苦い文学

免疫の孤独

孤独のワクチンを接種すると、数分後に体内で種が孵り、免疫が生まれる。この免疫は六本足の蛭のような外見をしている。その足を巧みに操って血管の中に潜り込み、遅くとも二時間後には脳内に達する。

そこで免疫は、足を六方に伸ばして脳に食い込み、ゆっくりと成長を始める。順調に育つと、全長2センチほどになる。免疫力が低下すると、徐々に萎びていくが、定期的にワクチンを打てば、大きさは保たれる。

接種完了者が孤独にならないようにするのが、免疫の役割である。そのため脳に直接、免疫作用を及ぼす。

接種完了者がひとりぼっちのときは、免疫は友人、家族、恋人、配偶者、子ども、あるいは芸能人や著名な作家になって、話しかけてやる。

悲しい時は、楽しいことを話し、苦しい時は温かな励ましを送る。愉快な話のネタも豊富に持っている。また、脳内に貯蔵された情報を再構築して、過ぎ去りし日々を再体験させたり、現実を忘れさせる夢幻の世界に誘ったりもする。脳にへばりついた虫とは思えないほどの忙しさだ。

友好的で、慈愛に満ちた言葉を発するかと思えば、急に意地悪なふりをしたり、拗ねてみせたりすることもある。巧みに姿を変えることで、接種完了者の心に適度な刺激を与え、孤独に付け入る隙を与えないためだ。

免疫は最良のパートナーといえる。どのような時も接種完了者のそばに寄り添い、その心を孤独から守ってくれる。

たとえ今際のきわであろうと、接種完了者の家族(万が一いたとしても)は、来る必要はない。免疫が最後の最後まで看取ってくれるからだ。

接種完了者が死ぬと、免疫は通常一〇分以内に消滅する。

この短い間だけ、免疫は孤独がいかなるものであるか知る。