安田が東南アジアの山岳地帯に取材に行ったときのことだ。同行者たちと、ある小さな村に立ち寄り、そこでお昼を食べることになった。
日本人がいると知った村人たちは安田に話しかけてきた。なんでも村に日本語を話せる人がいるという。「会わないか」と人々は安田に言った。
安田も興味を持った。もしかしたら面白い話が聞けるかもしれないと思ったのだ。
しかも村人がいうには、まったく独学で日本語を習得したというではないか。こんな山奥でどうやって、と安田は思ったが、インターネットでなら可能かもしれなかった。
村人たちは安田を村のはずれの粗末な家に連れて行った。ひとりの村人が声をかけると、痩せた男が顔を出した。安田は日本語で挨拶をした。
「こんにちは!」
男は何やらぶつぶつつぶやいた。
「日本語がおできになると聞いてやってきました」
彼は険しい顔で何か言った。だが安田には聞き取れなかった。もしかしたら、それほどできないのかも、と思い、彼は言い直した。
「日本語、話す、大丈夫?」
すると男は村人と話し始めた。村の言葉なので安田にはわからなかったが、やりとりが終わると、男は家の中に入ってしまった。
不思議に思った安田は村人に尋ねた。男は自分ひとりだけで日本語を身につけたいので、日本人と話したくはない、とのことだった。