苦い文学

独り言

電車に乗っていたら、ぶつぶつと独り言を言っている人がいた。

「ぶつぶつ……ぶつぶつ……」

「おい、うるさい」

「ぶつぶつ……」

「うるさいぞ!」

「ぶつぶつ……ぶつぶつ……なんですか、独り言ぐらい言っていいじゃないですか」

「いや、それがダメなんだよ! この車両は俺のナワバリなんだ」

「独り言いうのにナワバリもクソもあったもんじゃない」

「だから、それがあるんだ。この車両で独り言を言えるのは俺だけなんだ」

「えええっ、そうなんですか。そんな決まりがあるんですか」

「そうだよ、お前。同じ車両に二人も三人も独り言を言うのがいたら乗客だって困っちゃうよ」

「そんなにいうんなら、じゃあ、いいですよ。隣の車両に行って思う存分独り言を言いますから」

「ちょ、ちょっと待った。隣の車両はガナリの政のナワバリだ」

「じゃあその隣の車両は?」

「つらみのつね子だ。いや実際、この電車はもう空きがないのだ」

「じゃあ、どうすればいいんです」

「ちょっと待て、今調べてやる。そうだな、始発の6両目が今なら空いてるぞ」

「始発!」

「しかたがない。俺が独り言を始めた時は、夏の臨時列車だったわい」

「わかりましたよ。明日、早起きしますよ」

「そうそう、そのうちいい時間帯のいい車両に空きが出るさ。頑張れよ! 若いの!」

……というような内容を一人二役でぶつぶつ言っていた。