することがないので街をぶらぶら歩いていたら、一群の人々に出会った。みんなで大きな荷物を担ぎ、口々に叫んでいた。よく見てみると、荷物ではなくゴザでぐるぐる巻きにされた男なのだった。そして、人々はその男に「バカめ」「アホ」「ノロマ」などと侮蔑の言葉を浴びせかけていた。
私は思わず尋ねずにはいられなかった。「この人がどうしたのですか。盗撮でもしたのでしょうか」
ひとりの男が答えた。「私たちはこの男を海に沈めようと運んでいるのです」
「それはまたどうしてですか」
「こいつ、地頭が悪いからだよ!」と別の男が忌々しげに叫んだ。「そうだ!」「悪すぎる!」と人々は同調した。
「地頭が悪いからといって海に投げ入れることはないではありませんか」
「違うんだ! こいつは地頭は悪いままのほうがいいと言って、絶対に何もわかろうとしないのだ」「地頭の悪さが犯罪的なのだ!」「地頭のよさに対する侮辱だ!」 そういうと、人々は男を殴りつけた。男は呻き声をあげた。私は彼に話しかけた。
「いくら地頭が悪いといっても、あなたはご自分が海に放り投げようとされていることぐらいはわかるでしょうに!」
簀巻きにされた男は苦しそうな声で答えた。「わたくしは……地頭の悪い男でございます」
「そんな! 死ぬのに地頭の良し悪しは関係ありませんよ!」
「わかりません。わたくしは地頭が悪いからこそわからないのでございます」
人々が嘲った。「この調子だ!」 ひとりが私に説明した。「こいつは、地頭のよさより、地頭の悪さのほうがずっといいって言いやがるんだ。わからないままでいたいんだとさ! とんだ地頭の悪さだ!」
男がうめいた。「そうではないのです。わかった気になるより、わからないままでいるほうが、ずっと大事だ、と申し上げたのでございます」
「そうさ! だからいっそのこと、わからないままにしてやろうってのさ!」 人々はそういうと簀巻きの男を運んで、海のほうに行ってしまった。地頭のよい人々は、なるほどすぐやる人々だ。