苦い文学

タトゥーの理由

「私は不思議に思っていることがあるのです」といつもの人。

「なんでしょうか?」と私。

「いや、タトゥー、つまり刺青についてなんですが、どうしてあんなものを皮膚に刻み込もうなどと思うのでしょうか。その動機がわからないのです。あんな消せもできないし、消せたとしても大金がかかるものに。まったくバカげているではありませんか」

「私も動機は分かりませんが、人はそれぞれに考えがあるものです」

「いや、そんなものありませんよ。思うに、あのタトゥーというのは、自分になんに誇るべきもののない人間がコケオドシに入れるものですよ。きっとそうに決まってます」

「では、お聞きしますが、あなたはご自分にどんな誇るべきものがあるとお考えで?」

「それはもちろん学歴ですよ。早稲田大学という世界一の大学を卒業していますから」

「それは存じ上げませんでした。ご風体からは、そんな立派な大学を出てらっしゃるようには見えませんから」

「ええ、よくそう言われるのです。学歴とは目に見えないものですから」

「ならば、いっそのこと、誰もがわかるように『早稲田大学卒』とタトゥーを入れたらいかがでしょうか?」

「えっ、龍やチョウチョではなく学歴を? そんなことが可能で? ……ぜ、ぜひそのお店を教えてください……『早稲田大学卒』と、いやいっそのこと卒業証書まるごと……」