苦い文学

ルーの秘儀

汝、カレーおよびシチューの調理をなすものよ、ルーの投入はもっとも神聖な瞬間だと知れ。

煮え立った鍋にルーを決して入れてはならぬ。なんとなれば、ルーの怒りを招くがゆえに。

まず、火を止めねばならぬ。すると、騒がしくもグツグツせる鍋は、たちまち和らぎ、静かにならん。

こはルーを入れるのにもっともよき兆候なり。されど、もしグツグツ止まざれば、ただちに調理を中止し、その日は断食すべし。

鍋が静かになりしのちは、祈祷を捧げよ。ルーの力を鍋に召喚せんがためなり。

その祈りでは、まず野菜および肉など具材の来歴を語れ。ついで煮込みの頼もしき味方である火と水の精霊に感謝を述べよ。そして、最後にすべてをひとつにしたもうルーの偉大なる力を褒め称えよ。

祈りとともに、ルーを讃える舞踊をなすべきなり。ただし、空腹のはなはだしき場合はその限りにあらず。

さて、これらの聖なる儀式ののち、はじめてルーを鍋にたてまつること許さるるものと知れ。この秘儀なくして、ルーの加護を溶け残りなく受けることなし。

ルーを収む紙箱には、ただ「いったん火を止めてからルーを入れてください」と記されるのみ。

なんぴとも知らざりしその理由について、今、我、ここに明らかにせり。

苦い文学

AI の絵

AI による画像生成が話題になっているので、私もさっそくやってみた。

まず Discord にアカウントを作って Midjourney を試した。英語キーワードを入れて、画像を生成するのだが、「プーチンのかつらコレクション」を試しているうちに使えなくなってしまった。

無料では25枚しか作れないのだった。無駄なことに使ってしまった。

しかし、無料で制限のないサービスもある。Stable Diffusion だ。

私は世界各国のビートルズを作成するのに夢中になった。「日本人のビートルズ」「ベトナムのビートルズ」「ビルマのビートルズ」「インドのビートルズ」……「北朝鮮のビートルズ」には金正恩に似た人もメンバーに加わっていた。

AI の絵というのは、うまい絵は得意だが、下手な絵はそうではないようだ。もしかしたら、これから AI には描けないような下手な絵の価値が高まるかもしれない。

苦い文学

核への親近感

プーチンが核爆弾を使うかどうかについて、いろいろな人が論じているが、使っても意味がないからその可能性は低い、というのが大方の見方だ。

意味がないとはどういうことかというと、まず核爆弾で劣勢を挽回することはできないというのがひとつ。さらに、核爆弾の使用により、ウクライナとその支援陣営の結束が強まる可能性がある。そして、中国などの数少ない味方も、ロシアを見限るかもしれない。

では、核爆弾の使用が意味があるのはどんなときだろうか。私が読んだ限りでは、2つあるようだ。

ひとつは、核爆弾の使用によって、相手の戦意を挫き、終戦に持ち込める場合だ。広島・長崎の原爆投下がこの例だ。しかし、これが効果を持つのは、ちょうど日本がそうだったように、相手が負けかかっているときだけだ。つまり、今の劣勢のロシアでは、意味がないのだ。

もうひとつの場合は、プーチン政権の維持に役立つときだ。核爆弾を使用することが、ロシア国内における自分の権力維持・増強につながるならば、プーチンは使用するだろう。

つまり、戦争に勝とうが負けようと、また、ロシアという国がどうなろうと、自分さえよければよい、というわけだが、ただ、こうした状況はあまりなさそうだ。

私は軍事についてはまったく知らないから、核爆弾の種類や、それぞれの戦略的な価値について、たくさん見逃しているとは思うが、こうして見ると、核爆弾とは、大金をかけて作った割には、たいして使い道がないようだ。

なんだか、今の自分のようで、親近感すら覚えるのだ。

苦い文学

核を使うたった一つの習慣

核戦争のおそれが高まる今、なによりも重要なのは、ウラジーミル・プーチンに核兵器の使用を諦めさせることだ。

そのためになにができるだろうか。私は、特定の本のグループをロシア語に翻訳してはならない、と考えている。それらの本がプーチンの目に触れたら、核戦争勃発間違いなしなのだ。

まず、危険なのは「嫌われる勇気」的な言葉をタイトルに含む本だ。我が意を得たりとばかりに、プーチンがもっと嫌われる方向に勇気だしちゃったらどうするのだ。

そして「すぐやる人」という語がタイトルに含まれる無数の本も極めて危険だ。

いったい、これらの本の著者たちは、「すぐやる人」の手元に核ボタンがある可能性を考えたことがあるのだろうか。ないから、こんな無責任な本が書けるのだ。

同じような理由から、「後回しにしない」とか、「やる気を出す」とか、「やり抜く人」「できる自分に変わる」「結果を出す」「夢をかなえる」などなどの文句をうたう本もロシアに輸出してはならない。

