苦い文学

シネクドキ

シネクドキは、比喩のひとつだ。『明解言語学辞典』では、「特殊なものによって一般的なものを表す、またはその逆方向の転用」とされる。

「特殊なものによって一般的なものを表す」とは、どういうことだろうか。たとえば「お茶に行かない?」や「お茶しない?」の「お茶」がよく例に出される。

ここでいう「お茶」とは、緑茶や紅茶でもありうる。だが、通常は「お茶に行かない?」というと、「喫茶店で何か飲まない?」という意味だ。だから、実際には「お茶」にはコーヒーやココアやレモンスカッシュなども含まれうる。

つまり、「お茶」という特殊なものが「飲み物」という一般的なものを表していることになる。

その逆の「一般的なものによって特殊なものを表す」例はなにかというと、「花見」がしばしば挙げられる。

「花見に行く」といっても、見にいくのは普通はバラやチューリップではない。サクラだ。つまり、「花見に行く」の「花」という一般的な名詞は、サクラという特殊なものを表しているのだ。

では、それぞれ配偶者のいる男女が、いっしょにお茶して、花見に行った結果、不倫に発展したとしたらどうだろうか。

「不倫」とは「倫理に反すること」を意味する一般的な語にもかかわらず、常に「配偶者のいる人が、別の異性と性的関係を持つこと」という特殊な意味で用いられている。不倫もシネクドキだったのだ。

だから、この2人についていえば、不倫関係というよりも、シネクドキ関係といったほうがより適切であろう。