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未来における苦労(3)

鞭で打たれた運搬人は苦悶の叫びをあげた。制服の男は運搬人の腕を乱暴に掴み、荷車の進路の外へと引きずり出した。

「『買える苦労』の搬送は大変な重労働なのです。いえ、そればかりでなく大変に危険なのです」

私がその理由を尋ねると、飲み物売りは答えた。

「粗末に扱うと爆発するのですよ。だからこそ奴隷の働きぶりを厳しく監督しなくてはならないのです」

「あなたの国の王様は、買い集めた『買える苦労』をどうしているのですか。若者を明るくするばかりというわけにはいきますまい」

「実は、私たちもよくは知らないのですよ。王様が大量の苦労をどうなさろうとお考えなのか。王様がこの苦労を集める苦労として利用されているというのが、衆人の推察するところです」

私は、貯蔵された大量の苦労がドカーンと暴発する可能性もあるのではと気になったが、口にはしなかった。再び鞭の鋭い音が聞こえた。見ると、監督官がまた誰かを打っていた。その相手はまだ年端もいかぬ子どものようだった。

そのとき私はジュースが、氷も溶けて、生ぬるくなっているのに気がついた。飲みかけのジュースのコップを屋台のはじに置いた。そして、立ち去るそぶりを見せながら、飲み物売りにこう皮肉を言わずにはいられなかった。

「王様のご尽力あって、この国からはもう『買える苦労』だけは払底してしまったようですな!」

すると、飲み物売りの表情が変わった。彼は立ち去ろうとする私の腕を掴んで引き寄せ、耳元でささやいた。

「内密に願いますが、お望みなら、闇で苦労を買えるところを、ご案内できますよ。純度は保証つきです」

私はそれには答えずに立ち去り、若者のさんざめきを背後にしながら城門を出た。そして、再び森の道を歩き始めた。ときおり吹いてくる風の音が鞭の音に聞こえた。(おわり)

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未来における苦労(2)

そのとき、若者たちの楽しげな歌声とはまったく異なる物音が私たちの間に入り込んできた。目を向けると、いかにも異様な集団が近づいてくるのが見えた。

半裸の男女が巨大な荷車を動かしているのだった。ある者は引っ張り、またある者は後ろから押していた。荷車の上にはドラム缶のような大きな容器が積まれていた。

荷車の脇を、数名の制服姿の男たちが歩き、運搬人たちを口汚く罵っていた。

異様な光景に呆然とする私を、飲み物売りが後ろへ下がらせた

「危険ですよ。近づかないほうがいいのです」

「あれはいったいなにをしているのでしょうか」

「私がお話ししようとしていたのは、これですよ。あの大きな容器のなかには、『買える苦労』が入っているのです」

「『買える苦労』とは?」

「先ほども申し上げましたが、若者たちが若い時に苦労を買ってでもしてしまわないように、ああやって、私たちの国の王様が国中の『買える苦労』を買い集めているのです。そうすれば若者たちも苦労などせず楽しく暮らすことができるというのが、王様のお考えです」

私は甘いジュースを飲みながら、運搬人たちの様子を眺めた。そのとき、ひとりの男がばたりと倒れた。制服姿の男のひとりはそれを見ると、倒れた運搬人のところに駆けつけた。その瞬間、風を切るような鋭い音が聞こえた。男が手にした鞭をふるって、倒れた男の背中を打ったのだった。(つづく)

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未来における苦労(1)

不思議な現象により、遥か未来に送られた私は、自分の時代に戻る方法を探すために、未来の世界をさまよっていた。

私はいくつかの森を越え、ある国に辿り着いた。楽しげな歌声と、拍手が聞こえてくる。広く開いた城門を入ると、若者たちが楽しげに歌い、踊っているのだった。太陽がその黒髪を輝かせ、爽やかな風が健康的な汗の匂いを運んできた。

私は若者たちの集いの脇で、屋台で飲み物を売っている中年の男がいた。一杯注文すると、男は大瓶からブリキのカップに白い液体を注ぎ、バケツの氷を放り込んだ。おそるおそるすすってみると、ほんのり甘く、さっぱりとした味がした。「これはおいしい」

男は人の良い笑顔を浮かべ、「この辺りでしか取れないフルーツを絞ったものですよ」

「ほほう、珍しいものを」 私は華やかな若者たちに目を向けた。「この世界のあちこちを旅してきましたが、若者たちがこんなに幸せそうな国は初めてです」

「そうでしょう、これらの屈託のない若者たちこそ私たちの自慢なのです。ここでは、若い間はこうして一日中遊びまわるのがしきたりなのです」

「それはなんと素敵なことでしょう。ですが、若者にとって遊ぶのは大事ですが、それと同じくらい将来のために準備をするのも大切なように思いますが」

すると、飲み物売りは笑い出した。

「ええ! 他の国から来たお客さんたちはみなそうおっしゃりますな! 若い時の苦労は買ってでもしろ、と。ですが、私たちの国では、それは禁じられているのです。王様がそう定められたのです」

「禁止? 若い時の苦労が?」(つづく)