風刺・戯文

金は今が買い時

初めてみませんか、金投資。

長期的な資産形成を目的とするならば、現在は金が買い時なのです。金の価格は、2026 年 3 月時点で史上最高値圏に到達しました。しかも、専門機関は、今後 10 〜 20 年スパンでさらなる上昇を見込んでいます。

つまり、今、金に投資すれば、長期的に大きなリターンが期待できるのです。もう金に投資しないわけにはいきませんね。

「でも、金投資にもリスク、あるんじゃない?」って踏み切れない方もおられるのでは。ですが、金価格の上昇要因を理解すれば、そんな不安も払拭できます。

【金価格上昇を支える主要因】
・SNS の普及により、誰もが常時やかましく発言する駄弁のグローバル化が進行。
・嘘を巧みに言いくるめる政治家を崇める風潮が主流に。
・あらゆるものを言語化する言語化ブームは今後ますます拡大。
・声の大きい者が振るう暴力が加速。

そうなのです。沈黙こそこれからの希少資産です。それでも迷っているあなた、つべこべいわずに黙って金に投資!

苦い文学

盗難証明書【盗難の証明(4)】

泥棒への感謝の気持ちの只中にあって、海外旅行保険のことを思い出しえたのは僥倖であった。

「いや、泥棒を崇拝している場合ではない。盗難の補償があるかどうか確かめねば」

海外に行くときは必ず一般的な保険に入るようにしているが、これまでスーツケース破損の補償を受けた以外、使ったことがなかったので、盗難が対象になるかもわからなかった。

調べてみると、24時間ネット通話対応のコールセンターがあった。電話してみると、次のようなことを言われた。

「通貨盗難の場合は3万円を上限に補償の対象だが、盗難証明書が必要である」

盗難証明書は警察でもらえるというが、私はそんな手続きをしたことがない。というか、どこに警察署があるのかもわからない。いずれにせよ、もう夜遅いので警察に行くのは明日の朝だ。

そして、次の朝、私はスーツケースを持ってホテルを出た。もとからこの日に別のホテルに移る予定だったからだが、たとえそうでなくても、私はもう滞在したくはなかった。

チェックアウトのさいに、ホテルの人がもう一度「誰も部屋に入れない」と繰り返した。私はもう盗難証明書のことで頭がいっぱいで、それはもうどうでもいいように思えた。

苦い文学

シリーズ「生きるのがつらいあなたへ」

ザンゲー通信の人気記事といえばシリーズ「生きるのがつらいあなたへ」だ。

この連載記事では、各界の著名人が登場して、自分の不幸な生い立ち、いじめられた経験、苦しい時代のあったことを読者に打ち明けるのだ。そして、そうしたつらい経験があったからこそ、今の自分がある、だから今、生きるのがつらいあなたもきっと乗り越えられる、と読者を励ますのであった。

ある日、編集部に一通の手紙が届いた。それは年若い読者からのもので、記事が自分をどれだけ勇気づけたか感謝をもって述べたのち、以下のような要望が書き添えられていた。

「シリーズにいつも取り上げられるのは、つらい経験を乗り越えて成功された方々です。ですが、あまりにも試練が大きくて乗り越えられなかった人もいるかもしれません。僕は乗り越えた方だけでなく、乗り越えられなかった方の話も聞きたいのです」

編集長はこう思った。「なるほど乗り越えられなかった人々が、どんな人生を歩んでいるかも大事なことだ。もしかしたらその人生から励まされる読者もいるかもしれない。しかし、この取材は大変だぞ」

そこで、編集長は、数いる記者のうちもっとも優秀な記者を選び、こう告げた。「乗り越えられなかった人々も取材してほしい」

数日後、取材から戻ってきた記者は、編集長のところにやってくると言った。

「みんな死んでいました」

編集長は読者から来たその手紙をゴミ箱に捨てた。

苦い文学

自由のマスク

明日、3月13日からマスクが変わる。

今日までは、政府が新型コロナウイルスの感染対策として国民にマスクをつけるように「お願い」してきた。だが、明日、いや、もう3時間後にも、マスク着用は個人の判断に委ねられるのだ。

たとえば、マスクを下げて鼻だけ出す着用法、いわゆる「鼻出しマスク」は、コロナ対策としては不適切なものとみなされ、避けられ、蔑まれていた。だが、明日からは個人が良いと思えば、いつでもどこでも堂々と鼻を出していいのだ。

いや、それどころではない。私たちは明日から、どんなマスクのつけ方をしても、誰にも文句は言われないのだ。

片耳からぶら下げようと、アイパッチのように使おうと、おでこに当てようと、あるいは頭のてっぺんに載せようと自由ということになったのだ。

いや、そればかりでない。不織布でなくてもいいのだ。あらゆる素材が可能だ。ウレタンでも、布でも、藁半紙でも、鉄でも、皮でも、ゴザでも、オブラートでも、すべて個人の判断だ。

そうだ。色も、デザインもだ! 犬とか猫だってあなたがそう判断すればマスクだ! それに、1枚だけというのでもない。いくつでも文句は言われないのだ!

今、日本中ですべての日本人がこの解放のときを待っていることだろう。

思えばマスクは私たちが味わった不自由の象徴であった。だが、3時間後、12時の鐘が鳴ったとたん、それは自由の象徴と変身するのだ。まるでおとぎ話のシンデレラのようではないか。

さあ、私たちは明日、どんなマスクを何枚、どのように、どこに、つけようか。そう思うと、まるで舞踏会に行くかのようにワクワクが止まらないのだ。

苦い文学

純粋思念

「たとえば、何か用事があって出かけようとしていてさ」と私は友人に語った。

「持ち物を鞄に入れる。財布、メモ帳、ペン、イヤホン……。そこで気がつく。あれ、携帯はどこだっけって。机の上を見ると携帯が置いてある……それで、外に出るんだ。目的地に着く。で、カバンを開く。携帯電話がないんだよ」

友人は黙ってうなずいた。

「机の上にあるのを見ただけで、入れてなかったんだ。毎日だよ、こういうことが。まるで、ある物体を見ただけで、もうそれがカバンの中に入っている気になってしまうみたいだ。老化だね」

私は笑った。友人がもし私より年下だったり、年上だったりしたら、こんな話はしなかったろう。同い年の友人なら共感してくれると思っていたのだ。だが、彼の返答はまったく予想と裏切るものだった。

「いや、そんなんじゃない。俺はむしろ人間として進歩してる、と思ってる。思念がより純粋に、より強力になっているんだ。きっと近いうちに、物体を見るだけで、その物体をカバンの中に移動させることができるようになる。その予兆が今起きてるんだ。だから、違う、絶対にそんなんじゃない……」

自分の老化を認めたくないあまり、ファンタジーに逃げ込む。これもまた老化の一種であろう。