ターウジュート村の入り口に聖者廟がある。白い建物で、屋根のドームが緑色に塗られている。私たちの車はそこからさらに周囲をぐるりと回って村にたどり着いた。
道と村の間に広がる窪みを指してSさんがいう。「思い出した。昔はここに水が溜まってプールみたいになっていたんだ」
Sさんが村を離れたのはまだ子どものころだ。その時以来、帰ったのは一度しかない。それも日帰りだった。彼にとっては二度目の里帰りということになる。ただし、家はずっと無人のままだ。
「家は荒れ放題だ。おじが羊と山羊をそこで飼ってるよ」
車は村の中の坂道を登っていく。緩やかな丘の斜面に石造りの家が積み重なっている。子どもがパンを抱えて歩いていた。Sさんは、斜面に立つ一軒の家の前に車を停めた。車を降りる。
その家の入り口は道路より高いところにあって、短い階段があった。入り口の小さなバルコニーのようなところに五歳ぐらいの男の子がいて、鉄の柵に寄りかかっていた。Sさんによれば、おじのひ孫だそうだ。
Sさんは男の子のところに行き、話しかける。ターウジュートの言葉で、お父さんはどうした、というようなことを尋ねた。高いところにいる男の子は、鉄柵に体を押しつけながら、なにやらもごもご言っている。
私は長い間、チュニジアでベルベル語を学ぶことができないかと考えてきた。そして、昨年ついにSさんと出会い、一緒にチュニスでベルベル語を記録する機会を得た。今回の滞在で合わせて四週間ほどになる。その間、私はSさんが電話でお母さんとベルベル語でやり取りするのは聞いていた。しかし、目の前でベルベル語が使われているのを見るのは初めてだった。
入り口に立つまでにずいぶんと時間がかかったように思う。