうけど、いつも紙コップに水道の水なんだ。

苦い文学

最低支持率

「岸田首相に対する支持率がまた最低となりました。もはや危険水域に達したとの見方もなされていますが、これからが勝負どころともいえます。岸田内閣の今後について、政治学者の八旗七郎さんにお聞きします。今回のこの調査結果をどうお考えですか?」

「大方の予想通りといったところではないでしょうか」

「ここまで下がりますと、持ち直すのは難しいという意見も出ていますが」

「ええ、確かにそうでしょう。ですが、ひとつ興味深いのは、この支持率の低下がきっかけとなって、岸田内閣を支持する動きが生じていることです」

「それはどういったことでしょうか」

「ひとことで言えば、支持率の低下に自分を重ね合わせている層の出現、と言いましょうか」

「それは、これまでの支持層とは違うということですか」

「ええ、そうです。まったく新しい支持層です。どういうことかといいますと、長く続いた安倍政権の結果、日本社会には悲惨な暮らしをしている人がたくさんいます。働きたくても働けない、履歴書を送っても返事もない、仕事もお金もない、年金もない、家族がいない、友人もいない。社会に取り残された人々です。こうした人々が岸田首相に希望を見出しはじめたのです」

「いったいどういうことで?」

「背景には、支持率が低いのは自分だけではないのだ、首相もなんだ、という共感があります。これらの人々は社会に見捨てられた人々です。いいかえれば、社会からの支持率が低いと感じているのです。これらの人々と岸田首相の双方の支持率の低さが共鳴しあっている状況が今なのです」

「なるほど。その新たな支持者層はどれくらいのボリュームがあるのでしょうか」

「これら最低の人々による支持率を最低支持率と呼びますが、私の見積もりによれば、現在、79%に達しています。これは、これまでの最低支持率の最高支持率となっています」

「これは驚きですね。となると、今後、岸田内閣の支持率も上昇する、と?」

「いいえ、それはありません。最低支持層の最低支持率は支持率が最低支持率である間だけ最高支持率となるというのが定説なので……」

苦い文学

覚醒する飛翔体(5)

かの勇猛なるバーシーは長い夢を見ていた。

漠として見定めがたい世界を彷徨っていたのだ。その世界で、彼は紫色の霧に包まれた一人の男に出会った。

男の肌は暗く、顔は険しかった。初めて会ったように思ったが、男は彼のことを知っていた。

「バーシー、待っていたぞ。君に預かっている曲があるんだ」

「なんの曲を?」とバーシーが聞き返すと、男は抱えていたエレキギターを弾いて歌い出した。

Hey Joe, where you goin’ with that gun of yours?
(ヘイ・ジョー、自分の銃を持ってどこに行くんだ)
Hey Joe, I said where you goin’ with that gun in your hand
(ヘイ・ジョー、自分の銃を持ってどこに行こうってんだ)

男はギターを激しく弾き鳴らしながら、歌い続けた。次第にバーシーの頭の中で何かが形作られていった。

「Hey Joe……Hey Joe……ヘイ・ジョー……ヘイジョー……へいじょう……へいじょう……平壌……平壌……」

男のギターから炎が生まれ出て、男を、世界を瞬く間に焼き尽くした……。

バーシーは目を覚ました。

彼は光に包まれた部屋に寝かされていた。白衣の男たちが忙しげに動いている。

体を動かそうとしたが、力が抜けてピクリともしなかった。助けを求めて声を出そうとしたが、舌が痺れていた。

男たちは黒い物体を持ち上げ、バーシーの頭を手で押さえた。バーシーの目が恐怖に見開かれる。そして、男たちがそれを被せた瞬間、バーシーの頭蓋骨の中で無数の光が爆発した……。

苦い文学

人生はやりなおせる

年老い、もはや死を待つばかりとなった私は、最近、自分の人生について振り返ることが多くなった。

ああ、なんと多くの過ちに満ちていることであろうか。目を覆わんばかりの惨状だ。激しい悔悟に襲われた私は、思わずこう願ったのだ。

「もし人生をやりなおすことができたなら!」と。

だが、さらに自分の人生について検討を加えると、これらのおびただしい過ちのうちには、その原因を私に帰せるものもあれば、そうでないものもあるのに気がついた。

そして、そうでないもののうちにも、はっきりと他人の過ちによるものと、その他人の過ちとすら言えず、もはや運命としか呼びえないものもあることも、明瞭になってきた。

私の心に次第に疑念が形成されてきた。もしも、人生をやりなおすことができても、これらのもろもろの「因縁」を排除することなくしては、もとの木阿弥ではないか、と。

しかも、私はいかに過ちをあまた犯したとはいえ、そのうちには人倫にもとる大罪はひとつとしてないのである。なのに、なぜ私だけが、もう一度やりなおさねばならないのだろうか。

いや、やりなおすべきは私ではない、世界のほうではないか。この世界こそ、もう一度再創造されるべきなのだ……。

私はその旨メールにしたため、再創造の提案について「ご検討のほどよろしくお願い申し上げます」と世界に送信した。

かくして、世界は再創造され、今この瞬間に立ち戻った。だが、いっこうに、やりなおしたい気持ちが消えないのだ……。