小説

オッパ・チャレンジ(2)

「それならば、なおさら不可能なのでは? オッパなんて無謀なことを諦めて、一緒に上野にサムギョプサルでも食べに行こうよ」と誘うと、彼は不敵に笑って断った。

「いいや、徹底したリサーチが叩き出した秘策があるのだ」 

「そ、それは?」

「フフフ、将を射んと欲すればまず馬を射よ、とだけ言っておこう……」

それから 2 年あまりがすぎた。さすがに私も、あの無謀な計画のことは忘れかけていた。そんなある日、友人から成功したという知らせが届いた。私は羽田空港に彼を迎えに駆けつけた。姿を現した彼は、日本を発ったときに比べて、いくぶん精悍な顔つきになったように見えた。故国に降り立った彼に、挨拶もそこそこに、私はあの謎めいた発言について尋ねずにはいられなかった。

「私はとにかく韓国の男性と親しい友達になったのだ。そして、互いに家を訪問し合う間柄になった。親しくなった友人のひとりに妹がいた。付き合いを重ねるうちに、その友人の妹がごく自然に私をオッパと呼んでくれたのだ。兄の親しい友人としてね」

この「オッパ・チャレンジ」の成功の波に乗り、次は「ヌナ」と呼ばれたい、と友人は今、厳しいトレーニングに打ち込んでいる。

小説

オッパ・チャレンジ(1)

韓国語の「オッパ」というのは、「お兄さん」という意味だが、日本語と違って、女性が実兄や年上の男性を呼ぶときだけに使われる。男性には別の単語で「ヒョン(お兄さん)」がある。ちなみに女性が年上の女性を呼ぶときは「オンニ」、男性が年上の女性を呼ぶときは「ヌナ」という。

「オッパ」は、もっとも有名な韓国語のひとつだ。韓国ドラマでは、年上の恋人への呼びかけに頻出するからだ。ただの親族呼称にすぎないが、ドラマでしか「オッパ」に触れないでいると、そこに必要以上にロマンチックな響きを感じてしまう。

韓ドラ愛好家の私の友人も、この「オッパ」にすっかり心奪われてしまった。50 代半ばの彼は、「自分も韓国の女性にオッパと呼ばれたい」との野望に取り憑かれ、猛勉強の末に韓国語を身につけ、ひとり渡韓したのだった。

「妻子ある身にもかかわらずなんて無茶を」と呆れた私は、出発前にその意図をただした。すると「オッパと呼ばれるためだけに、恋人関係を利用するなどという卑劣な真似はしないから、安心したまえ」と彼は真剣な顔で告げた。