これは二〇二六年六月二十六日にアラビア語方言国際学会(AIDA)大会で行った口頭発表だ(イタリア、カターニア)。
扱ったのは、否定が広い範囲に及ぶ文だ。これを Broad-Negative Sentences と呼んだのだが、あまり適切とは言えない。
広い範囲というのは、一般には否定のスコープと呼ばれるが、日本語でいうならば次のような例だ。
「風が吹いて自転車が倒れない」
この場合、「自転車が倒れない」のは明らかだが、「風が吹いた」ことについては両方の解釈が可能だ。ひとつは「風が吹く」という解釈で、この場合、否定されるのは「自転車が倒れる」ということだけになる。もうひとつは「風が吹かない」という解釈で、この場合は、否定されるのは「風が吹いて自転車が倒れる」ということになる(つまり、風は吹かないし自転車も倒れない)。否定のスコープという観点からいえば、後者のほうが広い。
アラビア語チュニス方言でも、似たような例がある。動詞が述語となる文を動詞文と呼ぶとすると、動詞文が二つ繋がっているときに一番目の動詞文だけしか否定されていないのに、二番目の動詞文も否定として解釈できる場合がそれだ。
また、名詞が述語となる文(名詞文)が動詞文に後続していても、最初の動詞文の否定が、二番目の名詞文にも及んでいる例もある。
発表ではこうした例をいくつか挙げてから、考察として、最初の文と次の文とが意味的に結びついていることが大事だと述べた。つまり、日本語の例でいえば「風が吹いて自転車が倒れる」という事態がいつも起こっている状況が必要ということになる。
発表後、モロッコ方言などでも否定のスコープに関して先行研究があるというコメントをいただいた。まだまだ勉強不足というところだ。
ところで、発表の準備のときに、論点がブレるので例文をひとつ削った。発表後、その例文が夢に出てきた。例文にも供養が必要と見える。