苦い文学

非対面世界(1)

コロナ禍も出口が見え、多くの学校で対面授業が復活している中、彼の大学だけは非対面授業が継続していた。

いや、実のところ、対面と非対面が選択可能なハイブリッドだったのだが、教室に来る学生は一人もいないのだった。しかし、それでも彼は教室に行かねばならず、誰もいない教室で zoom の画面を見つめる日々だった。

学生たちはみな中国からの留学生だった。確信はなかったが、そのほとんどが中国にいるようだった。受講生として登録されているのは 120 人だったが、授業に割り当てられた教室は 60 人も入らなかっただろう。大学が非対面授業をやめないのは、このせいでもあった。つまり、現実のキャパを超えて留学生を増やすことができるのだった。そして、そのぶん大学は儲かるのだ。

120 人もいると、出席を取るのも大変だった。学生たちは常にカメラをオフにしていたから、顔もわからなかった。なんどつけるように言っても、学生たちは決してつけなかった。小さく分割された黒い画面に向かってひとり話し続ける、彼が行なっていたのはそんな授業だった。

もっとも、彼はときおり学生を指名して、教科書を読ませたりした。大学の方針で学生に発言させなければならなかったからだ。そんなとき彼は学生にカメラをつけるように要求した。

学生たちはあいかわらず拒絶したが、しつこく言うと、何人かはつけた。スクリーンの小さな四角の一つに光が宿り、学生の顔が映し出される。その顔は全体ではなく、あごとか頭のてっぺんとかのときもあったが、それでも、彼はなにか成し遂げたような気分、得体の知れない巨大な生き物をねじ伏せたような気分になった。