苦い文学

寮の儀式のおわり

「新入生よ!」 誰かが呼びかけると、その黒い物体がむくむくと起き上がり、人間の形となった。寮生たちはその人間を一斉に掴んだ。

誰かの手から火が放たれ、オレンジ色の輝きが見る間にその「新入生」を包んだ。燃え上がる人間を囲む寮生たちの口から、奇怪なチャントが吐き出され、その歌声が夜の闇に響き渡った……。

私にはそれからの記憶はない。気がつくと、どこをどう逃げ出したのか、近くの公園で倒れていたのだった。寮生たちは私を見つけると、寮に運び込み手当てをしてくれた。

私が正気づくと、寮長が笑いながら教えてくれた。この寮では毎年必ず退寮者が出るため、寮の存続が危うくなっていた。そこで、毎年、人形を象徴的に退寮させる儀式を行い、実際の退寮を防ごうとしているというのだ。ちなみに儀式で彼らが歌っていたのは寮歌であった。

寮長は私の肩に手を置いた。「驚かせてすまなかったが、来年度は驚かす側に回ってもらうよ」

「いやです」と私は震えながら答えた。「今すぐ寮を出ます」

寮長は困惑した顔で言った。「いや、これはぜんぶただの儀式なんだよ」

「皆さんには単なる儀式かもしれませんが、《彼ら》はそう受け取らなかったようです。あの儀式によって皆さんは図らずも呼び寄せていたのです」

「いったい、何を」

「ほら! ほら! あそこにも!」 私は興奮して指差した。「この寮には人のような黒い存在があちこちにいるんですよ! 見えないのですか? 寮長の真横にもいますよ!」 

その絶叫を最後に、私はわずかな所持物を持って寮を飛び出した。

1週間後、幸いにも新たな寮を見つけた私は、あの寮を再び訪れてみた。だが、静まり返って、もはや人のいる気配はなかった。

タチの悪い嘘に嘘で返しただけにすぎなかったが、結局、全員が退寮してしまったようだ。