風刺・戯文

人類の繁栄

我々人類とネアンデルタール人が交雑していた、というのはもはや常識であるが、これはとりもなおさず、人類とネアンデルタール人が結婚していたということを意味する。いや、そればかりではない、離婚していたことも同様にはっきりしているのだ。

というのも、もしも両人類が末長くむつまじく添い遂げていたら、我々は今頃、ネアンデルタールとホモサピエンスの中間の人類となっていただろうからだ。

では、いったい、人類とネアンデルタール人はどのような理由で離婚したのだろうか? 性格の不一致、いや種の不一致だろうか? それとも、浮気だろうか? 相手が別の原人と手をつないでほら穴から出てきたところを写真に撮られて、それが動かぬ証拠となった、という可能性も否定はできない。

もちろん、離婚の理由は化石には残らないから、なんともいえない。だが、ひとつだけはっきりしていることがある。離婚後の子どもたちの親権は、必ず人類のほうが獲得したということだ。これが、その後の人類の繁栄につながったのだし、逆を言えば、これこそがネアンデルタール人絶滅の真因となったのだ。

現代も古代も、いい弁護士が大事だということだろう。

苦い文学

みんなで血税!

〜考えよう、血税のこと〜

【その血税批判、ちょっと待った!】
「私たちの血税を裏金にするとはけしからん!」
「私たちの血税で養われているくせに!」
「血税チューチュー党!」

よく聞きますね、こんな批判。ですが、どうでしょう、もしこれらの批判ばかりする人が「血税」を払っていないとしたら? そうですね、批判する権利などありません。

ですから、政府を批判する前に、よく考えてみましょう。

「自分は本当に血税を納めているのだろうか?」と。

【その血税、正しいの?】
「血税」とは、そもそも、血で払う税、つまり兵役のことでした。それが、「血を流すような思いで納める税金」という意味で使われるようになりました。

ですから、次のような納税は、血税には当たらないのです。

《事例1》
自分のための貧乏臭いの楽しみのために支払った「たばこ税」や「酒税」。

《事例2》上司の目を盗んでサボり、就業時間の9割が白昼夢に蕩尽されたその労働とやらから納税されたはした金。

[ここがポイント!]
血税とは、血の滲むような、血が流れるような、いや、もっとはっきりいえば、納税者自身が血を流して納めた税金のことをいうんだ。

【今こそ納めよう! 本当の血税!】
私たちが本当に国のために血を流したとき、それが血税となります。そして、そうした人だけ、つまり国のために血を流して斃れた人だけが政府にモノ申すことができるのです。

ですので、もし、日本政府を血税の無駄遣いだと批判している人がいたら、それはニセモノです。日本の敵なのです。決して許してはなりません!

あなたは日本の敵ですか? もしそうでないならば、日本のために血を流しましょう! 血を捧げましょう! 本物の納血税者となりましょう!(国血税庁)

苦い文学

匂わせ

いま人々をもっとも怒らせているものといえば「匂わせ」以外にない。そして、「匂わせ」るほうからすればこれほど気持ちのいいものもない。つまり、もっとも完璧な自慢なのだ。

普通、あからさまな自慢は、発信者の評価を下げる。だが、「匂わせ」にはその恐れはない。なぜなら、これは証拠を残さず自慢するやり方だからだ。もし自慢していると非難されたとしても、すっとぼければいいだけの話だ。証拠などないのだから。

さらに「匂わせ」は、ただの自慢話よりも聞いている人間にダメージを与える。自慢話は一回してしまえば少なくとも情報としての価値はなくなり、聞き手の関心を繋ぎ止めておくことはできなくなる。だが、「匂わせ」は情報のほんの一部しか提示しないから、かえって相手の好奇心を掻き立てるのだ。

「匂わせ」が多くの人にとって不快なのはこの点だ。「匂わせ」においては情報の主導権はつねに「匂わせ」発信者にあるため、受信者は劣位に置かれるのである。

逆に見れば、「匂わせ」により、発信者は相手に自慢ができるばかりでなく、情報の管理者として相手より優位に立つことができる。この一方的な関係が、「匂わされた」人々を大いに怒らせるのである。

しかも、発信者は、状況次第では「匂わせた」という行為さえ容易に否定することができる。「匂わせ」ほど、巧妙で、受信者に与えるダメージも大きく、それでいてリスクのない自慢はない、と言える。

SNS を通じて広まった「匂わせ」は、現代の科学と人間の知恵が融合した人類最先端の営みと言えるのではないだろうか。

苦い文学

21万円の行方

かつて、私はあるビルマ人の身元保証人をしていた。入管に収容されていた彼は、やがて仮放免されることになった。彼が用意した30万円の保証金を私が納めた。

仮放免中の人は、仮放免期間延長のために定期的に入管に出頭し、身元保証人の署名の入った申請書を提出する。

最初のうちは、私の署名をもらいにきていた彼だったが、やがて来なくなった。私は彼に電話をかけたが、その番号はすでに使われていなかった。後に、彼を知る人から「どうせまた捕まるなら仮放免など意味がない」といって逃げて、どこかで不法就労している、と聞かされた。

それからある期間が経ち、入管から彼の名の記された通知が届いた。「仮放免を取り消したので保証金の一部金 90,000 円を没収した」と書かれていた。

そこで、いずれ彼から直接連絡があるものと思って待っていたが、何も来なかった。やがて、私は忘れてしまった。

この通知から2年して、再び入管から彼の名が記された通知が届いた。見れば、こんなようなことが書いてある。

「仮放免保証金の還付手続がまだ行われていません、某月某日までに行わないと、会計法令の規定に基づき、国庫に納入されます」

残りの21万円のことだった。

私は彼が日本にいるのか、帰国したのか知らず、連絡先もわからなかった。

還付手続きに必要な「保証金受領証書」は私の手元にはなかった。あるとすれば彼のところだが、確認のしようもなかった。

「保証金受領証書」がない場合、警察に「なくした」といって遺失届を出し、「盗難又は遺失届出証明書」をもらって入管で手続きを進めなくてはならない。

だが、そもそもその紙を私は持っていなかったのだから、「なくした」というのは嘘だ。

わざわざ警察に嘘をつきに行くことはない、と考えた私は行かないことに決めた。忙しく過ごすうち、いつしか期限の日も過ぎ去っていた。

すると、先日、電話がかかってきた。彼からだった。今まで逃亡していたが、もう一度、難民申請をすることにしたというのだ。彼は言った。「保証金を返してください」

私が通知の写真を送り、事情を説明すると、彼は電話を切った。

今ごろ彼は、私が保証金を盗んだと、あちこちで言いふらしていることだろう。なんなら21万円を賭けてもいい。