風刺・戯文

内戦に転化せよ

【ザンゲー通信社:社説】
ますます先行き不透明になっていくこの国際社会において、もっとも重要なのは同盟関係、とくにアメリカとの関係である。

現在のアメリカはトランプ大統領という強力な指導者をいただいており、日本政府は、日米同盟を維持するために、あらゆる手を尽くしてトランプ大統領に媚びへつらい、おもねる必要がある。

そのために、日本政府は、媚びへつらいの印として、トランプ大統領が欲しいもの、とくにトランプ大統領が欲しくても手に入れることができないものを差し出すべきである。

それはいったいなんだろうか? ひとことで言えば、内戦である。日本で内戦を起こすのである。

どういうことかというと、まず日本国内で政府と反政府組織とが交戦を始め、内戦を激化させる。そして、国民の多数が犠牲者となり、こう着状態に陥ったそのときに、トランプ大統領に和平の調停をお願いするのだ。もちろん、和平は成立し、その結果、トランプ大統領はもっとも欲しいもの、つまりノーベル平和賞を手に入れることになる。

トランプ大統領は我が国に対する恩を決して忘れないことだろうし、内戦で死んだ国民の霊も浮かばれることだろう。

もちろん、このような内戦を起こすのは簡単なことではない。だが、さいわいにも、今、日本はそれが唯一可能な方を首相として戴こうとしている。我が国の将来を見据えた「媚びへつらいを内戦に転化する」政治の実現のために、野党は妨害工作を慎むべきである。

苦い文学

独裁者のラーメン

北朝鮮から亡命してきて、日本で暮らしているという人と知り合いになり、北朝鮮の内情を詳しく伺うことができた。

貴重な話に感激した私は、その方を食事に招待することにした。ちょうど近くにつけ麺で有名なラーメン屋があるので、そこに行きましょう、と誘った。

すると、彼は震え出すではないか。「ラーメン屋ですか? 絶対に無理です。私を殺す気ですか?」

「いったいどうしてですか? おいしいと評判の人気店ですよ」

「なぜって、ラーメン店はすべて北朝鮮の手先が営業しているのです」

「そんなことはありませんよ」

「いいえ、絶対に北朝鮮です。ラーメン屋の店主を見てください。客を見下し、なにかというと舌打ちでびびらす、あの傲慢で残忍な人々を。これらの店主たちは、店内では俺がルールだとばかりに、メチャクチャな決まりを作って、客の自由と食事の安らぎとイヤホンを奪っているではありませんか。まさしく金正恩体制です」

「いや、それはちょっと……」

「しかもですよ。このラーメン恐怖政治に恐れをなして店外に亡命したとても、私たちは安心してはいられないのです。ラーメン屋の独裁者たちは、その逃げる背中を目掛けて、SNS で無慈悲な言葉のミサイルを次々と発射して攻撃するではありませんか! EEZ 圏内に! ただの客なのに! いいえ、すみませんが、私は遠慮いたします」

こう言うと、その方は帰ってしまった。結局、私はひとりでその店に行き、ひとりでつけ麺を食べた。

店内に貼られている大勝軒のオヤジの写真が、次第に金日成に見えてきた。

苦い文学

猫背物語

通勤時に通り抜ける公園で、若い女性がひとり座っているのを見かけた。思い詰めたようすで、私は放っておけないような気がした。

思いきって話しかけてみると、意外に素直な返事をしてくれた。短いやり取りののち、彼女が話したのはこんな身の上話だった。


父が病に倒れたのは、私が中学生のころ。それから3年間の闘病が始まった。

病気というのは、頚椎の異常で、椎間板が神経を圧迫して全身が麻痺して。身体中が痛くて、苦しんでた。

お医者さんの話では、姿勢が悪いのが原因で、猫背を治すほか治療法はないって言われて。

それで父も猫背を治そうといろんな治療法を試したけど、それこそ、アヤシいのも含めてね、でもよくならなくて、日に日に弱っていった。

とうとう入院しちゃって。もう痩せちゃって見ただけで涙が出てくる。お父さんは何にも言わずにただ病室から外を眺めてた。

それで、もう本当に危ないってときが来て、お父さん、泣きながら、お医者さんにこう言った。

「先生、猫背が治らないのなら、せめて私を猫にしてください」

そう言って、窓を指差して。

「最後に、最後だけは、あの外にいる猫みたいに自由に歩き回り、のびのびと暮らしたいのです……」


彼女はこう話すと涙を流した。

「ごめんなさい。泣くなんて……」

私は少し慌てて「いいえ、そんなこと……でも、つらいですね。家族が亡くなると」

彼女は意外そうに言った。「えっ、違います、父は元気ですよ」

「あ、すいません。いや、てっきり……」

彼女はカバンから猫缶を取り出すと、開けて地面に置いた。すると、大きな猫が1匹、草むらから姿を現し、のそのそと歩いてきた。

「お父さん、この人、さっき知り合いになった人」

大きな猫は私をみると全身の毛を逆立て、背中を丸め「フーッ」と威嚇した。見事な猫背だった。

苦い文学

ファクトチェック

インターネット空間での誤情報の氾濫、ヘイトスピーチの跋扈、陰謀論の猖獗に対処するため、政府の肝入りで「日本ファクトチェック協会」が設立された。

当初は、日本に流通するあらゆる情報をファクトチェックの対象とすることになっていたが、新聞やテレビからのマスメディアの情報はチェックの対象から除外されることとなった。これらの機関はすでに独自のファクトチェック体制を備えているからだ。

ついで、政治家から横槍が入り、政府と政党も対象から外された。「大陸から8割」みたいなのをもっと言いたかったのだ。

さらに、ネット上の情報もまたファクトチェックから除外されることになった。それだけの人手の確保ができなかったことが大きい。

「日本ファクトチェック協会」はこれ以外にもさまざまな問題に直面した。ファクトチェックそのものが事実に基づくかのファクトチェックが必要だということになり、ファクトチェックが非常に煩雑になったり、協会の Twitter が、誤情報拡散で炎上したり……。

現在では、協会がファクトチェックするのは、夢だけだ。

「はい、こちら日本ファクトチェック協会です」

「ええと、昨晩、永野芽郁ちゃんから告白される夢を見たんですが、本気っぽかったので、もしかして、本当のことかな、と思って」

「ファクトチェックします……誤情報です」

「では、芽郁ちゃんの頭がパカッと開いて、タヌキが挨拶してきたのも誤情報だと?」

「ええ……」

こんなのだったら、夢占いに行ったほうがマシだと誰もが感じている。