これらの本を読んで感激したプーチンが出版社にハガキを送ったらどうするつもりなのだ。

しかも、山手線の広告にまで使われたりして。

「迷っていた自分の背中を押してくれたような気がして、核兵器の使用を命じました」(ロシアのいち独裁者、70歳)

いったい、著者たちはどう責任を取るつもりなのか。

苦い文学

長い話

ノーベル平和賞の授賞式がノルウェーの首都オスロで行われ、受賞した日本の長田一郎さんが、記念のメダルと賞状を受け取りました。

今回の受賞は、国際的な平和発明家として知られる長田さんが 2021 年に発明した「長い話専用のカッター」によるものです。

「長い話は平和にとって脅威でした。なぜなら、長い話は、人々を抑圧し、洗脳し、戦争に動員するのにうってつけの手段だからです」と、ノーベル賞委員会のテッド・フィリバスター氏は選考理由を語ります。「ミスター・オサダのカッターはこの状況を大きく変えたのです。このカッターにより、人々は偉い人の長い話を簡単に断ち切れるようになりました」

受賞後のスピーチで長田さんは、平和の基礎は、多様な人々の言論の自由を保障することであり、権力者の長い話という監獄から人々が解放されることがなによりも重要だと訴えました。

なお、長田さんのスピーチは今も続いています。

苦い文学

いつもありがとうございます

はじめて買い物をした店なのに、帰りぎわに「いつもありがとうございます」と言われることほど、私にとってイヤなことはない。

もちろん、私にも、店の人がどうしてそんなことを言うかはわかる。言葉どおり、私がいつも来る常連だから感謝している、という意味ではない。

そうではなく、ただ、私を客の代表に見立ててそう言っているに過ぎないのだ。つまり「あなたのようなお客さまがたがいてこそのこの店です。心より感謝いたします」ということだ。

そして、これは同時に「あなたのようなはじめてのお客さまでも、常連のお客さまのように大切にいたします」と、店が客を大事にすることのアピールともなっている。

だが、それでも私はイヤなのだ。不気味なのだ。恐ろしいのだ。

なぜなら、私とそっくりな人間が、その店にすでに来ている可能性だって否定できないからだ。

私の預かり知らぬところで、私に瓜二つの存在が徘徊している……なんと不気味なことだろうか。

しかも、そいつは私の近くにいるのだ。いや、もしかしたら、そいつは私を探しているのかもしれない。私の行く可能性のある店をひとつひとつ訪問しているのだ。

「いつもありがとうございます」「いつも」「いつも」……。

そいつは、私がそこにいたと言う確かな証拠であるその「いつも」を辿って、いつか私の居場所に姿を現すことだろう。

そして、私を滅ぼし、何食わぬ顔で私として生き始めることだろう。

苦い文学

韓国の優先席

韓国の友人と電車に乗った時、その人が、韓国では電車やバスの優先席には絶対に座ってはいけない、と教えてくれた。

日本みたいにうっかり座ると、叱られるのだという。

「周囲の人がそうやって注意するんですね」 そう私がいうと、その人は言った。

「違いますよ、お年寄りが怒るんです。ひどい時には、杖で叩かれたりします」

「そんなに元気なら座らなくてもいいでしょうに」

「韓国では年上の人が絶対なのです」 つまり、元気かどうかは関係がないというのだ。

「だから、韓国に行ったら、優先席には座らないでください。いえ、その近くにも行かないほうがいいですよ」

「近くもダメですか?」

その人はうなずいた。「私は優先席の近くにいるだけで震えがくるくらいです」

「そんなに!」

家に帰ってネットで調べて見たら、確かに「韓国では若者は優先席には決して座らない」というような記事がいくつもあった。

そんなわけで、今後、韓国に行こうという人は、優先席での無用のトラブルを避けるため、もっともっと老いぼれた上で渡航していただきたい。

苦い文学

北千住のバンクシー

バンクシーとは誰なのか、そして何のために壁面に絵を描くのか。私はこう問うだけでは不十分であることを学んだのだ……。

それは、先日、私が北千住の駅前のゴタゴタした界隈で酒を飲んでいた時のことだ。店は混んでいて、私は二人連れの男と相席ということになった。二人ともみるからに品の悪い風体だった。

はじめのうちは、私は無視を決め込んだ。ひとりスマートフォンに見入っていたのだ。だが、どうしたきっかけか、私と二人の男との間で交流が始まり、ついに意気投合にまで至ったのであった。

二人のうち、もっぱら話すのは片方だけだった。もう片方はまったく口をきかず、ニタニタしながら酒を歯の抜けた口にひたすら流し込んでいた。

どうやら私も同じように飲んでいたらしい。ふと気がつくと、私たち3人は別のもっと汚い店で安焼酎の入ったグラスをぶつけ合っていたのだった。やがて私は酩酊し、再び記憶を失い、次に正気を取り戻した時は、道に寝転んでいたのだった。

