旅・観察

ローマの休日

六月二十六日にシチリア島のカターニアで学会発表を終えて、私はその午後、ローマに飛んだ。二十八日の午後に日本に向かうから、二十七日はまる一日休みということになる。

もっとも私は、それまでのチュニジアとイタリアの滞在で疲れ果てていて、観光に行こうなどという気は起こらなかった。ただ、気力を振り絞って、古書店三つと普通の本屋二つに行った。ローマのテルミニ駅にある本屋はとくに大きくて、そこには何度も行った。古書店はさすがにローマだけあって数百年前の革の装丁の本や地図がずらりと並んでいた。とはいえ、私はこれだけ本屋巡りをして何も買わなかった。古典作家のペーパーバックぐらい買ってもいいのではといくども手に取った。その度に自分が読む可能性を冷酷に計算したが、常にゼロが弾き出されるので、結局棚に返した。

二十八日の朝はさすがに元気を取り戻して、早朝からローマの街を歩き回った。コロッセオやフォロ・ロマーノといった有名な観光地は外から見て歩くだけでも、それなりに楽しめる。

街を歩いていると、白いベールをかけた女性たちが建物の入り口に集まっているのを見かけた。近づいてみると、日曜日の礼拝をしていた。讃美歌らしきものも聞こえてくる。Ethiopiques というエチオピアの大衆音楽を集めた大シリーズがあるが、私はそれを聞いたときの印象を思い出した。後で地図で調べたら、エチオピア正教会の礼拝所だった。エチオピアでは、アラビア語の親戚にあたる言語がいくつも話されていて、私が行きたい場所のひとつだ。

教会を離れて歩いていると、青い花柄の服を着た若い女性が白いベールをかけ直しながら向かってきた。急いでいるようだ。そのとき、やはりベール姿の若い女性が車道を電動キックボードで走ってきて、歩きの女性を追い越していった。歩きの女性は笑いながらキックボードの女性に声をかける。二人の休日は教会から始まるのだろう。