小説

知的生命体の探索

地球人はついに星々を巡る船を建造し、知的生命体を探索する旅に出発した。もちろん闇雲に探すのではない。地球人たちは遠い星のいくつかにもう目星をつけてあった。

数万光年の旅のすえ、船は最初の星に到着した。だが、そこには生命と呼べるものはなかった。そこで、さらに数万光年の旅を続け、2番目の候補の星に辿り着いた。船は星全体をスキャンしたが、小さな微生物がいるだけのようだった。

船が3つ目の星に着くまで、さらに数万光年の虚空を突き進まねばならなかった。そして、その星で地球人は不思議な存在を見つけたのだった。

それはまるで枯れた樹木に似ていたが、目や口のような器官があった。そして、この樹木たちは、その口のような穴ボコを動かして、互いに話し合っているようなのだった。地球人はこれこそ知的生命体かもしれないと大いに興奮した。

「私たちは遠い星、地球から知的生命体を見つけるために旅をしてきました。みなさんとお会いできて光栄です」

すると、樹木たちはぴたりと動きを止め、ぶつぶついう声も聞こえなくなった。

「なんだ」と地球人は言った。「知的生命体ではないのだな」

がっかりして地球人が立ち去ろうとしたとき、一本の樹木が鋭い音を発した。その音の分析には長い年月がかかり、それが分かったときには、船は遠く離れた別の星域を漂っていた。

樹木はこう言ったのだった。「僕たちも知的生命体の探索のためにこの星に派遣されたんだよ。大変だよね、知的生命体を見つけるのって。お互いに見つけられるよう、がんばろー……」

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苦い文学

アウシュヴィッツ訪問(3)

さて、これまでは利口な人の利口な行き方について話してきた。では、愚かな人の愚かな行き方とはどんなものだろうか。

それは、前日になってアウシュヴィッツの行き方を調べる人である。これは、まさしく私であった。私がポーランド、ワルシャワに到着したのは、9月4日。そして、9月5日にクラクフに移動して、その日の夕方になって、さて明日(6日)はアウシュヴィッツに行こう、とネットを調べ始めたのだった。

もちろん、ポーランド行きが決まってから、アウシュヴィッツは絶対に行こうと決めていた。私は収容所と見ると行かずにはおれないタチなのだ。だが、同時に行き当たりばったりのタチでもある私には、その先を考えるのは難しかった。そして、そのせいで、わざわざクラクフにまできたのに、あやうく訪問を諦めざるをえないところにまで追い詰められたのだった。

さて、ありがたいことに、ネットにはいくつか訪問記があり、原則として博物館のツアーに参加しなくてはならないことと、専用の予約サイトがあることを知った。これについてはすでに書いたが、私はその手順通りに進み、9月6日のツアーを確認した。そして、驚いた。

ツアーが、朝の8時台にポーランド語とロシア語の解説者のものしかないではないか。英語のツアーがあるはずなのに……と、翌日の7日を調べてみると、そもそもツアーがない。土曜日だから休館日かもしれない、しかしそんなことあるかな……などと、あちこち見ているうちに、ようやく私にもわかった。

要するにほとんどのツアーの定員が埋まってしまっていたのだ。7日は休館日などではなく、すべて満員というわけだった。

もう遅いのだ。これはもう無理かもしれない、と私は考えた。

(画像は博物館前の鳥)

苦い文学

エコな不倫

平安時代の『大和物語』にこんな物語が記されている。

その昔、大和国葛城郡に男と女が暮らしていたという。やがて男には浮気相手ができ、その相手のもとへと足繁く通うようになった。

女はというと、すこしも妬むようすもなく、男を送り出すのであった。

ある時、不審に思った男は、浮気相手のもとに行くと見せかけて、物陰からこっそり覗っていた。

女は涙ながらに横になると、水の入った金椀を胸の上に置いた。すると、その水が沸騰したではないか。女はまた水を入れ替える。椀の水は再びぐつぐつと沸きだした。

これを見て、男は思わず女のもとに駆け寄った。嫉妬の炎を利用して蒸気機関を動かし、発電することはできないかと考えたのだ。男は、さっそくそのアイディアを実行に移し、実用化に成功した。

いまでは、男が浮気相手のところにいる間に、女は嫉妬の火力発電を行い、自宅の電気をまかなうばかりか、近隣の家々に電気を売っている。

そして、男は、浮気相手に会いに行くのに車を使わず電車に乗ったり、デートではエコバッグやマイ箸、水筒を持ち歩いたりして、環境にやさしいゼロエミッションな不倫を心がけているということだ。

苦い文学

大好評につき

「〜につき」にはいくつかの意味があるが、「〜のため」「〜なので」と理由や原因を表すことがある。

「道路工事中につき迂回されたし」
「清掃中につきお足元にご注意ください」

などと、なんらかの要請をするのに使われる。有名な「その男、凶暴につき」というのも、例えば「警戒されたし」ということだろう。

理由の「〜につき」にはもっと景気のよい用法もある。

「業務拡大につき、スタッフ募集!」
「事業拡大につき、職員急募!」

とかよく求人広告で見かけるのがそれで、また次のようなものもある。

「ご好評につき、完売いたしました!」
「大好評につき期間延長!」

これらは「朗報用法」とでも呼ぶべきだが、今日、駅構内の洋菓子の売店でこんな張り紙を見かけた。

「好評につき全品半額」

「好評なので半額」というのは理屈に合わないように思えるし、もしかしたら、売れ残りの処分では……、という気もしないではないが、理由や実情はともかく、半額ならば買ってみようという人も多そうだ。

それはともかく、私はこの「好評につき全品半額」にひっかりを感じて、ずっと考えていたのだが、結局、ロシアが負けているのにさも勝っているような顔つきで動員しているのを想起させたからであった。

「戦線拡大につき兵士大募集!」というわけだ。ご存知の通り、実情は、どんなブラック企業もホワイトに見えるありさまだ。

この調子で行けば、ロシアは負ける、というのが大方の予想だが、きっとその時にプーチンはこう言い張るに決まっている。

「大好評につきキャンペーン終了!」

(蛇足だが、英語「campaign」の本来の意味は「軍事行動」だ。)