風刺・戯文

ブラックホール与党

今日、国立宇宙理論研究機構が発表したところによりますと、与党がブラックホール化する可能性が高まっているとのことです。

そのきっかけとなったのが、連立の崩壊。これにより、そもそも少数与党だったのが、超少数与党となり、きわめて不安定な状態になった、といいます。

報告では、理論上、今後2つのシナリオが考えられるそうです。ひとつは解散総選挙や新たな連立により安定を取り戻し、再び膨張に転ずるというものです。もうひとつは、不安定な状態が権力崩壊を引き起こし、収縮が始まる場合です。いったん収縮が始まると、もはや押しとどめることはできず、やがて与党はシュバルツシルト面(事象の地平面)よりも小さく圧縮され、ブラックホール化します。

与党がブラックホールとなると、あらゆる物質、光線、情報、裏金問題、汚職、賄賂、スクープ記事などがその中心に引き込まれ、表に出ることはできなくなります。また、ブラックホールは非常に強い重力をもつため、この重量によって、広い範囲にわたり歴史の歪みが発生すると、研究者は予想しています。

苦い文学

眠気のたたかい

昨日のこと、喫茶店の一角に座っていると、隣の席の会話が耳に入ってきた。

「おい、寝るな!」

「眠くない。眠いのはお前のほうだろう!」

「俺が寝るものか!」

隣を見ると、二人の男が向かい合って座り、猛烈な眠気に襲われているのだった。どちらももう白目を剥いて、頭をグラグラさせているのに、「眠たいのは自分ではない、お前だ」と、互いになじりあっていた。

「お前などすぐ寝るくせに! 俺なんかちっとも眠くないぞ!」

「嘘だ。もうお前は寝てるじゃないか! だからお前はダメなんだ」

「バカいうな! もしもお前の眠気が俺の眠気だったら、1秒と持ち堪えることはできまい!」

「なんだと! 俺の眠気のほうがお前よりももっと強力だ! もし俺の眠気がお前の眠気だったら、不眠気味だと精神科に駆け込むだろう!」

「俺の眠気のほうが強力だ!」

「俺のほうだ!」

「いや、俺だ!」「俺!」……

静かになったので、隣に目をやると、二人ともスヤスヤと寝ていた。テーブルに置かれたなにかの参考書と二つのコーヒーカップを見て、私は少し二人が哀れになった。

苦い文学

脇が甘い

喫茶店で友人と話していて、最近のニュースの話題になった。

大学駅伝の監督が陸上部の学生と不倫していたというのだ。友人はさも呆れたというふうに言った。

「いや、駅伝の選考会を控えて、こんなことをしでかすとは脇が甘いの一言に尽きるよ」

「脇が甘い?」 私は思わず言い返した。「うーん、最近よくそう言う人がいるけど、ちょっと使い方おかしくない?」

「いや、油断してたってこと」

「たとえば勝負事していてうっかり相手にしてやられたり、大事な書類を人目につくところにおいといて紛失したりするのを、『脇が甘い』ってのならわかるけど、これは違うでしょ。不倫して学生に手を出してる。脇が甘いのどうのという問題じゃない。倫理の問題だ」

「しかし、監督という立場にしてはたるんでるんじゃない」

「それはそうだけど、つまり」と私は携帯の辞書を引いた。「脇が甘い、というのは『用心が足らないために,つけこまれやすい』とある。立場を利用して学生をいいようにするのがつけ込まれやすい? これじゃまるで学生がつけ込んだみたいじゃないか。そもそも、用心が足らない、というのは、バレなければいいってことかな。脇が甘い不倫をしてたから記者につけ込まれた? そうじゃないと思う。脇が甘かろうがなんだろうが、指導者が学生と付き合うのはルール違反だ」

私がこういうと、友人は怒り出した。「わかった、こい! その屁理屈が正しいかどうか、確認しようじゃないか」

彼は私は引っ立てると外に出てズンズン歩いていった。

「どこ行くんだよ!」

そしてしばらくのち……

私たちは件の不倫監督の家にいた。私たちが報道関係者でない真面目な学究だと知ると、監督はドアから顔を出した。「これこれこういうことで、私たちの間に論争が勃発し、ガザ地区並みに手に負えない状況となっているのです」と友人は説明した。

「そこで、つきましては、監督の脇を舐めさせていただけないでしょうか……甘いか、しょっぱいか……すっぱいか……」

苦い文学

強化兵士

ウクライナ侵攻以来、ロシア軍の兵士の敗走が相次いでいる。

その原因はいくつも挙げられている。訓練不足、士気の低さ、不十分な装備、指揮系統の乱れ、兵站の失敗……。

もちろん、兵士が弱いからといって、ロシアを侮ってはならない。なにしろ、核爆弾を何千と所有しているのだ。だが、核が何発あろうと、それで兵が強くなるわけでもないのも確かだ。

実はロシアもその辺りはわかっていて、ウクライナ侵攻前から、強化兵士の導入を進めていたということが明らかになった。

強化兵士というのは、人体に生化学的処置を加えることで、通常の兵士よりもはるかに優れた能力を獲得した兵士のことだ。

ドーピング大国のロシアが本気で取り組んだのだ。その結果たるや、恐ろしいほどだった。

あらゆる点から見て、超人が誕生したのだ。肉体の俊敏性、耐久力、反発力は人間の6倍もあった。感覚も鋭く研ぎ澄まされていた。その聴力は通常の人間の6倍、その視力は8倍あった。真夜中に20キロ先の獲物の動きを難なく捉えることができたのだ。

それだけではない。強化兵士の知能は、外科処置と薬物により、通常の人間の10倍にまで高められていた。戦場のあらゆる情報は、この異常な脳により、瞬時に計算、分析された。強化兵士ひとりで1師団分の威力がある、モスクワはそう評価していた。

強化兵士は、ウクライナ侵攻当日から前線に投入された。その日のうちにキーウを制圧する予定だったのだ。

だが、実際のところ、この作戦がうまくいかなかったのは周知の通りだ。

人間の何倍もの能力をもつ強化兵士は、平和を愛する気持ちも人1倍強かったのだ。

(現在、強化兵士たちはオーガニックな蜂蜜づくりにいそしんでいるという……)