散文

ビルマ人とユダヤ人

この間、日本に暮らすビルマ人とご飯を食べた。焼肉屋で働く彼は忙しくて、なかなか会うことができない。年末前の最後の休みを私との時間に割いてくれたのだった。そのとき、彼が最近関わった仕事について聞いた。

50 人ほどのユダヤ人(イスラエルの人かどうかはわからない)が、日本にやってきたのだという。しかし、ユダヤ教には食べ物について厳しい決まりがある。すべてのユダヤ人が厳格に守るかどうかは別として、このご一行はその辺りはちゃんとしていたいらしかった。なので、日本の食べ物をそのまま出すわけにはいかない。

そこで、東京のホテルに滞在中の 2 日間、専門の料理人が用意されることになった。その仕事の話が、私の友人のところに来たのだという。彼は肉の専門家なので肉料理を担当した。そのホテルの厨房を借りて、ユダヤ人が食べてもいい牛肉を、ユダヤ人が飲んでもいいワインでじっくり煮た料理、つまり牛肉のワイン煮を作って出したのだそうだ。

他にも料理人が 2 人いた。ひとりは寿司を担当したが、もうひとりはわからない。そして、その 2 人も、都内の飲食店で働くビルマ人だった。

3 人ともビルマ人というのが面白い。もちろん日本人がまったく関わっていないということはないだろうが、ほとんどの日本人が知らないなか、東京で思いもよらぬ関係とビジネスが成立していたことに、私は興奮を感じる。

そしてまた、この 2 日間で友人に支払われたという 10 万円についても、興奮を禁じえない。

苦い文学

元気ちがい

日本を元気に……

日本全国に元気を届ける……

元気……元気……元気……

いつから私たちはその言葉を耳にし始めたのだろうか。ずっと昔すぎてもうわからない。中には生まれる前から、元気……元気……産声もきっと元気がなかったのだ……

いったいいつ日本は元気になるのだろうか。こんなに元気元気と言われ続けているのに……

これから10年先、20年先、100年後までも、元気……元気……元気……と言い続けるつもりなのだろうか。だが、そんなにもして元気にならないというのならば、この日本はもう元気にはならないのではないだろうか。死んだ人間が生き返りでもするような……

はっ、それとも、本当は元気なのでは? そうだ、決して空元気などではない。元気だ。ただ、この国のことだ……国が認めないのだ……国産じゃなきゃって……

「出る元気は打たれる」というわけ……

いや、もしかしたら、元気判定師みたいなのがいるのかも。そいつがそんじょそこらの元気じゃウンと言わないのだ。縦に振らないのだ、首を……

これは別の元気です……元気ちがいです、と。

いつか、元気ちがいのこの国から「日本を元気に」と言う元気がなくなるまで……

苦い文学

私人逮捕

交番に男がひとりやってきて、警官に大声で話しかける。

「お巡りさん、現行犯で私人逮捕したので連行してきました! さあ、きりきり歩け!」

「逮捕? 誰?」

「はっ、自分であります! 自分で自分を私人逮捕したのです! ちくしょう! 捕まっちまった!」

「公務執行妨害以外思いつかんが、なんで?」

「リベンジポルノの現行犯です! やめてくれ! 俺は無実だ!」

「リベンジポルノ? では、元彼女かなにかの性的な写真や動画を、ネット上でばら撒いたと?」

「違うのです。こいつは、自分に対して教育虐待をした親へのリベンジとしてポルノを朝から晩まで見まくっているのです。私はその現場に踏み込み、現行犯逮捕しました! とんだリベンジポルノ野郎です! さあ、お巡りさん、こいつに法の裁きを!」

と、男、警官の目の前でドッカと座り、腕組みをして叫ぶ。

「ええい、ここまできたらしょうがねえ。さあ、煮るなり焼くなりするがいい!」

警官、男を追っ払う。すると別の男がやってくる。

「お巡りさん、リベンジポルノの現行犯で自分を私人逮捕しました! 不当逮捕だ! 弁護士呼べ!」

「またか」

「こいつは、元カノとの素敵なエピソードをネット上で公開する、リベンジ感動ポルノ常習犯で……」

苦い文学

あなたはひとりじゃない

「孤独に悩むあなたへ」(政府孤独担当チームからのメッセージ)

孤独を感じてはいませんか。

ひとりぼっちで悩みをかかえていませんか。誰にも頼れずに、苦しんではいませんか。

あなたはひとりではありません。

わたしたちは孤独に悩むあなたのための支援を行うチームです。あなたのために結成されました。

だから、安心してください。

さあ、涙を拭ってください。

いま、我が国では、生活苦と孤独が静かに広がっています。調査によると、人口の 3 割程度がなんらかの孤独感を感じているといいます。およそ 3,600 万人にのぼります。

だから、毎日がつらい、苦しい、死んでしまいたい……そんなふうに思うのは、あなたひとりではありません。

悩みを相談できる人はいますか? いないでしょう。みんないません。

あなたには友達はいますか? いませんね。みんなそうです。

さあ、勇気を出して、周りを見回してください。あなたと同じ人がたくさんいますよ。

実際、掃いて捨てるほどいます。あなたはひとりではありませんよ。

苦い文学

エチカ

私は無職だが、時たま肩書きを要求されるときもあり、そうしたときは非常に決まりの悪い思いをすることになる。

何か別の肩書きでもあればいいのだが、そうしたものもない。嘘をつくわけにもいかないので、恥を忍んで無職と答えることとなる。

そのようなわけで、近ごろはどうやったらこの無職というのをカッコよく言えるかばかり考えている(おかげで就職活動もそっちのけだ)。

答えはすぐ見つかった。なんのことはない「永遠の」をつければよかったのだ。

つまり「永遠の無職」だ。これは「永遠の17歳」とかいうのと同じで、人々は「あえて無職と名乗っている=つまり本当は仕事をしている」と勝手に受け取ってくれること疑いなしだ。

しかも、これは真実でもある。私はもしかしたら今後、なんらかの仕事に就くかもしれないが、かりにそうだとしても、それは決して本質的なものではない。それは私が無職であった期間に比べればはるかに短く、スピノザのいう永遠の相のもとに眺めれば、私は無職なのである(そして、これはあらゆる人間に当てはまるのだ……)。

私は「永遠の無職」と答えよう。そうだ、胸を張って、堂々と!

いつの日か私を永遠の業火が焼き尽くすまで……。