そこは壁に囲まれた薄暗い袋小路だった。

モウロウとしながら起き上がると、連れの男が私に抱きついてきた。「見ろ、見ろ」

彼が指差すほうを見れば、あの無口な男がこちらに背を向けて壁際に立っているのだった。「それ、やれ! やれ!」

無口な男は身を揺すり、汚らしく喉を鳴らすと、勢いよく吐いた。

「見ろ! 見ろ!」 男は叫んだ。そして、無口な男がふらふらと横によろけて移動したとき、私は信じがたいものを目にしたのだった。

そこには、花束を投げようとするマスクの男が描かれていたのだ。

男は大笑いした。「ほら! 俺の言ったとおりだろ! 北千住のバンクシーだ! なんでも描いちゃう!」

見れば、あの無口な男は、今度は別の壁に向かって吐き散らしたところだった。ああ! その壁では、風の中の少女が虚しく手を差し出していた。そして、赤いハート型の風船が今にも飛び去ろうと……。

「ああ、あのハートは、さっき食べた鶏肉のトマト煮!」 私は思わず叫んだ。

男は壁の絵をを見ながら、腹を抱えて笑っていた。「バンクシー! バンクシー!」

そのとき、無口な男が急に身悶えしだした。腹を押さえていた。もしや、あの生牡蠣が? 彼は苦悶にうめきながら、ズボンを下ろすと、尻を壁に向けた……。

それから何が起きたかは、語るべきではないだろう。ただ、その壁には、プラカードを掲げたドブネズミが、そこ、ここ、あそこ、ああ、無数に!

……バンクシーとは誰なのか、そして何のために壁面に絵を描くのか。そんな問いよりも、もっと重要なのは「何で描いているか」だということを、私は学んだのだ……。

苦い文学

アンガーマネジメント

「短期は損気」などといいますように、この世で一番避けるべきは、一時の怒りに我を忘れて、思いもよらぬことをしでかすことです。

では、怒らぬようにするにはどうしたら、よいでしょうか。

よく言われますのが、怒りを表に出す前に、数を数える、というもの。数を数えている間に、怒りがおさまり、冷静に対処できるというわけです。

もうひとつ、言われているのが、相手の立場になって考えるということ。これも大事なことです。

もし、自分が相手の立場だったらどう感じるだろうか? そんなふうに想像してみると、自分もあるいは同じことをしでかしていたかもしれず、そのぶん寛大な心持ちになれるというものです。

しかし、本当に怒っている時は、相手の立場など考える余裕もないものです。それに、それはなんだか、相手を許すようなことではありませんか。ですが、大事なのは、相手を許す許さないと、怒りは別物だということです。許す必要はないのです。ただ、怒りを鎮めることが大事なのです。

こんなとき役に立つのが、物事を別の目で捉えることです。

よく知られているのは、高速道路で乱暴な運転に出会った時の対応です。無謀な運転で追い抜いていった車を見て「ああ、トイレに急いでいるのだ」と思えば、腹も立ちません。カッとなってあおり運転を始める、などというのはまさに愚の骨頂でしょう。

ところで、最近の北朝鮮のロケットの連続発射は不愉快ですし、非常に腹立たしいことですが、これにしても、「ああ、あの国からは、ロケットまでがわれ先に逃げ出してる」と考えてみましたらば……

苦い文学

強化兵士

ウクライナ侵攻以来、ロシア軍の兵士の敗走が相次いでいる。

その原因はいくつも挙げられている。訓練不足、士気の低さ、不十分な装備、指揮系統の乱れ、兵站の失敗……。

もちろん、兵士が弱いからといって、ロシアを侮ってはならない。なにしろ、核爆弾を何千と所有しているのだ。だが、核が何発あろうと、それで兵が強くなるわけでもないのも確かだ。

実はロシアもその辺りはわかっていて、ウクライナ侵攻前から、強化兵士の導入を進めていたということが明らかになった。

強化兵士というのは、人体に生化学的処置を加えることで、通常の兵士よりもはるかに優れた能力を獲得した兵士のことだ。

ドーピング大国のロシアが本気で取り組んだのだ。その結果たるや、恐ろしいほどだった。

あらゆる点から見て、超人が誕生したのだ。肉体の俊敏性、耐久力、反発力は人間の6倍もあった。感覚も鋭く研ぎ澄まされていた。その聴力は通常の人間の6倍、その視力は8倍あった。真夜中に20キロ先の獲物の動きを難なく捉えることができたのだ。

それだけではない。強化兵士の知能は、外科処置と薬物により、通常の人間の10倍にまで高められていた。戦場のあらゆる情報は、この異常な脳により、瞬時に計算、分析された。強化兵士ひとりで1師団分の威力がある、モスクワはそう評価していた。

強化兵士は、ウクライナ侵攻当日から前線に投入された。その日のうちにキーウを制圧する予定だったのだ。

だが、実際のところ、この作戦がうまくいかなかったのは周知の通りだ。

人間の何倍もの能力をもつ強化兵士は、平和を愛する気持ちも人1倍強かったのだ。

(現在、強化兵士たちはオーガニックな蜂蜜づくりにいそしんでいるという……)