科研費とは科学研究費助成事業による研究費のことだ。これが「競争的研究費」と呼ばれるのは、書類を書いて応募して採択されなければならないからだ。採択率は3割以下と厳しいが、採択されれば、数年間は毎年数十万から数百万の資金を得ることができる。
この科研費に応募する資格が自分にあるかどうかわからないが、急にどうしても科研費が欲しくなり、このゴールデン・ウィークの期間、ひとり科研費獲得のための修行に出た。とある険しい山に向かったのだ。
滝行、断食、坐禅と写経の荒行に打ち込んでいると、見知らぬ老僧が私のもとに現れた。老僧は私の修行目的を聞くとこう語った。
「科研費獲得の決め手は応募書類にあり、と倶舎論にも記されている」(応募書類とは、研究課題、目的、計画などを記すものだ。)
「応募書類は審査委員が一読して、すっと頭に入るほど、わかりやすく書かねばならない。審査委員がイラついたり、首を傾げたり、目をこすったりするたびに、採択は遠ざかっていく」
私はこの言葉を聞くや、山に来て初めて筆をとり、科研費の応募書類を一気呵成に書き上げた。老僧はこれを読むと、手にしていた錫杖を激しく打ち鳴らした。するとどこからともなく三人の村人が現れるではないか。老僧は告げた。
「これらは山に暮らすヤフコメ民なる者どもだ。応募書類がこれら粗野な人々にもわかるようなものであれば、あなたの願いは成就しよう」
私は驚いて尋ねた。「いったい、ヤフコメ民になんの関係があるのでしょうか?」
「ヤフコメ民は科研費の応募書類の読み手として最悪の特徴をすべて兼ね備えているからだ。読解力が低く、粗探しが得意で、思いやりや想像力が欠如し、しかも反知性主義者なので科研費は左翼の公金チューチューだと頑なに信じ込んでいる。そしてなによりも恥ずべきドケチなのだ。これら戦慄すべき人々を納得させることができれば、いかなる科研費だろうとも獲得は思うがままとなろう。さあ、ヤフコメ民が読めるよう Yahoo! 電子申請システムにファイルをアップロードするのだ……」
私は、スマートフォンを取り出し、恐怖に震えながら、恐るべき電子申請システムにファイルを送信した。三人のヤフコメ民は直ちに応募書類を受け取り、唸り声をあげながら読み出した……。そのとき、老僧が再び錫杖を激しく鳴らした。あまりの騒々しさに私は気を失った。
目を覚ますと、あたりには誰もおらず、シンとした森が広がっていた。私は立ち上がり、思わず「あっ」と叫んだ。四体の地蔵が目の前に鎮座していたのだ。そのうちの一体は錫杖を持っている。
そして、三体の地蔵の足元を見ると、紙切れが置かれているのに気がついた。拾い上げて見ると「採択」と達筆で記されていた。